魔術でダイエットする話

Diet Magic in Theory and Practice

第1部 理論篇

発端


 そもそも小生、2000年初頭あたりからブクブクと肥満しておったのです。

 原因はいろいろ考えられますが、禁煙が一番の要因ではないか、と。20年間吸いつづけた煙草を1999年秋にきっぱり止めましたのです(注1)。そのためか、それまでおおむね体重80キロで固定しておったのに、あれよあれよと。実に88キロに達してしまったわけで。

 ウェストも91センチから97センチに肥大し、顎は二重から三重へとたるみ、それはもう悲惨だったのであります。

 しかるに本人にはさして自覚がなかった。鏡を見たとて冷静な分析もせず、いつものように自己肯定するだけでした。

 この状況に一石を投じたのが運転免許の更新でありました。近所の警察署で受け取った新しい免許の顔写真を見て、さすがに「……」と考え込むはめになったのです。

★ 注1 小生が禁煙に及んだ最大の理由は経済的なものです。PCやネット関係の出費もばかにならなくなったため、なにか節約せねばと考えた結果、禁煙とあいなったわけで。電話代とプロヴァイダ料金分くらい簡単に浮きました。禁煙したのは今回が初めて。もう二年間一本も吸ってませんから、成功したといえるでしょう。たいしてつらくもなかったです。


魔術

 思えば魔術師たるもの、ナルシストでなければなりません。建前として「パーフェクト」を目指す以上、肉体面でもそれなりの水準を保つ必要があるのです。たとえばマグレガー・マサースは、中年になってもトレーニングを欠かさず、イエイツをして「体躯と声において完璧、不老不死のファウストもかくやとばかり」と言わしめております。あるいはGDの魔術師ジョージ・ポレクスフェンは「ウェストが髪の毛一本分でも太ろうものなら棍棒とダンベルを手にしていた。おかげで20年後、老齢になったときも、若い頃と同じ姿形を保っていた」と、甥が語っておりますわ。

 こういってはなんですが、魔術は外界に働きかけるとき、おおむねコケるのであります。金銭到来の術なんぞ、マサースやクロウリーといった超絶大魔術師といえども不可能であったわけで。しかし自分を変容する術であれば、話は別です。具体的相手がいないとき、魔術は最大威力を発揮するのであります。


土俵入りする魔術師の図

苦い味

 されど魔術師たるもの、ただファンタジーに浸るわけにはまいりません。上記の如く、偉大な魔術師たちとて日々のトレーニングを通じてシェイプアップしておったわけです。中央の柱や五芒星儀式でやせるわけがない。

 それに小生、実は激痩せを一度経験しております。それは1992年秋から1993年、あろうことか『黄金の夜明け魔術全書』の翻訳を引き受けたときのことです。あの大著を三ヶ月で訳出するというムチャをやったため、極度の運動不足その他が原因で三ヶ月で体重10キロ以上消失。その回復にえらい目にあったのです。

 あの時の轍は踏むまいと、今回のダイエット計画は綿密に練るのであります。


魔術的展開

 さて、ただ食事制限して運動するだけなら、あれこれごたくを並べる必要はない。ここはひとつ、ダイエットを「魔術作業」にしてしまおうと考えたのですな。

 そもそも小生、1996年に以下の文章を発表しておりました。古代祭儀復活法に言及し、スポーツ大会等はもともと生命力を神々に奉納するための手段であったと論じたあとで、

 「崇拝対象を決めて、個人的に汗を流してもよい……気に入った魔物を選び、それにエネルギーを奉納することで、魔物とのつながりを構築することができる……自分で汗をかくことが最良である」 『西洋魔物図鑑』124頁

 さよう、これから落ちてゆくであろう自分の血と肉を、神々ないし魔物に奉納するという形式にしようと思ったのですわ。

 日々のトレーニングを礼拝、食事制限を宗教的禁忌と考えればよい。そして減量行動をひとつの「願かけ」と見なす。そもそも願かけのさいには「○○断ち」が行われるわけで、五穀断ち、酒断ち、茶断ちなど、一種の規定食にはまちがいないのです。


さらなる魔術的展開

 ともあれダイエット行動を生け贄儀式として定義する以上、対象神格を決定しなければならない。さらには「願かけ」内容も決定し、魔術作業宣言をなす必要がある。この点、やや悩みますな。

 日本古来の雰囲気で語るならば ―― 武道家が自ら墨痕もあざやかに「香取大明神」や「天照大神」と書き上げ、軸として道場の床の間に掛ける。一礼をなしたあと稽古に励み、一礼をもって終わりとなす。すなわち奉献対象の決定、生け贄儀式の開式宣言、生命力奉献、そして閉式宣言ということで。

