Harris, Thomas Lake
トマス・レイク・ハリス
(1823-1906)


☆ 米国の神秘主義者、詩人、宗教家、性愛哲学の布教者。

 1823年5月25日、英国のバッキンガムシャーにてカルヴァン派の家庭に出生。幼少時に両親とともに米国に移住。長じてはユニヴァーサリスト・チャーチの説教師となるが、すぐにスウェーデンボリに傾倒して、同じくスウェーデンボリ系のアンドリュー・ジャクソン・デーヴィスと行動をともにするようなっている。

 1850年頃、デーヴィスと袂を分かってニューヨークで独自の説教活動を開始し、またトランス状態で一連の神秘的詩作を行う。その後、多くの信奉者を集めるようになり、1859年頃に宗教共同体「新生兄弟会」Brotherhood of New Life を創立して、いわば預言者と化す。1867年にはローレンス・オリファントが共同体に参加して、運動はいやがうえにも盛り上がった。この共同体には多数の日本人が参加しており、その点でも注目される。

 ハリスの思想はスウェーデンボリの両性具有神崇拝に東洋的プラナ
1の観念が奇妙に混合したものである。その思想の要点は以下のようなものであった。

 神及び天使は本来両性具有の存在であり、人間が愛するべき対象は、男子にとっては天使の女性的部分、女性にとっては天使の男性的部分である。この天使を「相対」 counterpart と称し、「相対」天使一名は二名の男女によって愛されるのである。二名の男女は同一の「相対」天使を愛するために結婚して、しかも純潔を守り通すことによって三位一体を完成させる。なお、神及び天使の愛は宇宙に満ち満ちていて、瞑想的呼吸を実践することで神の愛を得ることが出来る。



 結論として、男女が互いを抱擁しつつ天使に思いを馳せ、天使の愛を呼吸して全身に満たし、法悦に達するという修行が形成されたのである。

 またハリスは悪の起源を論ずるにあたって「暗黒惑星」の存在を提唱するなど、かつてないオリジナリティーを発揮している


 ハリスの共同体は後にエリー湖のほとりに居を移しているが、1881年にオリファントが離反している。ハリスの強欲と放縦に愛想が尽きたというのが表向きの理由である。

 オリファントの造反後、ハリスは本拠をカリフォルニア州サンタ・ローザに移し、おもに葡萄農園を中心とする農業にて共同体を維持。のちにこの農園は長澤鼎に引き継がれ、現在でも葡萄を栽培している。思想面の後継者としては長年にわたって秘書として仕えた新井奥邃があげられる。

 1894年、ハリスはついに彼の「相対」天使であるリリー・クィーンとの合体に成功したと主張、自分は不死の身になったと思い込んでいる。

 1906年3月23日、しかし不死の人ハリス、ニューヨークにて死去。

 ハリスが魔術界に及ぼした影響はこれまで余り論じられていないが、米国に於ける「セラフィータ・カルト」の先駆者として重要視されるべき存在である。「黄金の夜明け」団に対しても、ハリスの弟子であった団員エドワード・ベリッジが団内でハリス布教キャンペーンを行うなど、表面に出ない部分での影響が窺われる。


1. 1850年代の米国思想界ではヒンズー教系神秘思想が流行しており、リグ・ヴェーダの英訳などがよく読まれていた。ハリスの同時代人エマソンなどにその影響は顕著であり、梵天や彌勒などが彼の詩作によく登場している。
2.ハリスの説によれば、かつて太陽系にはオリアナ Oriana という惑星およびオリアナ帝国が存在した。この惑星の指導者ルシファーがすべての科学を極めたすえに思い上がり、神のごとくなろうとして堕落したという。惑星の民は善人派と悪人派に分裂して抗争し、ついには惑星自体が引き裂かれて宇宙の藻屑となった。しかし惑星の悪は分散せず、火炎状の暗黒磁気球体として太陽系内に軌道を有するとされる。たまに地球に降り注ぐ隕石はオリアナの残骸であるという。


主要著作 A Lyric of the Morning Land, Partridge and Britain, New York, 1854.
Arcana of Christianity, 1857.
The Breath of God with Man, Brotherhood of New Life, New York, 1867.
The Lord : the Two-in-One, Declared, Manifested, and Glorified, 1875.
The Wisdom of the Adepts; or Esoteric Science in Human History, privately printed, Fountain Grove, 1884.
Star Flowers or A Poem of the Woman's Mystery, privately printed, Fountain Grove, 1887.
The Great Republic, E. W. Allen, London, 1891.
The New Republic, Fountain Grove Press, Santa Rosa, 1891.
The God's Breath in Man and in Human Society, privately printed, Fountain Grove, 1891.


参考文献

Schneider, H.W., & Lawton, G.: A Prophet and a Pilglim: being the Incredible History of Thomas Lake Harris and Laurence Oliphant, 1942.



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