正しいタリスマンの製作法

How to make a Talisman
( and rule the world )


 そもそもとある物品を携帯所持することで不運を回避したり幸運を招き寄せるという発想は世界的なもので、いちいち分類していたらきりがない。

 今回は天然タリスマンと人造タリスマンという観点で考えてみましょか。

 たとえば川原で見つかるドーナツ石。真中に穴があいてる小石ですな。あれは幸運の象徴とされていて、たいそう有り難いものとされている。こういった自然発生的なものが天然タリスマンですわ。

 一方、黄金の夜明け団が作成するタリスマンは、惑星象徴やら印形やらを書きこんで聖別する円盤の類。これが人造タリスマンでありまして、目的別にあれこれ約束事が決まっている。材質からなにから細かい設定がなされておるのです。

 さて、天然にせよ人造にせよ、タリスマンというものは「入手困難」でなければいけない。まさに「ありがたい」必要があるのですな。いきおいタリスマンは貴金属や宝石、あるいは化石や珍獣の角なんぞになってしまう。あるいは魔法結社の奥義を用いて製作されるため、一般人には手の届かない貴重品となるわけです。

 でもって、本当に「ありがたい」のかどうかは別にして、とりあえず一般的人造タリスマンのコンセプトを見ていきましょう。

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 人造タリスマンの背後にあるコンセプトは「大宇宙小宇宙照応論」でして、本来は占星術に付随する補償方法論のひとつでした。ようするに個人のホロスコープを作成してみて、惑星影響力の過多や不足を検証する。でもって、たとえば火星が巨蟹宮に入っていて、影響力が衰えているとなれば、火星の力を呼び込むためのタリスマンを製作するわけですわ。

 一方、火星が天秤宮に入って悪しき影響力を振るっているとなれば、火星の力を弱めるためのアミュレットを製作し、携帯所持する。かつてO∴H∴は「アミュレットは絶縁体、タリスマンは電池」という名言を残しましたが、さらに付け加えるなら「タリスマンはレンズ、アミュレットは遮光板」というところですか。

 さて、だいたいフィチーノあたりが整理したと思われるのですが、大宇宙と小宇宙(人間)のあいだには媒体が存在し、その媒体を通じて照応するという論が生まれとるのですな。その媒体が“イマギナチオ”すなわち想像力なんですわ。

 ようするに人造タリスマンはしょせん単なる物品でしかない。単なる物品に大宇宙の諸力を感知して集約する力を授けるには、想像力を用いる必要がある。ではいかなる方法を採用するかとなると、フィチーノが採用したのはヘルメス・トリスメギストス作とされる『アスクレピウス』所載の降神術理論だったのです。

  「われらの祖先には、神々を信じず崇拝にも宗教にも敬意を払わないという重大な錯誤を犯した時期があった。その際に神々を製作するという術を発明したのだ。神々を発明したのち、新たに自然法則から採用した適当な属性を与え、すべてを混合した。魂を作ることはできなかったから、悪霊や天使の魂を呼びだし、聖なる儀式を通じて像のなかに押し込んだ。これらの魂を通じて偶像は善悪ともになしうる力を得ていた」 ― アスクレピウスより。


 ゆえに製作したタリスマンには想像力を用いて天使なり悪魔なりを宿らせるわけですな。正確にいえばこれらの天使や悪魔こそが真のタリスマンなのであって、人の手になる物品は単なる仮の宿でしかない。

 黄金の夜明け団に伝わる“テレズマ”天使はここに由来するのですわ。タリスマンの語源がギリシャ語の“テレズマ”なんです。テレズマは惑星の力を集約するレンズの役割を果たす人工的な霊体であって、タリスマンの正体でもあるのです。黄金の夜明け団ではここまで教えず、むしろ天使の名前からその姿を算出することに主眼を置いていたのですな。

 したがって正しいタリスマンの製作法は以下の如し。まず必要とされる惑星力を決め、その担当天使を割り出す。続いて照応論による適切な素材を用いた物品を製作し、それに担当天使のテレズマ像を充填する。タリスマンにあれこれ印形やら文字やら刻めという指示はブラインドであって、本質はテレズマ像の充填にあるのです。

 アラジンと魔法のランプの世界、といったほうがわかりやすいですか。物品に宿る精霊、というのがタリスマンの正体。魔法の指輪というのもだいたいこれ。出てこいシャザーン。

 そしてタリスマン魔術もいよいよスケールアップする場合がある。通常、タリスマン製作というと、自分用あるいは依頼者用にとんてんかんと細工仕事をするイメージがあるけれど、たとえば国家のためのタリスマン製作とてありうるわけで。わが国の運命を占った結果、どうも金星のご加護が得られていない。ゆえにアフロディテ神殿を建立し、大いに礼拝しましょう、となるわけで。

 さらにいえば、人類全体のためのタリスマン製作という大仰な作業も可能、というか、ダイアン・フォーチュンが考えていたのがこれ。『海の女司祭』では、マジカル・イメージとしての女神の構築というコンセプトが語られる。文明のため基本的生命力を失いつつある人類に、異教のセックス原理をカンフル剤として注入しようというわけで、よくよく煎じ詰めてみれば、タリスマン魔術に他ならないのですな。

 これくらいのことは黄金の夜明け団でも解説しててよさそうなものなのに、なぜか適切な文書が存在しない。Z2文書に若干の示唆があるものの、あれを読んだだけではまず理解できないでしょうな。

 ようするにテレズマ天使を物体に充填するという術は、テレズマ悪魔を物体に充填する術に容易に転化しますから、あまり突っ込んだ解説をやりたくなかったのでしょう。Z2には一応、「悪のテレズマ」なる表現があるのです。

 タリスマンは電池ですから、時間の経過とともに自然放電していき、最後はパワーダウンしてしまいます。そうなったら再充電しかないわけですが、新しいの製作するほうが手っ取り早いとされとりますな。

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 タリスマンの基盤物質に関しても若干説明しておきますか。

 どうもタリスマンといえば印形や名前を刻んだ羊皮紙や金属盤というイメージがありますが、タリスマンの本質がテレズマ像にある以上、テレズマ像さえ充填できれば素材はなんだってよいわけで。

 たとえば炎を基盤物質にすることだって可能なんですわ。蝋燭をともして、その炎にテレズマ像を充填するとか。

 あるいは液体でもよい。テレズマ像を充填した液体をガラス壜に詰めておいて、必要に応じて使う。

 気体をガラス壜に封印して、これを基盤物質にすることも考えられる。

 さらに理論的可能性からいうと、生物をタリスマンの基盤物質とするとか。もう式神やクダギツネの世界ですな。

 あ、わたしがほらを吹いていると思わないでいただきたい。お疑いの向きはZ2文書の護符のくだりをお読みくださいませ。表現の差異はあれ、同じことが書いてありますから。

馬鹿のテレズマ ←ちなみにこいつは「馬鹿のテレズマ」像なんでしょうな。

 基盤物質は私自身。やれやれ。


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