 これを、たとえばレメゲトン的に行うとなると ―― まずは天魔のタリスマンの作製。続いてトレーニング前後に軽い儀式ないし習慣的所作を行うといったところでしょう。

 さて、マルコやモリーのためにダイエットを行う。考えれば、いや考える必要もなくアホな行動であります。このアホらしさになんの意味があるかとお思いでしょう。しかし重要過ぎるほどの意味があるのですわ。これすなわち妖怪「三日坊主」の退治なのであります。

 ダイエットにせよ霊的修行にせよ、最大の敵は「三日坊主」であります。モティヴェーションの持続という観点に立った場合、なんらかの目標象徴を設定しておくことこそ肝要でしょう。


でもって自分の場合

 ダイエット召喚術(おお、なんというネーミング)の対象として、既存の神格や魔物を持ち出すのはやめにしまして、あろうことか「タロットの女神」のお出ましを願うことにしました。「黄金の夜明け」団では、タロットを統べる霊的存在としてHUAなる天使を設定していますが、まあそれに近い。小生は物理的次元において男性ですから、霊的領域の存在はどうしても女神像で捕捉しがちなのです。

 簡単に整理しますと ――

召喚対象 タロットの女神
召喚目的 自作タロットの完成
召喚期間 2001年1月より半年間
奉献物  自分の生命力を贅肉15kg分

 そして武道家が床の間に「天照大神」の軸を飾るが如く、小生も自室の一角に「タロットの女神」の額入り画像を飾ったのであります。

 ちなみに小生の思い描く「タロットの女神」は、O∴H∴タロット3シリーズ中の「女司祭」として表現されるのです。ようするに「女司祭」のカードを倍率200%で紙出力して額縁に飾ったわけで。この女神は、フォーチュンの『海の女司祭』から得たイメージを小生なりに処理したものなのです。自分の描いた絵を拝もうというのですから、ピグマリオニズムもここに極まっております。あとは山からおりてきたモーゼに石盤で張り倒されるのを待つばかり。


タロットの女神

第2部 実践篇



わかっちゃいるけど

 魔術師たるもの、現実を見据えねばなりません。ダイエットを魔術作業であると定義したからといって、腹の肉は1グラムとて落ちてくれないわけで。

 ダイエットに王道なし。特殊な食物や薬物に依存するダイエット法など、ろくなもんじゃないと思っております。人間はなぜ太るのか。それは摂取カロリーが消費カロリーを上回るからであって、余分が脂肪として貯蔵されるからだ。ならば摂取以上に消費すれば、貯蔵分を取り崩して充当することになるのだから、すなわち痩せる。実に簡単な理屈ですな。


 さよう、どうすれば痩せるかなんて、みんなわかりすぎるほどわかっておるのです。「食べる量を減らし、運動量を増やせ」。これだけ、これしかない。

 わかっているけど、それができない、続かない人が多い。

 この部分の精神的サポート、ここに魔術が入り込む余地があるわけです。


 小生、魔術は精神面の補助手段にしかなりえない、と思っております。補助手段としていかに有効であろうとも、具体的実行がなければただの暇つぶしですわ。

 ニュージーランドのオールブラックスのメンバーの講演を聴いたことがあります。かの世界最強のラグビー・チームは、試合前にバトルダンスを踊ることで知られております。話によると、あのダンスをやらないと実力の半分も出せないとのこと。すなわちバトルダンスは勝利のおまじないとしてきわめて有効なのですな。

 だからといってあのダンスだけ練習して試合に臨むバカはいないわけで。


具体策

 さて小生、2001年元旦をもって魔術的ダイエットに突入したわけですが、実践面におけるコンセプトは簡単です。食事は三度三度ちゃんと摂るけど、量はすべて7掛け。運動量は倍増。さらに無駄な糖分と脂肪分をカット。実に当たり前。

 考えてみれば、小生もよく食べておったのです。具体的に記しましょう。ダイエット以前のメニューときたら −−

朝 バター付きディナーロール六個、砂糖入りコーヒー二杯、ベーコンエッグ
昼 冷凍ピザ三枚あるいはラーメン等。砂糖入りコーヒー。
晩 肉食を基本としてご飯たっぷり。ビール。砂糖入りコーヒー。


これで体にいいわきゃないよ。わかっちゃいるけどやめられない、と。

 続いてダイエットメニュー。

朝 素のディナーロール一個。ブラックコーヒー。ヨーグルト。ゆで卵一個。
昼 キュウリのサンド。牛乳。
晩 トマト、ピーマン、ササミの酒蒸し、豆腐、納豆、ご飯一膳。


