正しい死霊術

How To Become a Necromancer
( and rule the world )


 ええ、死霊術というのも今ひとつ得体が知れない代物ですな。こういう場合は字義的定義から入るのが筋でしょう。

 なんといっても“ネクロマンシー”、なのですわ。。字義的にいえば「死的占い」であって、ようするに死者の魂を呼び出して現在過去未来のことを教えてもらう。およそ世界中どの国にもなんらかの形で存在する由緒正しい術といってよい。

 形態はソフト路線からハード路線までさまざまですわ。ようするに死者の霊と接触して質問すれば、それでもうネクロマンシーなんですわ。一番簡単なのは、プランシェット作業でしょうな。はあ、こっくり、こっくり。

 次なる段階はイタコに代表される霊媒作業。完全主観の領域ですから、まあなにを言っても許される。

 さらなる実証を求める向きには、死霊喚起作業がありますぞ。術者は防護円に入り、円外に死霊を実体化させる。

左の図版はジョン・ディーが行ったとされる死霊術を描いたもので、各方面に紹介されていますから、だれでも一度はご覧になったことがあるはず。

 もちろんディーがこのような派手な真似をするわけがないのであって、水晶球霊視イコール死霊術イコールこんな感じとばかりに後世の絵描きが悪乗りして描いたものですわ。

 人間、悪評に包まれたまま死去すると、知らないところでどんな目にあわされるかわかったものではありませんな。

 死霊術もいよいよハードな路線となると、ちょっと不気味、かつ違法行為。死体を掘り返して、その中に魂を呼び込み、しゃべらせる。術が終われば埋め戻すわけで、大変ですぞ。

 最後はもう“リアニメイト”なる無茶苦茶な領域に入りこむわけで、ようするに死人を蘇らせる。わしゃ知らんからね、と記述するほうも投げやりになりますわ。

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 そもそも死霊術が成立するには、なんらかの死後世界観および魂の不滅論が前提となるわけです。このあたりのファンタジーは文化や伝統によって多様をきわめますが、おそらく世界一の詳細な設定を誇るのは道教でしょう。あの世に役所から銀行まですべてのインフラが整備されていて、相互連絡は当たり前、送金までできるというすさまじさ。個人的には、好きですぞ。

 ちなみに「黄金の夜明け」団では来世観をあえて整備しなかったのですわ。ヴィクトリア朝に大流行していた心霊術と一線を画すためにも、死者との交流などやりたくなかったからです。エジプト的転生論とカバラ的魂の構造論を並立させ、あまり深く整合させずに放置していますわ。あたらずさわらず、という姿勢が見え見えです。

 ダイアン・フォーチュンはこのあたりが不満だったらしく、『死の門を過ぎて』なる著作でこの問題を取り上げていますが、やはり不徹底な論述となってますわ。彼女の信奉者には神智学や心霊術のマニアが多いため、どうしてもそちらにウェイトを置かざるを得なかったのですな。

 クロウリーは基本的に転生論者ですから、死霊術には冷笑的です。『ムーンチャイルド』を読めばわかるとおり、愚鈍な妖術師の愚行としか見ていない。ただし、死霊術は一応可能とされてはいる。人間、死ぬとすぐさま転生するわけではなく、若干の猶予期間というかタイムラグがあり、その間なら呼び出すこともできるわけですわ。あるいは転生するもしないも自由自在という魂もいて(秘密の首領ですな)、ここらへんと接触することも可能なんですな。

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 さて冷笑的物言いをさらに続けると、すでにレジナルド・スコットのあたりから死霊術はバカにされておりますわ。プランシェットは自己暗示、イタコは詐欺で片付けられてしまう。喚起型死霊術は幻覚でおしまい。

 最高に笑えるのは、墓荒らし死霊術。ようするに人形のかわりに死体を使う腹話術なのであって、うまい術者にかかればなかなか凄いものだったでしょう。

 死霊術はそれでも形を変え、品を変え、これからも命脈を保つことは疑問の余地がない。死後の世界はいまだに、そして永遠に結論が出ないファンタジーだからですわ。

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