The Birthday Book of Fate illustrated


そこでマイケルは新たなるエレウシス儀礼のために象徴を描く話や、手に入るすべての魔術書を読んでいる話をした…それからマクラガンに尋ねた。あの全六巻を予定している大いなる通俗化の歴史はもう書き終えられましたか?

マクラガンは答えた。「いや、実のところ六章も書いてはいない。それどころか、こちらも食わねばならんから、定価六ペンスのカード占い本と夢占い本を書いてきた。これが小間使いや子守りの小娘たちに結構売れている。花言葉と手相占いの六ペンス本を書いてしまえば、おそらく市場には一匹のカモも残りはしないだろう。隠秘科学はかくの如き深みに落ちてしまったわけだ。随分と前の話だが、わたしはベーメの『黎明』と『大奥義』の新訳をやった。中世の神秘学をすべて網羅した書物といっていいが、出版してくれる会社は見つからずに終わったよ」 
Yeats, The Speckled Bird, (McClelland and Stewart, 1976) p.58

「挿絵入り誕生日占いの書」とでも訳しましょうか、1890年前後に出たバースデイブックの変種で、バースデイ・ブックに誕生日占いと夢占いを合体させ、適当にイラストをあしらった代物です。著者名はなく、版元も明記されておらず、単に Printed for the Booksellers となっています。サイズは174mmx114mm、携帯用としてはやや大きい。

すなわち上に紹介しているイエイツの『スぺックルド・バード』にあるマサース/マクラガン、彼が語る「夢占い本」に内容的、時代的に一番近いであろうと思われるのがここにある「挿絵入り誕生日占いの書」です。扉の文句の大仰さからして「雰囲気」があるのです。

THE

BIRTH-DAY

BOOK OF FATE!

FOUNDED UPON THE WRITINGS OF

FAMOUS ANCIENT & MODERN PROPHETS & SEERS!

WITH A CORRECT

INTERPRETATIONS OF BIRTH-DAY DREAMS,

AND THE NAMES OF CLEVER PERSONS BORN UPON
THE SAME DAY AS YOURSELF:

INTERLEAVED WITH RULED PAGES FOR THE NAMES
OF RELATIVES, FRIENDS AND ACQUAINTANCES,
OR ANY OTHER MEMORANDA.


さらに「本書を用いるにあたっての遵守事項」も記してあり、いわく

規則1 汝自身が所有する能力を養成せよ。汝と同日に誕生した賢者が有する能力を参考にすべし。天才はそれを授けられし幸運な人々がさらに日々の研鑽によって発達させるものなり。

規則2 誕生日の朝、朝食前に前夜の夢の内容を他人に語ってはならない。朝食からディナーに至るまで、三人以上の人間に夢の内容を教えてはならない。さもなくば夢の魔力は失われるであろう。すべての夢には魔法の数字が備わっている。

規則3 運命の成就をあせってはならない。およそ成就の見込みがないと失望してもいけない。「時間は奇跡を働かせる」と格言にもあるとおり、まったく期待していないときにありえないことが到来するものである。


そして具体的な月日と同日出生有名人、夢占いと運命の記述がはじまります。



6月21日 

この日に生まれた有名人:
アンソニー・コリンズ、自由と必要に関する著述家、1676年。

夢 :
日光。一年で一番日の長い日の夜に、窓から差し込む日光の夢を見るならば、驚くほど健康で医者知らずの男性が夫になるしるしである。

運命 :
庭の薔薇の手入れをしていると
馬に乗った紳士が通りがかり、
近寄ってきてためいきをとともに
結婚を申し込むであろう。



12月15日

この日に生まれた有名人:
ジョージ・ロムニー、肖像画家、1734年。

夢:
ダゲレオタイプ写真。この種の肖像写真を持っている夢を見るならば、それは恋人の母上から嫌なことを言われる予兆である。しかしすべてはあなたの説明によって明瞭になり、恋人も母上も納得するであろう。

運命:
不愉快な言葉は悲しみをもたらす―
あなたは二心ありと思われるであろう
古い書物のなかから人物の絵が見つかるがゆえ。
されど十分に説明をするならば
嫉妬は雲散霧消するであろう。

無論のこと小生とて、この出版物を執筆したのがマグレガー・マサースであったと主張するつもりはありません。マサースやアーサー・エドワード・ウェイトといった面々が匿名でお小遣い稼ぎを行うとすれば、こういったジャンルを選んだ可能性が高いと考えられるということです。

ヴィクトリア朝末期のそこそこの家庭では、一週間の特定の日を「アトホーム」 ATHOME と称して、紅茶を準備して訪問客を迎えます。そこにゲストブックというものが用意してあって、来客は署名プラス気の利いた文言なりを書き残していくわけですが、この「誕生日占いの書」もそういった使われ方をされていました。アトホームは適齢期の男女の出会いの場にもなりますので、誕生日に記してある同月日誕生有名人や夢を肴に会話を弾ませ、駆け引きをするのが狙いであります。そのための部屋がパーラーであり、そこで行われるちょっとした占い等はパーラー・ゲームと称されました。いわゆる心霊術もその発芽段階ではパーラー・ゲームの範疇に入ります。この方面は意外と奥が深く、かつ魔術組織論的に深刻な問題を秘めていると申せましょう。




BACK