 ようするにバターと砂糖と油をカットして、炭水化物も減らしたのです。ただしタンパク質は同等かむしろ多めですな。

 無論のこと、間食は一切なし。もともと小生にはおやつ・スナック菓子などの習慣がなかったのも幸いしました。喉が乾けばウーロン茶。


デブ魔術師の図
準備

 魔術師は必ず魔術日記をつけます。ダイエットも同じで、専用のノートを準備してダイエット日記をつける必要があります。その日の体調、運動量、体重を記録しましょう。エクセルに打ち込むのもよい。一発でグラフ化してくれますわ。

 あと、絶対に必要なものとしては、正確な体重計。グラム単位で液晶表示されるやつがよいです。運動器具に関してはあとで述べます。


目標設定

 さらに重要なのは目標設定、および期間の限定です。何日かけてどのくらい痩せるかを決めなければならない。

 アブラメリン魔術は半年という期間限定で聖守護天使との接触を図るのです。だらだらと続けるのはつらいですわ。

 さりとて即効を求めて過激な手段に走れば破滅すること必定。このあたり、魔術もダイエットも一緒です。

 小生が設定した目標は半年で体重15kg減というものです。1ヶ月でだいたい2.5kg。

 ちなみに小生、身長は181cmです。理想体重の算出法はいろいろありますが、あまりひょろひょろしてもなんだということで、まあ181cmで75kg程度が適当かと思ったのですわ。でもって筋肉質でバネの効いた肉体が欲しいぞ、と。


魔術師鍛錬の図
1ヶ月目

 さて、食事制限のみでダイエットを行えば、筋肉もみるみる落ちてしまう。そしてある程度体重が落ちたからといって、食生活をもとに戻せば、落ちた筋肉のかわりに脂肪が入り込み、いよいよぶよぶよ。いわゆるリバウンドになってしまう。

 理想を言えば、脂肪は落とすが筋肉は増大するというパターンが望ましい。それには食事制限と筋力トレーニングを並行するしかないのであります。それも、脂肪燃焼のための運動、筋肉増大のための運動、これら二種を行う必要がありまして。

 だからといって、これまで怠惰にぶくぶくと肥満してきた身であります。いきなりハードな筋トレなんぞできるわけもない。

 ダイエット日誌によりますと、2001年元旦初日の運動は、ハーフスクワット50回を4セット、100回を1セット。それにブルワーカーという器具を用いたアイソメトリック系筋トレを1セット行っております。このハーフスクワットとは、膝を大して曲げずに1分間100回というペースで行うもので、ジョギングの代わりのようなものです。この日は初日ということで無理もせず、ちんたらと流しておるのですな。運動している時間は合計しても15分間程度です。各セット間には2分という長めのインターバルをはさんでいます。なお、運動の時間帯は午後十時頃、夕食が終わって落ちついてから。

 1月半ばになりますと、ハーフスクワット100回を5セット、ブルワーカー1セット。

 1月末には100回を10セット、ブルワーカー1セット。さらに午前中に腹筋運動、15回を2セット、10回を1セット行っています。

 1月末の時点で体重は1kg減ったかどうか。まだ準備段階でしかないからです。

 なお、ワンコとの散歩がほぼ毎日40分程度。これも大事な運動です。

a magician and his dog
2ヶ月目

 二月に入りますと運動が完全に筋トレ系の朝の部、脂肪燃焼系の夜の部に分かれました。朝は腹筋、夜はスクワット。まだ腹筋が弱いので、一度に回数をこなすことができません。たとえば2月5日の場合、腹筋は20回1セット、10回を4セット。計60回ですが、一気に50回連続で1セットやるほうが効果は高いのです。

 二月からはさらにダンベル運動が加わっています。1.5kgという軽めのやつを二つ、両手にもってカール。左右100回ずつ。この時期は、この程度の運動でも腕がパンパンになりました。

 続いて朝の運動にフルスクワットの変種も加えました。これは三秒かけて完全に腰を落とし、すっと立ちあがるという、かなりきつい運動です。しかもこのときに大事なことは、踵をあげないことです。裸足になって、足の裏をべたっと床につけて行います。これは20回1セットで充分です。

 夜の部のハーフスクワットも形式が定まってきて、インターバルは1分に設定。100回10セットを20分間で行い、さらにブルワーカー1セット。

 二月末での体重は85kg。かなり効果がはっきりしてきています。


3ヶ月目

 3月10日の運動量を見てみると

 朝の部は腹筋30回1セット、20回1セット、10回1セット、ダンベルカール200回、ダンベル万歳20回、フルスクワット20回。だいたいこれで30分程度。

 夜の部はハーフスクワット100回15セット、ブルワーカー1セット。計45分。

 かなり運動量も増え、効果があがってきています。この頃になると以前のジーンズがガバガバで買いなおしです。97あったウェストは91になっていました。内臓脂肪がみるみる減っていったのですな。

