The Devil 悪魔

1909年6月27日に描かれた「踊る悪魔」。



 製作年月日から判断するに、『魂の道』に収録されなかった系列作品のひとつであろう。山から都市へと踊りくだる悪魔のシルエット、というわかりやすいイラストだが、他のホートン作品との差し替えもありうる一枚といえよう。

 ホートンにとっての「悪魔」は、具体的にはマモンであり、誘惑者として描かれる。思想的にはトマス・レイク・ハリスの「悪の起源論」の影響を受けていたであろうから、個人を誘惑するのみならず、高峰より下界すべてを見下す肥満した毒蛇となるのである。暗黒惑星オリアナのくだりを引用しておこう。

「かつて太陽系に存在した惑星オリアナ。道徳的堕落はこの惑星にて発生し、惑星自体を破滅へと導いたのである。オリアナは文明の絶頂にあり、住民は統一された帝国の民であった。この惑星にルシファーと呼ばれる最大の知性が生まれた。この知性は果てしなく発達をとげ、ついに理性と信仰の対立を見る高みにまで至った。そしてかれは自らの知性を中心として事物を判断するという誤った道を選択してしまったのだ。かくしてかれは宇宙の恩寵を失い、左道へと堕ちてしまった。宇宙に初めて生じた反作用の力ゆえに、オリアナには邪悪が出現した。オリアナの住民の半数はルシファーに従い、悪の道に走った。残り半分は善を保った。オリアナ人は二派に分裂した。善なる者たちは南半球に集い、悪なる者たちは北半球に残った。やがて悪陣営は善陣営にいくさを仕掛けた。惑星の均衡は破綻し、自転すら停止した。空は黄色い炎に包まれ、地表のあらゆる場所から紅蓮の炎が噴出した。惑星オリアナは崩壊し、善なる者たちは自らの神霊界へ転送された。悪なる者たちは炎の磁力球体へと凝固して最初の地獄を形成した。オリアナの衛星は軌道をはずれ、最終的にわれらの惑星の重力に捕らえられた。それが月である」

 そして地球を破滅に導く悪魔がマモンであり、その誘惑は個人レベルでも行われる、とそういう設定と思われる。ホートン的には栄華にも富貴にも惑わされず、ただただイデア的伴侶たるローザ・ミスティカを求めて魂の旅路を歩むのが正しいのである。

 ちなみにホートン自身は一生金銭には困らなかった稀有のオカルト関係者といえる。これといった浪費もせず、親類の死去により転がり込んでくる遺産はそのまま貯金したらしく、ホートン自身の死去時には遺産が現金で5000ポンド強(2008年8月時点の日本円換算で推定6000万円)はあったとのこと。

以下、参考までに『イメージの書』より2点を紹介しておく。


 
誘惑者 マモン



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