蜂蜜の話

 このところ中世後期ものを中心にこつこつと探索しているのだが、面白い記述を見つけたのでメモがわりに一文まとめておくことにする。

 近代魔術の源泉たる「黄金の夜明け」団ではFour Elements のなかにさらにFour Elementsが存在するとしている。すなわち“火”がさらに「火の火」、「火の水」、「火の空気」、「火の地」というふうに細分化されていくのだ。それがタロットのコートカードに配属され、たとえば杯の女王は「水の水」、剣の王女は「空気の地」となっていく。

 しかるに中世にはエレメントの別分類も存在したのであって、それが四大の惑星分類なのである。すなわち各エレメントに七惑星の影響を認め、それが自然現象として発生するという発想なのだ。

 具体的にいうと、たとえば空気は七惑星の影響によって七種の物質に結晶するとされる。すなわち露、雪、雹、雨、蜂蜜、樹脂、マナ。惑星配属は諸説あるが、代表的なところは


月    露
水星   雪
金星   蜂蜜
太陽  雨
火星  雹
木星  樹脂
土星  マナ


 露、雪、雨、雹は気象現象であるからまあよい。問題は蜂蜜、樹脂、そしてマナである。

 実はアリストテレスが『動物誌』において、蜂蜜は星の作用によって大気から蒸留される物質であると書いている。それが花や薬草にたまり、蜂によって収集されるとのこと。これを典拠として旧約聖書にあるマナの件を「科学的に説明する」試みがなされたのである。

 下の図版はロバート・フラッドの薔薇十字擁護論『至高善』(1629)にある有名なもので、刻まれるラテン語は「薔薇は蜜を蜂に与える」の意である。そして蜜は花が分泌するものではなく、天上の叡智が凝固したものであるという寓意は、現在ではほぼ忘れられているのではなかろうか。




 やはり温故知新はあらゆるフィールドにて有効なのであろう。



参考文献: Lynn Thorndike, History of Magic & Expermental Science Book V



戻る