アナンシーとジンギー・フライ


むかしむかしのある日、アナンシーは名付け親のウサギ夫婦に会いにいきました。アナンシーはウサギの家につくや挨拶をいたします。

「おはようございます、名付け親さま、今朝はさぞかしご健勝のことと存知候」

するとウサギのおかみさんが言いました。

「おやまあアナンシー! どうしていたかい。まずはお入りよ。うちのひとにも会っておくれ。おくのほうにいるから」

そこでアナンシーは奥に入り、ウサギのおじさんに挨拶をしました。それからおかみさんが、ちょっとうちのひとの相手をしておくれでないか、水を持ってくるからとその場を立ち去るや、アナンシーはウサギのおじさんを殴り殺してしまいました。おかみさんが戻ってくると、アナンシーは泣きまねをしました。

「あれまあ、これはどうしたものか。とにかくお前さん、うちの人を葬ってきておくれ」とおかみさんが言いました。

アナンシーは引き受けましたが、それにはラードを1ポンドとフライパンとパンが必要です、とつけくわえました。さらに穴掘りの手伝いにジンギー・フライを連れて行くといいました。そこでおかみさんはラードとフライパンとパンを渡しました。

アナンシーはジンギー・フライを呼んできて、ふたりでウサギのおじさんの亡骸を運んでいきました。墓地につくと、ふたりは焚き火を起こし、フライパンをかけ、ラードを溶かして十分に熱します。それからウサギのおじさんを放り込で唐揚げにし、ふたりですっかり食べてしまいました。残った骨は墓地に埋めておきました。ウサギでおなかいっぱいになったため、ふたりは歩くことすらできません。そこでタマリンドの樹のしたで横になり、そのまま眠ってしまいました。

やがて夕暮れのそよ風が丘から吹いてきて、かれらの目を覚ましました。

家に帰る途中、アナンシーはジンギー・フライに聞きました。

「家についたとき、おばさんになんと言うつもりだい?」

するとジンギー・フライが答えました。

「おじさんを食べあげたというつもりだよ。とてもおいしかったと」

するとアナンシーが言いました。

「ああ、そのとおりだな、たしかにそうだった。おじさんだってそのとおりと言うだろうさ」

しばらくしてからアナンシーは言いました。

「ちょっと舌を見せてみろ!」 そこでジンギー・フライが舌を出すと、アナンシーは鋭いナイフでそれを切り取ってしまいました。それでふたりが家に帰りついたときも、ジンギー・フライはしゃべることができません。いったいどうしたのか、とみんながたずねると、アナンシーは答えました。いや、あいつがウサギのおじさんとおばさんを馬鹿にして笑ったので、ぶん殴って口がきけないようにしてやったのだ、と。

そういうわけで、いまでもジンギー・フライはブンブンブンとしか言うことができないのです!


* ジンギー・フライ 屍骸にたかる蝿の種類

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