 「腹えくぼ」とでもいうのか、両サイドの肋骨の下あたりがへこんできました。

 体重も月末には81kgになっています。

 これまでギュウギュウだったショットのSC(注3)も楽に着れるようになり、思わずバイクでツーリングに出かけてしまうのでした。ついでながら、この頃からなるべくバイクに乗るよう心がけました。バイクというやつは、あれはあれでかなりの全身運動なのです。

★注3 Schott SC バイク用レザージャケットの定番。分厚い牛革のため伸縮性に欠ける。長年使い込んでクタクタにするのが筋。ウェスタン・ブーツに細身のジーンズ、ショットにレイバンというのが典型的なバイカーファッションであるが、デブがやると「大仁田厚」になるので要注意。


my Steed

4ヶ月目

 もう日々の運動は完全にパターン化しています。ほぼ毎日

 朝の部 : 腹筋50回、カール200回、万歳50回、ストレッチ、フルスクワット20回。所要時間30分。
 夜の部 : ハーフスクワット100回20セット、ブルワーカー1セット。所要時間1時間。

 なお、夜の部はTVを見ながら行います。心拍数を落とさないことが大事なので、インターバル中も椅子に座らず、適当に手足を動かします。

 4月末の体重は78.6kg。

BEFORE
5ヶ月目

 ダンベルを3kgのものに変更しました。運動パターンは一定です。

 朝の部 : 腹筋50回、カール120回(3kgになったため)、万歳50回、ストレッチ、フルスクワット20回。
 夜の部 : ハーフスクワット100回20セット、ブルワーカー1セット。


 5月末の体重は76.2kg。


6ヶ月目

 ほぼダイエットは完成しています。ダンベルを3kgに変更しても、すぐに以前の回数をこなせるようになっています。

 朝の部 : 腹筋50回、カール200回、万歳50回、ストレッチ、フルスクワット20回。
 夜の部 : ハーフスクワット100回20セット、ブルワーカー1セット。

 6月末の体重は74kgジャスト。ウェストは85センチになりました。ジーンズの買いなおしです。ユニクロさん、助かります。

 この時点でダイエット計画は完了です。顔も一回り細くなり、バイクのヘルメットも楽に入ります。

AFTER
7ヶ月目

 もうこれから先はダイエットではなく、シェイプアップ、ビルドアップの領域です。

 ダンベルを5kgのものに変更して

 朝の部 : 腹筋50回、カール120回、万歳40回、ストレッチ、フルスクワット20回。
 夜の部 : ハーフスクワット100回20セット、ブルワーカー1セット。
 
 なお、腹筋とフルスクワットの際には、5kgダンベルを両手に持って行います。加重10kgはかなりきついですけど、それくらいしないと効果があがらないのです。なにせ体重で15kg落ちているのですから。

 もう体重を落とす必要はないので、食生活はそのままにプロテインパウダー混入牛乳を毎日1リットル追加。この効果はまず太腿とふくらはぎに出ました。スクワットの際のパワー出力が明らかに上昇したのであります。

 体重は少し増えて74.5から75kgといったところ。

諸注意

 以上、きわめて順調に推移してきたわがダイエット計画ですが、注意すべき点もありました。

 まず、食事量を減らすことにより、便秘気味になるのです。だからといって下剤をかけるのも問題がある。紅茶が持つナチュラルな利尿効果あたりが適当でしょう。

 また筋トレには筋肉痛がつきものです。正直な話、エアーサロンパスは手放せなかったですな。


総評


 結局、半年間で15kgの減量に成功し、それでいて筋肉量は増大しております。持久力もつき、めでたしめでたし。

 ちまたに流行るダイエット法は、1ヶ月10kgとか3ヶ月15kgとか、強烈なものが多いけれど、1ヶ月の減量目標は最大でも体重の3%がいいところでしょう。小生の場合は1ヶ月で2kgちょい。さして無理でもなかったですな。

 さて、わが贅肉を15kg得たタロットの女神はいかなる存在と化したのか。

 それはこれからの展開を見なければわからないのであります。

 2001年9月4日 記。



追記

それから13年が経過しまして、タロットの女神は世界有数といわれる当博物館のパメラ・コールマン・スミス・コレクションやW.T.ホートン・タロットという形で顕現したようです。現在の小生の体重は77kg前後。禁煙もそのまま。ワンコとバイクは代替わりいたしました。

 2014年8月28日 記。


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