Gray, W[illiam] G[ordon]
W.G.グレイ (1913-1995)


☆ 魔術師。カバラ関係で厖大な著述をなしている。

 1913年3月25日、英国はミドルセックス、ハロウにて出生。体重が5400gを超える過熟児であったという。母親は舞台女優、父親は劇団マネージャー。父親は1次大戦勃発と同時に陸軍に志願し、インド勤務となる。結果として夫婦は別居となり、赤子であったグレイは祖母と伯母に預けられることになった。その後体を壊した母親の転地療養につきあってカナダのモントリオールに移住。少年ながら十分に疎外感を味わい、孤独な神秘傾向に拍車がかかる。母親の健康が回復したので英国はサウザンプトンに帰還。父親も合流してようやく親子が顔をそろえてぎくしゃく暮らすこととなっている。

 サウザンプトンでの生活は父親の船員業によって維持されることとなったが、のちに父親が地上勤務となると生活が逼迫。母親が職業占い師になることで家計を助けることになった。この母親は自称ノエミ・カディオ(エリファス・レヴィの逃げた女房)の生まれ変わりであり、霊感が強いかなりの変人であったという。グレイ少年は風変わりな家庭環境のなかでいよいよ神秘方面に傾斜していったと思われる。魔術に対する興味もこの頃に生じている。母親の交友関係を通じてアレイスター・クロウリーにも会ったことがあるという。14歳のときにはロンドンの内光協会本部に単身乗り込み、ダイアン・フォーチュンとの面会を求めて座り込む。フォーチュン本人に会うことは出来たが、21歳未満は入会不可と諭され、追い返されている。

 グレイ少年をオカルト指導することになったのはエミール・ナポレオン・ハウエンシュタイン(ENH)というオーストリア人であった。この人物はパピュスの知己でもあり、実生活では雑誌雑貨店の経営者であったという。グレイとENHは雑誌『オカルト・レヴュー』の通信欄経由で知り合っている。

 グレイ少年は学術面において理数系が苦手であり、上の学校に進むことが困難であった。グラマー・スクールを出たのち、しばらく職を転々としてから1930年頃に陸軍に入隊、基礎訓練をへて通信隊に配属され、勤務地はエジプトとなった。

 除隊後はサウザンプトンに戻り、航空会社の整備職につくが2次大戦の勃発とともに予備役召集がかかり、再び軍人としてフランスに送られる。1940年5月にはかのダンケルク撤退を経験し、神経的にダウンする。回復途上で配属されたグロスターシャーのチェルトナムが気に入り、序隊後も定住。この地にて手足治療師として開業する一方、あちこちに残る宗教遺跡や巨石を研究調査。また魔女術やドルイドの関係者と交友、その縁で夫人と知り合い、意気投合して結婚している。

 グレイは内光協会の通信教育を受講していたが、フォーチュン没後の協会の変質に失望。またオカルト=東洋という当時の風潮にも反発し、英国の伝統を強調するようになった。1960年代にはガレス・ナイトと共同して著書を発表。その後米国に於いて血統妄想と聖杯伝説をごっちゃにしたカルト「サングレイル」のグランド・ビショップとして活躍し、1995年に死去。

 西洋の伝統は西洋白人のためのものという確固たる信念の持ち主であり、人種差別主義者として批判されることも多い。



主要著作 The Ladder of Lights, Helios Book, Cheltenham, Glos., 1968.   
Magical Ritual Methods, Helios Book, Cheltenham, Glos., 1969.
Inner Traditions of Magic, Weiser, New York, 1970.
Seasona Occult Ritual, Aquarian, London, 1970.
Magical Images, Sangreal Foundation, Dallas, TX, 1972. [with Bruce G. Griffin]
The Tree of Evil, Helios Book, Cheltenham, Glos., 1974.
A Self Made by Magic, Weiser, New York, 1976.
The Talking Tree, Weiser, New York, 1977.
An Outlook on our Inner Western Way, Weiser, New York, 1980.
Western Inner Workings Sangreal Sodality Series Vol. 1. Weiser, York Beach, 1983.
Sangreal Sacrament: Sangreal Sodality Series Vol.2, Weiser, York Beach, 1983.
Concepts of Qabalah, Weiser, York Beach, 1984.
Sangreal Ceremonies and Rituals, Weiser, York Beach, 1986.
Sangreal Tarot: A Magical Rotual System of Personal Evolution
, Weiser, York Beach, 1988.
Temple Magic: Building the Personal Temple Gateway to Inner Worlds, Llwellyn Worldwide, St Paul, Minnesota, 1988.
Between Good and Evil: Polarities of Power, Llwellyn Worldwide, St Paul, Minnesota, 1989.
Evoking the Primal Goddess: Discovery of the Eternal Feminine Within, Llwellyn Worldwide, St Paul, Minnesota, 1990.
Growing the Tree Within: Patterns of the Unconscious Revealed by the Qabbalah, Llwellyn Worldwide, St Paul, Minnesota, 1991.
Qabalistic Concepts: Living the Tree, Weiser, York Beach, 1997.

参考文献 Alan Richardson & Marcus Claridge, The Old Sod: The Odd Life and Inner Work of William G. Gray, Ignotus, 2003.


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