Oliphant, Laurence
ローレンス・オリファント
(1829-1888)


☆ 英国ヴィクトリア朝の著名な旅行家にして神秘主義者。前半生を世界を股にかける大旅行家として過ごし、後半生を奇妙な性愛哲学の信奉者として送る。

 1829年、南アフリカのケープ・コロニー州にて出生。続く21年間にスコットランド→セイロン→イングランド→フランス→ドイツ→スイス→イタリア→ギリシャ→エジプト→セイロンと渡り歩き、ネパールからロシアにまで足を伸ばして見聞を広める。この希有の経験を生かして、紀行作家として名をなす。クリミア戦争勃発の際は、半島一帯の地理地形に精通している数少ない英国人として陸軍省に招請されて将軍たちの前で講義を行う。以後、オリファントは民間諜報員の役割を果たすことが多くなっている。
 1854年、英国の外交官エルギン卿の秘書となり、カナダ、アメリカとの通商条約交渉団の随員となる。
 1857年、 アロー号事件で緊迫した広東にエルギン卿が派遣されると、やはりオリファントも随行して清国入りし、翌年、天津条約が批准される時期、エルギン卿とともに訪日する。
 1858年(安政五年)8月2日、日英修好通商条約締結のためにエルギン卿、長崎に上陸。海路下田に向い、幕府との交渉を開始する。オリファントはこの時の模様を逐一書き残していて、幕末外交資料として貴重である。
 1860年(万延元年)、オリファントは日本公使館の第一書記官に任命され、翌年に高輪の東禅寺に仮設された公使館に入ったが、ここで水戸浪士の襲撃を受けて斬られる。しかし、一命はとりとめ、直ちに帰国する。

 この後、オリファントは再び海外に出たり、新聞の特派員となるなど、精力的に世界を駆け回るが、1867年、突如として宗教家トマス・レイク・ハリスの弟子となって渡米、その後の生涯を神秘主義者として送ることとなる。不可解な転身といってよいだろう。
 オリファントの宗教哲学というか神秘思想というかは、奇怪なものであり、独特の聖書観によるところが大である。元来、神や天使に向けられるべき「愛」を人間同士に用いたのが堕落の始まりであり、人間が救済されるためには、一切の人間的性交も生殖も拒否して、ひたすら天界の「相対的天使」“counterpart”を愛さねばならない − この教義を基本として、両性神としての天使崇拝から集団結婚、瞑想的自慰、無射精遅延性交に至る理論を展開、なおかつ実行に移すためのコミューンを組織している。
 オリファントは1872年にアリスという女性と結婚しているが、この結婚も上述の展開にのっとったもので、妻として愛するためのものではなく、弟子として教育するためのものであったという。夫妻はパレスチナに移住して、シオニズムの先駆者ともなっている。
 1888年、アリスの死後、別の女性と結婚するが、新婚旅行中に病に倒れ、ロンドンにて12月23日に死去。

 オリファントは様々な人々に自己の思想を説いて回っており、当時の心霊主義者たちの間に多数の信奉者と多数の敵を持っていた。彼がオカルト界に及ぼした影響は一見する限り大したものではないが、コミューン制カルトの多くに共通する要素を典型的に体現している例として貴重であり、また、性魔術の先駆者として注目に値する存在である。

主要著作 Narrative of The Earl of Elgin's Mission to China and Japan in the years 1857, '58, '59, William Blackwood, London, 1859. :[抄訳] 『エルギン卿遣日使節録』岡山章雄訳、雄松堂書店、昭和43年。   
Sympneumata or Evolutionary Forces Now Active in Man, William Blackwood, Edinburgh, 1885.
Scientific Religion; or Higher possibilities of life and practice through the operation of natural forces with an appendix by a clergyman of the Church of England, William Blackwood, Edinburgh, 1888.

参考文献 Oliphant, M.O. Memoir of the life of Laurence Oliphant and of Alice Oliphant, his Wife, William Blackwood, Edinburgh, 1891.
Schneider, H.W., & Lawton, G.: A Prophet and a Pilglim: being the Incredible History of Thomas Lake Harris and Laurence Oliphant, 1942.
Henderson, Philip: The Life of Laurence Oliphant, Robert Hale, London, 1956.


参考図像 妻アリスの肖像


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