オカルト骨董入門

How to collect occult antiques

( and rule the world )


 なんですな。魔術マニアたる者、買うべき本はすべて買ったとなれば、あとはオカルト骨董の泥沼に足を突っ込むしかないわけで。

 しかしこれが奥が深すぎるというか。金がいくらあっても足りないというか。ともかくも手軽なところから攻めてみよう。

 オカルト骨董と一口に言っても、おおざっぱに三分野すなわち魔術、占星術、錬金術に大別される。当然われわれとしては魔術骨董を主眼に置くが、これがまたさまざまに分類されるのである。


 まずはこの二種であろう。発掘系遺物とは、具体的にいえばエジプトの遺跡から出土するスカラベ等の護符などを指す。骨董品としてはスタンダードである。本物はきわめて希少。このところよく目にするのがいわゆるグノーシス・ジェム。アブラクサスが刻まれた宝石や金属の類である。まずもって偽物。

 伝承系珍品とは、「魔女の箒」とか「妖精の帽子」といった物品であり、旧家に代々伝わってきたものが多い。これも贋作だらけの領域であって、およそ油断できないのである。発掘系にせよ伝承系にせよ、個人が手を出すのはやめたほうがよい。本物は博物館に展示してあるから、おとなしく見学するのが筋であろう。

 さらにいえば、なにをもって「本物」とするか、という問題もある。たとえば現在骨董市場で取引されている“本物の魔法の杖”の多くは、17世紀前後の演劇の小道具である。“偽物”は最近の小道具を古く見せかけたものである。いずれにせよ「本物の魔法使いが所持していた杖」ではないのだ。


 とりあえず間違いのない領域であろう。儀式用具の場合、主流はメイソンリー関連である。ヤッキンとボアズが刻まれた真鍮製の儀式剣、さまざまな記章などはごく普通の骨董店の店先に並んでいる。ただしこの手合いは骨董というよりはむしろ中古品である。メイソンリー関係は市場が確立されており、18世紀の名のあるグランドマスターのエプロンなどはどえらい値段で取引されている。記章の類も、ただの記念メダルもあれば、一流の職人が上質の宝石を用いて製作した逸品まで千差万別である。

 占術用具といえば、まずはオールド・タロットであろう。このところよく目にするのが19世紀末の石版イタリアン・デッキのデッドストックもので、3〜4万前後で取引されている。これが18世紀の木版タロットとなると値段が一桁はねあがり、17世紀となればさらに一桁あがる。16世紀のタロットはたいがい博物館に納まっており、15世紀ものは発見されただけでタロット史の書き換えにつながるであろう。

 占術用具としては水晶球も代表的であるが、実はヨーロッパに出まわっている骨董水晶球はその大部分が江戸期の日本製である。また水晶は年代測定が困難であり、その意味において骨董的興味が薄い。水晶は真円球に磨きあげられることが多く、カット云々という妙味もないのである。水晶球の場合、値打ちを決めるのはまず直径、傷の有無、それに台座や留め金の細工である。

 占星術は骨董分野においてアストロラーベ(天測儀)という目玉商品を擁している。とりわけ中世ペルシャ製のそれは精巧緻密な器具であると同時に繊細な彫刻を施された工芸品であり、コレクターも多い。いつだったかクリスティーズに出品されたアストロラーベが5万ドル近くで競り落とされたように記憶している。


 結局、このあたりが無難なのである。オカルト的デザインを施された装身具、雑貨の類は数も多く、値段も手ごろである。オカルト骨董を目指すなら、まずここらへんから始めるのが筋であろう。いきなり大金をはたいても面白いことはなにひとつ起きないに決まっているからだ。

 一応オカルト・アンティークを目指す以上、新しいといっても19世紀末くらいは必要であろう。

薔薇十字

19世紀末フランス製

14金の台座
ルビーとローズカットダイヤ
縦3.5p 横2.4p

店頭価格 約12万円


 上記の薔薇十字はO∴H∴関係者がベルギー国の普通の骨董店から入手したものである。ことさらにオカルト関係を強調して売られていたわけではないが、デザインを見れば薔薇十字を意匠したものであることは明白である。

 日常雑貨のなかにもオカルト的意匠を施されたものは多い。アクセントとしてオカルト関連が利用されているのであり、別段深い意味はないのである。が、それゆえに数も多いし、入手も容易。値段も安いから本物だの偽物だのと悩む必要もない。

陶製パイプ
水牛の角の柄
店頭価格 約7000円


 このクレイパイプは骨董というほど古い品ではないが、見てのとおりカドウケスが描かれており、それなりに面白い。現在、喫煙具関係は世界的な禁煙ブームも重なって市場価格が暴落しており、狙い目といえる。悪魔や魔女が彫刻された海泡石のパイプはよく出まわっている。

 このほか、矢立(やたて、昔の携帯筆記用具入れ)、文鎮といった文房具系統にオカルト的意匠を施されたものが多い。ようするに書斎を飾るためのものであろう。どれもたいした値段ではない。購入法としては、大規模な骨董市の際に自分の目で見つけ出すのが一番である。

 ヴィクトリア朝の小円卓(3本脚)なんぞもテーブル・ターニング用家具としてチェックしておきたい。ただし材質と細工がよければ相応の価格になってしまう。


アンティーク・マーケットの利用法
 

 たとえば観光でロンドンなりパリなりに行くとすれば、昨今はやりの骨董市に顔を出す機会も多いであろう。その際、オカルト骨董を入手するこつを伝授しておこう。

 まず大事なことは − 掘り出し物などあるわけがない ということである。骨董市はガラクタ市と心得るべし。業者はみなプロなのであり、真のお宝を青空マーケットに出すことはない。ありていにいってしまえば、万引きされてもかまわない程度の品を並べているのである。

 観光客はそういった品のなかからおもしろいものを探すしかないのであって、日本では入手困難なものであればそれでよしとするべきであろう。

 具体的な例を出すなら、怪しげなメイソニック・チャーター、あるいはメイソニック・メダルの類。やはり日本では売っていないのである。

 乾式写真板の心霊写真(よく売られている)とか、コティングレー谷の妖精写真のレプリカなんぞもよく見かける。たいした値段ではないから、好きな人は買うがよろしかろう。もう本物も偽物もないといえる。

 聖餐杯、磔刑像といった宗教用具もよく売られているが、よいものはそれなりの値段である。さらにいえば、この種のものを売買するのはやはり良い趣味とはいえないであろう。少なくとも観光客が思いつきで購入するものではないといえる。

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