☆ 放浪者タロットの女帝は、偽妊婦です。神の子を身ごもったとか、悪魔を出産したとかいう触れ込みで寄付金を集め、みんなが冷静になるまえに遁走します。

 ドレスの腹のあたりに詰め物をして村々を回りますが、さすがにみんな疑いのまなざしを向けてくる。そこで一工夫。子犬を腹のなかに押し込んで、不信心者に触らせるという趣向。


 わけのわからないものを出産する偽妊婦は、中世では結構ポピュラーな存在だったようで、各地に記録が残っておりますな。代表的な出産物はガマガエル。

 あるいは神の子を身ごもったする、いわゆる“セカンド・マリア”も多かったのです。その実態も、信仰熱心のあまりの想像妊娠から意図的詐欺に至るまで、実に多様。

 “セカンド・マリア”の比較的新しい例としては、18世紀後半の英国に登場したジョアンナ・サウスコット(1750−1814)があげられましょう。だれやそれ、というのが正しい社会人の反応であって、「ああ、知ってる」というほうが問題です。

 敬虔なメソジスト派であったジョアンナは、四十過ぎてから突如「神の声」を聞いてしまい、次々と不穏な預言をなして信奉者を集めるようになりました。還暦を過ぎてからは、「神の子を身ごもった」と発表して世間の顰蹙を買っています。結局、神の子は陽の目を見ることなく、ジョアンナも婦人科系の疾病で他界してしまいました。

 下はジョアンナを戯画化した当時のイラスト。足元の犬に注目のこと。




カードの意味 : 妊娠、妊婦。想像妊娠。妊娠にまつわるトラブル、犯罪、詐欺。「始末してくるからお金ちょうだい」と言われると身に覚えのある男は弱い。

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