タロットに似たもの


暦図絵

タロットをイエスの生涯、聖人伝、占星術記号等のイコノグラフィーが一見とりとめなく一枚の画面にまとめられた印刷物と見なすならば、よく似た品物として16世紀中頃から一般に広まった「暦図絵」があげられる。あれこれ述べるよりも実物を見るほうが早いであろう。

暦図絵 部分(7月)


 上左の暦図絵は17世紀初頭の銅板画であり、サイズは38×76センチと大柄である。一画面あたりのサイズは約12×18センチ。部分拡大した7月を例にとると、正面手前に大きく扱われているのはマリアのエリザベス訪問、その背後に聖ヤコブ、聖クリストファー、マグダラのマリア改悛図、聖アンナが描かれる。画面最上部には雲間に獅子宮を表すライオン。ようするに7月の聖人祝日および記念日を同一画面に凝縮しているのである。いわば十二宮別に聖人や伝承を分類する作業であり、万物照応論の進展という観点からも興味深い代物といえよう。

 無論、一枚絵だけでなく、扉絵こみ13枚一組の暦図絵も数多く作製されている。あるいは「来月の祝日の御絵」という形で前月に切り売りされたこともあった。保存のためにカットされたシートを厚紙に張り付けた事例もあり、こうなるとカレンダー・カードとしかいいようがない。銅板による大量印刷の登場は幾多の営利事業を生み出したのである。

 この他、粗雑な聖人画を掲載する印刷物としては、15世紀末頃から登場した indulgence があげられる。一般には「免罪符」と訳されるが、正式には「贖宥符」という。教会や病院に寄付を行うと貰えるもので、ていのいい領収書といってよい。しまいには具体的な寄付金目的および寄付先を明示せぬまま販売される免罪符が登場し、そのあまりのいかがわしさが宗教改革を推進したとすらいえる。


上は安っぽい木版印刷による贖宥符の一例。16世紀初頭、エグゼターの教会病院が発行したもので、聖ロクスとラファエルと犬が描かれている。"The graces following be granted to all the brethren and sister benefactors and good doers unto the hospital of the blessed..."と読み取れる。


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