Other Masters 1


90 「馬上のトルコ人戦士」。 作者不詳。バルチ第十巻52頁28番
original size 110*165mm.

この作品は大部分、いわゆるドライポイント法で作製されたようである。細部に至るまで非常に気合の入った名人の作といえよう。バルチは原版が銅よりも柔らかい金属であったと推測しており、われわれもその点に同意する。上記の通り作者は不明である。この作品のスタイルから判断するに、生存年代は15世紀末から16世紀初頭であろう。


91 MZ”

サンドラールによれば、MZ とはMartin Zink 或いは Martin Zatzinger を表す頭文字であるという。Mathias Zingel であるとする研究者もいる。すなわちバルチも書いているように、以上の点は結局MZの正体が不明であるという十分な証拠であろう。MZの作品は端倪すべからざる繊細と熟練をもって仕上げられているが、スタイルはきわめてドライである。二つの作品のテーマから推測するにミュンヘンの住人であったと思われる。

ソロモン王の偶像崇拝」。
original size 153*186mm.

ゴシック文字にてMZの刻印、および1501という製作年が入っている。バルチ第六巻371頁1番。


92 URSE GRAF

16世紀初頭にバーゼルに住んだ作家。

頭上に座す死、下方に二名の兵士と貴婦人と愛玩犬」。
original size 120*205mm.

オリジナルは木版であり、GとVを組み合わせた作家のモノグラムと1524年という製作年が入っている。バルチ第七巻465頁1番。


93 ”FS”

上記の頭文字は Francis Stoss あるいは Stolzius の略と言われている。ドイツの作家であり、1475年頃に活躍している。バルチはこの作家の作品を三枚特定しているが、どれも大変に希少なものである。バルチがこの模写のオリジナルに与えた名称は

幼いイエスを左腕に抱き、右手でりんごを持つ聖母立像
original size 150*205mm.

である。作家のサインが右側底部に入っている。

94 "The Hopfers"

この一家は1520年から1530年にかけてかなりの数のエングレイヴィングとエッチングを残したようである。ただし一家の居住地は定かでない。一部の研究者はアウグスブルクではないかと推測している。一家のプレートはゴシック色が強く、なかなかの手練を示している。とりわけダヴィドあるいはダニエル、ジェローム・ホプフェルのプレートは上質である。

玉座に座して天使に治療してもらう聖ロクス」。
original size 155*235mm.

この作品はバルチの目を逃れているようである。


95 Jerome Hopfer

サルタン・ソリマンの横顔図」。
original size 155*235mm.

バルチ第八巻520頁57番。


96 カール五世の肖像」。バルチ、58番。
original size 155*235mm.

下段の刻印には作家の頭文字と1520年という日付が入っている。カール王の背後にある黒地と装飾は見事であり、鋼を素材とする甲冑師が用いる技巧が施されているようである。ホプフェル家の他の作例にも同様の装飾が見られる。


97 Lambert Hopfer

海獣を操るトリトン、海獣の尾に座す幼児」。
original size 160*230mm.

バルチ、531頁27番。

98 "HL"

以下の五作品を作製した作家はHLという頭文字のみで知られており、ときに1533という日付が加わることもある。きわめて繊細に処理されており、独創性にも溢れている。

キリストの受難の道具を運ぶ天使たち」。
original size 100*138mm.

バルチ第八巻35頁2番。


99 ドラゴンに勝利する聖ゲオルギウス
original size 75*125mm.

バルチ3番。


100 悲しみの人、あるいは茨冠をかぶり十字架の足元に立つイエス・キリスト」。
original size 75*125mm.

左上方に十字架の腕から吊るされるかたちの小さな看板があり、右上には1533という日付が入っている。バルチ、1番。
101 聖ドロテアの装飾」。
original size 75*110mm.

聖女が右側の高等司祭のまえにひざまづき、左側には処刑人が剣を振り上げて今にも首を切り落とそうとしている。以上の主題が楕円形のなかに圧縮され、葉と果実のリースで囲まれている。輪の上部に署名の入った板があり、下部に1533という日付が入っている。バルチ、4番。


102 男性、および腕に幼児を抱く女性」。
original size 95*134mm.

両名ともゆったりとした衣で半身を包んでいる。男性の頭部に翼の飾りがある。女性は右手に幼児を抱きつつ、同時に紡ぎ棒も保持している。足元には銘板があり、上述の署名が入っている。バルチ、9番。
103 ”NH”

 この頭文字もアウグスブルクのホプフェル家の一員をあらわすと考えられてきた。おそらく Nicholas であろうといわれている。
 バルチはこの作家の作品を12種類同定しており、うち数枚にNHの署名が見られる。この作品は

主が預言者エレミヤのまえに姿を現し、エルサレムの陥落を予言する様子
original size 122*170mm.

を描いている。日付は1525年となっている。これまで発見されたこの作家の版画作品はどれも1523、1524、1525のいずれかの日付が入っている。

104 ”IMS”

聖母子」。
original size 89*122mm.

バルチ氏はこの刻印を持つ第2の金属版画の存在を認めている。それは幼い救世主に果実を与える聖母の図であり、また木版のヘラクレスとオムファレスの図もある。署名自体に関してバルチはこれといった解説をしてくれない。この作家はおそらくフランドルないしドイツの人間であり、版画に残る日付から見ても、スタイル面で両地域の影響をある程度受けているといえるであろう。



図版 1-16 図版 17-19 図版 20-26 図版 27-42 図版 43-89 図版 90-104 図版 105-117


希少初期版画集トップページへ戻る