The Fool 愚者

A Child among the ways of men
I chose to walk the Earth :
Shadows of evil from me fall
And flowers spring to birth.

私は地を歩む姿として
数ある中より子供を選んだ。
邪悪の影は私より離れ、
花々は咲き始める。




 「かつてわたしはアイルランド教会の信者である若者が同様のトランス状態に入るさまを目撃したことがある。かれは西アイルランドの銀行員だった。かれもまたイブのリンゴは八百屋のリンゴと思っている人種にちがいなかったと思う。しかしかれもまた樹を見た。枝を伝いめぐる魂の嘆息も聞いた。そして人間の顔を持つリンゴを見た。耳をつけてみると中から万軍が戦い争うような音が聞こえたという。かれは少しのあいだ樹から離れ、エデンの周縁にやってきた。そこでかれが見たものは日曜学校で習った荒野ではなかった。かれは「高さ2マイル」という高い山の頂にいる自分を見出した。およそ通常の覚めた意識ではかけはなれた光景といおうか、頂上全体が巨大な城壁庭園となっていたのである。数年後、わたしはとある中世の図版を発見した。そこにはエデンが高い山の上にある城壁庭園として描かれていた」 (イエイツ 『魔術』)

 この一節がライダー・ウェイト・スミス版の愚者を生んだ、とするのが小生の持論である。RWSの愚者は断崖絶壁に向かおうとしている。ウェイトの解説によれば、

「かれは幾多の旅をする異界のプリンスであり、澄み切った朝の栄光の大気のなか、われらの世界を通過しようとしている。背後に輝く太陽はかれが何処より来たりて何処に向かうか、幾多の月日を経て別の道を伝いて戻りくるかを知る。かれは経験を捜し求める霊である」(ウェイト、『タロット図解』)

となる。すなわちエデンを出た霊が物質世界に下ろうとしているのであり、足元にいる犬は現世で存在するのに必要なアニマル的肉体をあらわす。手にする白い薔薇はイデア界の真善美すなわちエデンの象徴と見てよいだろう。薔薇をして婉曲なるエデン象徴と見なすという発想はイエイツの「元素の諸力への懇願」にも見られる。

「七つの灯火はおおくま座の七星であり、ドラゴンはりゅう座である。そしてこれらは、とある古い神話にあっては、生命の樹を取り囲んでいるとされる。この詩においては、生命の樹には“イデア界の美の薔薇”が咲いており、それが物質世界に投下されてしまうさまを想像している」(イエイツ、『ザ・ドーム』1898年12月号)。

1898年の時点でイエイツは「黄金の夜明け」団の高等教義「ドラゴン・フォーミュラ」を知っていたのである。ちなみに上述の一節はオルセア・ジャイルズのイラストに添えられた詩の冒頭部分にあたる。オルセアのイラストでは人魚が薔薇を一輪手にしている点が興味深い。

そして旅を終えた霊はふたたびエデンに帰還する。その様子を描いたのがホートンの絵である。付属詩句にもあるように、子供から邪悪の影が離れ、花が咲きはじめる。犬と別れたのち、かれの行く手にはまさに城壁に囲まれたエデンがあるのだ。RWS愚者の太陽とホートン愚者の太陽が、ほぼ同じ描かれ方をされているのも決して偶然ではないのである。

 



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