Peladan, Josephin (Sar Merodack)
ジョゼファン・ペラダン
別名 サール・メロダク
(1858-1918)


☆ フランス世紀末を代表する奇矯な魔術師。主に芸術運動を通じて活躍する。

1858年3月28日、リヨンにて出生。文芸的な家庭に育つ。若死にした兄が隠秘学に造詣が深く、その蔵書を引き継ぐことがペラダンのオカルト・キャリアの第一歩であった。なお、この兄はドイツ人医師が処方したキニーネを服用して頓死しており、ゆえにペラダンは生涯ドイツ・ゲルマン的なものに生理的嫌悪感を抱くことになった。
  成年に達して銀行員となるが、同時にいっぱしの芸術家を気取ってモンマルトル界隈に出没するようになった。やがて銀行も退職し、髪と髭を伸ばし放題にして異国趣味の衣装に身を包み、サール・メロダク(サールはアッシリア語で“王”、メロダクはカルデアの木星の神)を自称して注目を浴びる。無論、単なる気取り屋ではなく、両性具有神をテーマとした小説を発表してそれなりの評価も得ている。

 1884年頃からド・ガイタと交流を始め、1888年にはド・ガイタの「薔薇十字カバラ団」の幹部に迎えられているが、1890年には袂を分かって、「カトリック薔薇十字団」を創立している。訣別の理由は教義的なもので、元来熱烈なカトリックであるペラダンには、エリファス・レヴィに由来する象徴主義的な隠秘学は許容範囲内にあっても、ド・ガイタとその周囲にいるパピュスやウィルトの唱える「動物磁気」やフリーメイソンリー、仏教などは論外の異端と感じられたのである。
 ペラダンの「カトリック薔薇十字団」は単なるオカルト結社ではなく、彼の芸術的・宗教的・神秘的理想を現実世界に体現させるための機関であったといえる。ペラダンは「カトリック薔薇十字団」の主催として毎年絵画展を催し、また劇場やコンサートまでプロモートするなど、芸術全般に手を伸ばしている。

 このように派手な活動を行うペラダンに対して、業を煮やした「薔薇十字カバラ団」では1893年3月に宣言書を出して公的にペラダンを非難しており、“薔薇十字”を標榜する裏切り者とこきおろしている。世間はこの争いを面白半分に「薔薇戦争」と呼んだ。
 以降、ペラダンは独自の芸術活動を続け、厖大な著述をなしつつ日々を過ごしている。

 1918年6月27日、死去。

主要著作 Le Vice supreme, Librairie de la Presse, Laurens, Paris, 1884.
Curieuse, Librairie de la Presse, Laurens, Paris, 1886.
La Decadence esthetique, Dalou, Paris, 1888.
Comment on devient mage, Paris, 1892.
L'Art id aliste et mystique, doctrine de l'ordre et du salon des Rose Croix, Chamuel, Paris, 1894.

参考文献 Aubrun, R.G.: Peladan, Sansot, Paris, 1904.
Berthelet, E.(ed.): Lettres in dites de Stanislas de Guaita au Sar Josephin Peladan, une page inconnu de l'histoire de l'occultisme la fin du XIXe siecle, Paris, 1952.
Praz, Mario: The Romantic Agony, Oxford University Press, London, 1933.: 『肉体と死と悪魔』倉智恒夫他訳、国書刊行会、1987年。  
McIntosh, Christopher:Eliphas Levi and the French Occult Reivival,Rider, London, 1972.: Weiser, New York, 1974.
澁澤龍彦『悪魔のいる文学史』中央公論社、昭和47年。


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