妖精観察

ドーラ・ヴァン・ゲルダーの場合

 いかなる理由でかいまだに定かではないのだが、妖精観察という作業は神智学協会系の霊視者が行うのである。コティングレー谷妖精写真事件の際、神智学関係者E・L・ガードナーが首を突っ込んで以来、ジョフリー・ホドソンも参戦して現在に至っている。

 神智学では霊的存在のヒエラルキーを認めており、ディーヴァと称される地域支配霊から小石をひっくり返すと見つかる小精霊まで各種さまざま定義されている。ゆえに妖精を霊視することになんのためらいもなかったといえる。

 神智学系妖精観察者のいいところは、あれこれ悩まない点である。完全にバードウォッチャーののりで次々と童話そのものの妖精を紹介してくれるため、読者としてもあれこれ詮索する気が起きなくなってしまう。

 ジョフリー・ホドソンはすでに紹介しているから、今回はドーラ・ヴァン・ゲルダーを見てみよう。

 ゲルダーの伝記的事実はつまびらかではない。1904年出生、東洋にて育ち、ジャワ島に住む。その後にオーストラリアに移り、この地でレッドビーターの指導を受ける。霊視能力を隠すことはしなかったようで、新聞記者を連れて妖精見学ツアーを行ったこともあるらしい。最終的にはニューヨーク在住。

 次に紹介するものはゲルダーが14歳のときのエピソードである。読者は素直に読むべし。

「ずいぶん前のことですが、友人がわたしの14歳の誕生日をピクニックでお祝いしてくれました。場所はオーストラリアの国立公園です。一行のなかには他にも妖精を見ることができる子たちがいました。わたしたちは公園を流れる河の土手に座ったとき、気がつきました。友好的な妖精たちがなんだろうと藪のなかからわたしたちを覗いているのです。ここにくるのは初めてだったけど、妖精に満ち溢れている地域でした。やがてわたしたちはこの地域の天使と接触しました。(中略)その天使はある子がつけている宝石をちりばめた十字架にとても興味を抱いていて、自分も同じようなものが欲しいと言いました。当然わたしたちは、どうしてそんなものが欲しいのと質問しました」

 ゲルダーによれば、この天使は地域一帯を三つの地区に分割しており、各地域に力の中枢点を作っているのだという。十字架はその中枢点に用いるそうであり、ゲルダーたちは十字架をプレゼントしてあげると約束したのだそうだ。

 ゲルダーが他の妖精観察者と異なる点は、その会話能力である。妖精との意思疎通が可能なのであって、これは楽しいであろう。
 上記のエピソードの続きを紹介すると、宝石十字架を手にいれたゲルダーたちは、天使の指示にしたがって、公園のある場所にそれを埋めたのである。すると、澱んだ悪しき気が雲散霧消し、光が満ち溢れ、あたりに小妖精が無数に集まってきて輪舞を行ったというから、最高である。

 オーストラリアの森林に精霊がいるという話は比較的受け入れやすい。しかし、これが大都会のど真ん中となればどうだろう。

 「わたしはとある大新聞の要請に応じて、ニューヨークのセントラル・パークで妖精探しを行いました。ひとりもいないのではと思っていたのですが、まだほんの初春だというのに少数ながら妖精がいたのです。実のところ、かなりおもしろい妖精たちで、人間を見なれているためか、まったくものおじしません。人間が近寄ると少しさがりますが、怖がっている風はまったくないのです。目についたところでは、二種類の妖精がいます。一種は12インチくらいのエメラルド・グリーンの小型妖精です(中略)。もう一種は茶色と金色のまざったテディー・ベアのような妖精で、つぶれた顔をしてて、やぶのなかでごそごそなにかやっています。わたしはなんとかかれと会話をかわしました。新聞に載ることになるから、なにか特に言いたいことはないかと尋ねたのです。かれは注目を浴びるというアイデアには興味を抱いたようですが、新聞に載るということがまったく理解できませんでした」

 もっともゲルダーは20世紀に生きる女性である。妖精たちからは各種の抗議も聞かされる羽目になるのだ。カリフォルニアの樹霊からは、人間が森を切り裂き道路を造ることに対する怒りを表明されているし、シルフからは大気汚染をどうにかしろと言われてしまう。

 これまで引用してきたゲルダーの文章は、1977年に出版された『真実の妖精世界』所載のものである。すでに老齢となられたゲルダー女史が、大気汚染で霞むニューヨークの空を眺めつつ追憶とともに綴ったものであり、その心象風景を思うと、やはりあれこれ追及する気が起きない。

 妖精観察日記を読むと、自分の悪人たる現実を思い知らされるのである。
 そして悪人であることを自祝したくなるからおそろしい。

参考文献 Van Gelder, Dora. The Real World of Fairies, TPH, Wheaton, Ill., U.S.A.
 

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