タロット聖人伝

巫女 the Sibyl

 タロットの「女教皇」を「書物を持つ神秘的女性」と解釈し、モデル候補としての「受胎告知」をあえて外すとすれば、残るは「巫女」すなわちシビルとなるであろう。無論、シビルはギリシャ・ローマ神話系の存在であるが、のちにキリスト教サイドにとりこまれ、キリストの誕生を予言した女性として崇拝の対象となっている。教会ではキリストの誕生を予言した巫女として十二名を認定しており、それぞれ地名を冠して呼称される。

 シビルは予言をなす女性であり、彼女の持つ書物には天地人の運命がすべて記されているとされる。

 あるときシビルが時の皇帝に九冊の予言書をとんでもない価格で売りつけたことがあるという。そのあまりの金額に皇帝が購入を断ると、彼女は三冊を焼き捨て、残る六冊を以前と同じ価格で売りつけた。皇帝が断ると、さらに三冊を焼き捨て、ふたたび同じ価格で購入を求めたのである。これには皇帝もまいってしまい、やむなく法外な金額で三冊の予言書を購入した。その書物にはローマ帝国の運命がすべて記されていたという。

 左はカスターニョが描いたクマエの巫女(1450年頃の製作)。


マルセイユ版の女教皇

 そもそも女教皇という存在からしてスキャンダルなのである。女教皇ジョアンナの伝説は、中世中期に生じたカトリック内部の権力闘争の所産といわれている。敵陣営を攻撃する材料として創作された存在らしいのだが、それが宗教革命の際にルター陣営によって再発見、再利用されたのだという。いわゆる黒魔術教皇ホノリウス伝説も同起源らしい。

 初期のタロットには女教皇の札が見当たらない。さらに後年にはジュノーに置きかえられるなど、やはりトラブルメーカーなのである。


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