書評 


Red Cactus : The Life of Anna Kingsford

by Alan Pert

(Books & Writers, Australlia, 2006.)

paperback, 231pp.

ISBN 978-1-74018-405-2

 1970年、故フランシス・キングは著書『英国魔術結社の興亡』においてアンナ・キングスフォードに触れ、「この女性に関しては徹底的かつ本格的な研究が必要である」と記している。そもそもキングスフォード関連の基本資料は1896年に出たメイトランドの2巻本くらいだが、これが合理的編集の痕跡が見られない放置状態本であり、読み進むにはかなりの覚悟が必要であった。パートナーや信者が書いたものに正確な情報を求めるほうが間違っているのかもしれない。

 さてわれらの「赤いサボテン」である。歴史を通じて2冊目のキングスフォード伝となったこの書物の著者はアラン・パート、オーストラリアはシドニー在住の研究家である。十数年前にメアリー・グリアのGD書を読んでキングスフォードに興味を覚え、あれこれ調べるうちにネット上に研究サイトを立ち上げてしまい、周囲の勧めもあってついに出版にこぎつけたとのこと。題名の赤いサボテンはキングスフォードを象徴する花であり、本人が胸元に着用すること多数に及んでいる。

 アラン・パートの調査は精密である。1850年代の英国国勢調査資料に基づき、キングスフォード家の内情をありありと再現してくれる。裕福な船主の家に生まれたアンナがいかなる教育を受けたのか、その家庭環境がどのようなものであったのか -- たとえオカルトに興味がない人間であっても十分に興味深く読める内容である。

 さらに興味深いのはアンナの親友であったフロレンス・ミラーの未発表の自伝からの引用部分である。ミラーが描くアンナはメイトランドのそれよりも「生きている」。この個所だけでも定価を超える価値があるといえよう。

 無論、不満もある。巻末にあるメイトランド批判ははたして一章設ける意味があったのか。読者の大多数がメイトランドの2巻本を読んでいないと考えれば、いまさら瑕疵を云々してもしょうがないのではないか。またメイトランド批判ゆえに、それ以外に参照先がない情報をかなりの部分カットしたと思しきところもある。スペダリエリに対する言及が少ないのもやや失望であった。

 ともあれ100年ぶりに赤いサボテンが咲いたのである。読むしかないのである。

 

*さらなる情報、および購入に関しては著者のサイト Anna Kingsford Home Page を参照のこと。


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