タロット聖人伝

聖エリギウス (588?−660)

 エリギウス(仏語でエロア)はリモージュ近郊に生まれた金銀細工師であり、その腕のよさを見込まれ宮廷に採用されている。貨幣鋳造を任されるが、その敬虔さも評価され、司祭に任じられた。のちにノワイヨンの司教となり、フランドル地方に多数の修道院を建立している。

 金銀細工師や鍛冶職人の守護者として人気があり、その腕前に関して多数のエピソードが伝えられている。暴れ馬の蹄鉄を交換する際に馬から脚を取り外して作業し、また元通りに取り付けたという話が有名である。

 左はボッティチェリが描いた聖エリギウス。司教としてのフル装備スタイルであるが、多数の金細工製品をぶらさげている。この絵はフィレンツェのサンマルコ修道院内聖エリギウス礼拝堂に奉納された聖母戴冠図であり、スポンサーは金細工師ギルド。


 同じくボッティチェリによる職人姿のエリギウス蹄鉄交換図。この図は上の司教姿の下にプレデラとして描かれたもの。

 職人としての前掛けおよび帽子に注目せよ。



タロッコ・イタリアーノの魔術師

 そもそも「魔術師」のカードは「いかさま賭博師」系と「職人」系に分類されるのであり、タロッコ・イタリアーノのそれは「職人」の面影を色濃く残している。卓上に並ぶ道具はすべて細工のためのやっとこ、くぎ抜きの類であり、なによりも職人の象徴たる前掛けが明確に描かれるのである。

 タロットを聖人伝と見なす場合、聖エリギウスを魔術師に割り振るのが順当と思われる。エリギウスには鑿で杯を彫ったという伝説もあるからである。また、馬の脚を取り外すといったエピソードも、魔術師として語られるに充分なものであろう。

 エリギウスは金銀細工師であったから、当然ながら錬金術との関連も考えられるわけで、この点からも有力候補といえる。


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