Levi,
Eliphas (Alphonse Louis Constant) エリファス・レヴィ 本名 アルフォンス・ルイ・コンスタン (1810-1875) ☆ 西欧近代魔術復興の象徴。後年のフランス、英国の魔術師全員に多大な影響を及ぼしている。 1810年2月8日、パリの靴職人の家にアルフォンス・ルイ・コンスタンとして出生。生来病弱であったが、頭脳明晰であったため、聖職の道を歩むことになり、サン・シュルピス神学校に入学。 1835年、神学校在籍のまま助祭に任じられるが、翌年に少女に恋をして神学校を飛び出す。(別に少女と手に手を取って逃げたわけではなく、アルフォンスが一人で悩んだあげく、出奔したのである)しかし、彼の行動は信心深い母の自殺を招くという悲惨な結末となった。 実社会にほうりだされたアルフォンスは糊口をしのぐために寄宿学校の教師となったが、すぐに首になり、続く数年を旅役者として過ごしている。この時期に彼が面識を得て、深く影響を受けることになる人物としては、フロラ・トリスタンやエスキロスといった社会主義者が挙げられる。 アルフォンスの神秘的傾向は神学校時代から見受けられるものであり、当時流行していた「動物磁気」やスウェーデンボリに親しんでいる。それが、社会主義者との交流によって風変わりなユートピア論に変質し、かつマリア信仰から女性崇拝までが混然一体となって、この時期のアルフォンスの思想を形成していくのである。 1839年、やはり慣れ親しんだ信仰生活が懐かしくなって、ソレームの修道院に身を投ずるが、一年とたたずに浮世に舞い戻っている。その理由には二つの説があり、修道院内でスウェーデンボリなどの禁書を読んでいて追い出されたというものと、修道院があやしげな運営をされていたのでアルフォンスが見限ったというものである。 アルフォンスは次に田舎の学校の生徒監の職を得て生活を安定させ、1841年に社会主義と革命思想と神秘思想が入り混じった『自由の聖書』なる著作を発表、これが聖書を歪曲するものとみなされて、警察に逮捕され、牢獄にぶちこまれること七か月。当然、生徒監の職も棒にふっている。 出獄してからのアルフォンスは暫くおとなしく宗教画など描いていて、あたかも社会主義など忘れたかのような振りをしていた。彼は母方の姓であるボークールを名乗って司祭に復帰しさえしたが、やがて本名も前科も露呈してしまい、聖職キャリアは事実上この時点で終止符を打っている。 以後、家庭教師や著述で生命をつなぎつつ、再び社会運動にのめりこんでいくが、1846年7月13日、実に不自然な結婚を挙げることになった。アルフォンスは当時、ユージェニーという女学校の教師と付き合っていたのであるが、彼女の生徒で17歳になるノエミ・カディオもアルフォンスに夢中になり、押し掛け女房を敢行したのである。しかもその時、ユージェニーのほうも妊娠していたから話が複雑になっている。結局、ノエミの父親が怒鳴りこんできたので、アルフォンスはノエミと結婚しているが、ユージェニーも彼の息子を出産してしまった1。 1848年、いわゆる二月革命、第二共和制の誕生と前後して、アルフォンスの社会運動指向は徐々に下降線をたどっている。そして、1853年にいたってようやくエリファス・レヴィの登場となる。 社会運動家にして革命家であったアルフォンス・ルイ・コンスタンが突如として魔術師エリファス・レヴィに転身する契機は二つ、第一はアルフォンスが1852年に出会ったポーランド人の数学者にして隠秘学者ハーネー・ウロンスキーの影響、第二に妻ノエミの浮気と家出である。ウロンスキーの思想は「メシアニズム」とカバラの綜合物であり、アルフォンスがそれまでなし得なかった隠秘学とユートピア論の結合を示唆している点で、彼に与えた影響は甚大であった。妻の家出はそれまでの価値観の崩壊を意味している。 魔術師エリファス・レヴィと化した彼の第一の仕事は魔術師としての処女作『高等魔術の教理と祭儀』教理篇の執筆であり、続いてはロンドンに詣でて薔薇十字関係者に面会し、祭儀篇の資料を得ることであった。ロンドンではブルワー・リットンと出会い、彼の手引きで降霊術の実験まで行っている。 魔術師としてのレヴィはささやかな成功を収め、弟子に週単位で魔術を教えて授業料を取り、次々に著作を発表している。それでも彼のカトリックへの忠誠心は完全には消え失せておらず、1861年3月14日にはフリーメイソンリーに入会したが、カトリックに敵愾心を燃やす石工たちに付き合いきれず、退会している。当時世界的な流行であった心霊術に対しても、恐らくもっとも疑いようのない霊媒 D.D.ヒュームを槍玉にあげて攻撃している。(ただし、ヒュームをいかさま呼ばわりするのではなく、悪魔に騙されている犠牲者として非難するのである) 晩年のレヴィはパリの片隅でひっそりと暮らして、少数の弟子に食べさせてもらう日々であった。 1875年5月31日、 イエズス会会士に告解の秘跡を与えて貰い、死去。 レヴィの著作は歴史的事実や冷静な洞察によって読者を説得する性質のものではなく、強烈なロマンチシズムと比喩の連続で強引に魔術の世界に引きずり込む類いのものである。