Brodie-Innes, J[ohn] W[illiam] J. W. ブロディ−イネス (1848-1923) 魔法名 Sub Spe (5=6,G.D.) ☆ 「黄金の夜明け」団屈指の実力者と称される魔術師。エジンバラ支部アメン・ラーテンプルの創立者であり、団の教義と実技体系にタットワ等の東洋思想を持ち込んだ張本人でもある。 1848年3月10日、出生。父は牧師ジョン・ブロディーイネス。実家はスコットランドの旧家。 ケンブリッジ、セント・ジョンズ・コレッジにて法学を修め、1876年にエジンバラとロンドンで弁護士業1を開業。法律に於ける専門領域は教会法であったから、当然ながら教会史に精通しており、この方面の知識が後に魔術にも役に立っている。 1879年、牧師チャールズ・ヴォイシーの娘フランシス・アンズリーと結婚。一男一女をもうける。 ケンブリッジ在学当時から心霊術に興味を抱き、続いて神智学に傾倒、1884年には神智学協会スコットランド支部設立に力を貸し、後には実質上の指導者となる。2 「黄金の夜明け」団への参入は1890年、1893年にはエジンバラ支部アメン・ラーを設立している。 ブロディ−イネスの「黄金の夜明け」キャリアは曲折に満ちたものである。支部内でのいざこざは絶えず、1900年以降の「暁の星」団時代には権力闘争に敗北しているし、1908年には再度マサースに帰依してA.O.に参加するなど、災難続きといえる。いわば試行錯誤だらけの魔術追及人生であった。 1915年9月、第八サマセット軽歩兵連隊に所属していた息子ジョン・スチュアートがフランス戦線にて戦闘中に行方不明となる。また娘グエンドリン・メアリーの夫にして海軍士官パーシー・ストリックランドもユトランド沖海戦中、HMSダブリン艦上にて戦死。相次ぐ身内の死に接してふたたび心霊方面への傾倒が始まる。 晩年はA.O.を支えながら執筆活動を続け、1923年に死去している。 ブロディ−イネスは魔術書こそ残していないが、何冊もの小説を発表しており、「黄金の夜明け」団の中でも特に筆の立つ人物である。作品は題材をスコットランドに取材したウォルター・スコットばりのものが多い。 1. 日本語では弁護士としか訳しようがないが、ブロディ−イネスは従来伝えられている“Writer to the Signet"(スコットランド法に於ける事務弁護士、高等民事裁判所以下の下級法廷での訴訟を担当する)ではなく、スコットランドでは“advocate" ( 法廷弁護士)として、イングランドでは“barrister"(英法に於ける法廷弁護士、上級裁判所で弁論する特権を有する)として働いていた。 「神々やクリフォト的諸力や《秘密の首領》といえども、それらが実在するか否かは比較的にいってたいして重要なことではない。要点はつまり、この世界があたかもそれらが実在するかのように作用するという点にある。ある意味では魔術実践に関する全哲学はプラグマティストのそれと同一であり、アメリカ人哲学者ピアースの立場と同じものである」 − ブロディ−イネスのこの見解は様々な場所で引用されているが、ここに見られる適度の懐疑心と判断保留の態度は、スコットランドの法律家という彼の職業と無縁ではなかろう。アングロ・サクソンの習慣法を根幹としている英米とは異なり、スコットランドの法体系は古代ローマ法を基盤としているのである。このため、英米判決には“guilty"、“not guilty"の二種類しかないが、スコットランドには第三の判決“not proven”(証明出来ず)があるのである。 2. 英国の神智学協会ロッジはもともと心霊術信奉者の一団が集合して形成されたものであり、ブラヴァッキーが1884年に英国入りしてからは内部分裂が起きている。エジンバラの支部はロンドン本部から独立した活動を続け、神秘キリスト教に重点を置いている。ブラヴァッキーの死後、アニー・ベザントが協会の実権を握ると、ベザントを嫌ったブロディ−イネスはロンドン本部とほぼ絶縁状態になっている。1891年以降のエジンバラ支部はなかば「黄金の夜明け」団アメン・ラーテンプルと重なり合っている。 |
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主要著作 | Scottish Witchcraft Trials, privately, London, 1891. The Tragedy of an Indiscretion, Bodley Head, London, no date. Morag the Seal, Rebman, London, 1908. Old as the World, Rebman, London, 1909. For the Soul of a Witch, Rebman, London, 1910. The Devil's Mistress, Rider, London, 1915.: Sphere, London, 1974. The Golden Rope, Lamb, London, no date(1919). |
参考文献 | Gilbert, R.A.(ed.):The Sorcerer and his Apprentice,
Aquarian, Wellingborough, Northamptonshire, 1983. |
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