楽中の画


音楽のなかに絵画を見出す方はいらっしゃるだろうか? ベートーベンの交響楽やシューマンのソナタを聴くとき、不可思議な人物像や風景画が眼前に漂うことがおありだろうか?

作曲家にとって、創作の際に明確な画像を思い浮かべることは決して珍しくないという。シューマンは森の木陰で楽しく遊ぶ子供たちが突如出現した牧神に追われて逃げ帰る様子を見たとされている。

とはいえ、音楽から生まれた幻覚を詳細に描写できる人間はきわめて少数であった。メンデルスゾーンはおよそ画家とは言いがたい存在であったが、しばしばこの種の注文を受けて、そのたびに固辞してきた。「それは彫刻家に対して自作の像の肖像画を描いてくれと頼んでいるに等しい」とのこと。「すべての芸術はひとつでしょう。ちょうど人体がひとつであるのと一緒で。しかし手には手、足には足の役割があるわけです。音楽の機能は聴くことにあって、視ることではない」。とはいえ、音楽がその姉妹芸術に翻訳されるのを見ることができれば、それはきわめて興味深いものとなろう。そしてこれこそがミス・パメラ・コールマン・スミスという巧妙な画家が行ってきた作業であり、今回わが「ストランド・マガジン」において初公開される運びとなった。

コールマン・スミス自身の選定による作品をご覧になれば、どれもが驚嘆すべき手法で音楽を全体として伝達していることに気づかれるだろう。読者各位はご自分にこの音楽画喚起の能力が備わっているが否か、確かめてみられるがよかろう。次回、有名なソナタを聴かれる際、目を閉じて脳内視覚にいかなる映像が出現するか見てみるのである。音楽という魔術的影響力の下、この世のものでない光に照らされる不可思議な形象が垣間見られることもある。

「どうやってこんな絵が作り出されるのかという質問をよくされます」とミス・コールマン・スミスは語る。「これらは音楽のテーマに沿った画像ではありません。解説文から着想した絵でもなく、音楽に与えられた表題を意識的に解釈した絵でもない。単に、わたしが音楽を聴いて、そのときに視たもの、音という魔力によって解放された数々の思念、といえましょうか。

「絵筆を手にとり、音楽が始まる。そのとき、まるで扉が開いて美しい国に入っていくような。はるかかなたまで平原が広がり、山脈があり、うねる海原があります。音楽が音の網目模様を広げていくにつれ、そこに住む人々が場面に登場してきます。背の高い、ゆっくりとした身のこなしの堂々たる女王たちが、宝石をちりばめた宝冠をかぶり、派手あるいは地味な衣装をまとい、山の頂を歩み、あるいは渚にたたずんで水の人々を眺めている。水の人々は情熱を持ち合わせず、時を気にせずに揺れたり倒れたりしています。迷い波を押しやり、身をかがめ、まっさかさまに深みへと潜っていきます。

「大平原にも住人がいます。石で出来ていて、動かず、ただ座ったまま黙想しています。樹木は魔法の槍を持ったエルフに起こされるまでうとうとと眠っています。白くて高い塔がいくつもあり、暗い空を背景にそびえたっています。

はるかに見える白い塔たちは
雪の王冠の如く山頂にそびえ
その沈黙はあたりを鎮め
思念すら静まりかえる


「場面は変わり、槍を持った群集がどこかに急いでいます。日没とともに空は薔薇色から灰色になり、雲がたちこめてきます。

「長い間、わたしが聴いたベートーベンの国には誰も住んでいませんでした。丘も、平原も、廃墟となった塔も、海沿いの教会も、みな無人でした。しばらくたってから、はるかかなたから平原を馬で駆けてくる槍兵の小集団が見えました。しかし高鳴る海の波しぶきはあまりに激しく、元素的生命に満ちていました。波の騎士たち、手のなかに真珠のような月を持つ潮の女王、そしてインクのような海にきらめく泡があります。

「バッハを聴くとよくあることですが、空から鐘の音が聞こえてきます。茶色の衣をまとった乙女たちが持つ紐によって鳴らされています。空にはめずらしいほどの新鮮感があります。まるで山頂で迎える夜明けのような。オパール色の霧がいくつも漂い、お互いを追い回すように場面中を動いていきます。

「ショパンは夜をもたらします。庭園のすべての隅に謎と恐怖が潜んでいて、でも大気中には喜びと情熱が息づいていて、その場面全体に冷たい月の光が魔法をかけている。わたしがよく視る庭は、月光を浴びた葡萄の葉が茂っていて、薄い色の花びらを散らすうつむいた薔薇があり、背の高い霞んだような樹が紫色の空を背景にそびえていて、恋人たちがそぞろ歩きをしている。

「その庭を描いた絵を数人に見せて、わたしがこれを書いているときに聴いていた音楽を演奏してくれるかしらと頼んでみました。するとみんながためらうことなく同じ曲を演奏してくれた。その曲の名前はわたしも知らない。だけど、その場所の音楽は知っている、といったところでしょうか」

(以下略)

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