しかも彼はちゃんとした組織を率いたわけでもなく、その意味では前近代的な魔術師の系列に連なる存在であり、その温厚な人柄ゆえに山師・ペテン師のそしりからまぬがれたといえよう。彼の直弟子で魔術の世界に名前を残した人物はほとんどいないのに2、一方ではレヴィに会ったことを吹聴する輩が多いのも、魔術史に於ける彼の「象徴」としての立場を顕著に表している。 1. レヴィの結婚に関する記述はシャコルナックのものを参考にしているが、澁澤龍彦はユージェニーとノエミは母娘であったと紹介している(『悪魔のいる文学史』20頁)。シャコルナックの記述ではユージェニーの名前は Eugenie C. とされており、状況を考慮して記述に手心を加えた可能性は大である。 2. レヴィの有力な弟子としては、スペダリエリ男爵が挙げられる。 |
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主要著作 | Dogme et Rituel de la Haute Magie, Germer Bailli re, Paris, 1856.:(digest)
The Mysteries of Magic, Eng.tr. A. E. Waite, Redway, London, 1886.:
Transcendental Magic, Eng.tr. A. E. Waite, Rider, London, 1896.:
『高等魔術の教理と祭儀』教理 篇、生田耕作訳、人文書院、1982年。 Histoire de la Magie, Germer Bailli re, Paris, 1860.: The History of Magic, Eng.tr. A. E. Waite, Rider, London, 1913. La Cle des Grandes Mysteres, Alcan, Paris, 1897.: The Key of the Mysteries, Eng.tr. Aleister Crowley, Rider, London, 1968. Le Livre des Splendeurs, Chamuel, Paris, 1894.: first half as The Book of Splendours, Eng.tr. not mentioned, Thorsons, Wellingborough, Northamptonshire, 1973.: second half as The Great Secret, Eng.tr. not mentioned, Thorsons, Wellingborough, Northamptonshire, 1975. Cles Majeures et Clavicules de Salomon, Chamuel, Paris, 1895. La Science des Esprits, Germer Bailli re, Paris, 1865. Le Livre des Sages, Chacornac, Paris, 1912. The Magical Ritual of the Sanctum Regnum, Eng.tr. William Wynn Westcott, Redway, London, 1896.: Thorsons, London, 1970. The Mysteries of the Qabalah, Eng.tr. not mentioned, Thorsons, Wellingborough, Northamptonshire, 1974. Letters to a Disciple, ed. Christopher McIntosh, Eng.tr. Bertram Keightley, Aquarian, Wellingborough, Northamptonshire, 1980. |
参考文献 | Laarss, R.H.: Eliphas Levi, Rikola, Wien, 1922. Chacornac, Paul: Eliphas Levi, renovateur de l'occultisme en France, Chacornac, Paris, 1926. McIntosh, Christopher: Eliphas Levi and the French Occult Revival, Rider, London, 1972.: Weiser, New York, 1974. Williams, Thomas : Eliphas Levi, Master of Occultism, University of Alabama Press, Tuscaloosa, 1975. Mercier, Alain : Eliphas Levi, Edaf, Madrid, 1976. 澁澤龍彦『悪魔のいる文学史』中央公論社、昭和47年。 巌谷國士『幻視者たち−宇宙論的考察』河出書房新社、昭和51年。 |
関連ファイル | レヴィの魔法のランプ |
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