タロット寓意その1
いわゆるタロットの大アルカナ22枚がいかなる寓意を表しているか、古来より議論が分かれているが、まずは一番素直というか基本的な解釈を見てみよう。 そもそも中世イタリアで生まれたとおぼしきタロットである。十五世紀前後のイタリアで広まっていた宗教画や寓意画の類を収集して比較検討することこそタロット研究の第一歩であろう。 今回取り上げるのはサンティシマ・アヌンツィアータ教会の銀器納具に描かれた連続画「キリストの生涯」である。作者はかのフラ・アンジェリコ(1387−1455)、1450年前後の制作と考えられている。もともとは41枚のパネルであったが現在では35枚が残っている。 まずは冒頭からの9枚を見てみよう。 |
1 神秘の輪 4 キリスト割礼 7 エジプト逃避 |
2 受胎告知 5 三博士礼拝 8 幼児虐殺 |
3 キリスト誕生 6 神殿詣で 9 教会で博士と話すキリスト |
さて、タロットの大アルカナ22枚中、上の連続画と明白な照応を見せるものは、まず「女教皇」であろう。2の受胎告知との関連は疑いようがないといえる。 |
中世宗教画の約束事として、受胎告知を受ける処女マリアには書物を持たせるのである。 大アルカナ「女教皇」が処女マリアであるとすれば、次なるカード「女帝」は懐妊したマリア(無原罪懐胎)の姿と考えられる。 さらに4番「皇帝」は幼児虐殺を行ったヘロデ王。 5番「教皇」は上の祭壇画の6「神殿詣で」ととるか、あるいは9「教会で博士と話すキリスト」ととるか。 |
大アルカナ6番「恋人たち」のカードの場合、やや憶測が先にたつ。およそ「恋人たち」なるモチーフはキリストの生涯にそぐわないのである。このカードは順番からいえばイエスの受洗にあたるのではないか。 |
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左はアレッソ・バルドヴィネッティ作の「受洗」。やはり連続画のなかの一枚である。ヨルダン川にてバプテスマの聖ヨハネから洗礼を授かるイエス・キリストの図であり、上空からは聖霊をあらわす白鳩が降臨している。「恋人たち」との構図的類似性が感知されうる。 以上、「キリストの生涯」を土台に大アルカナを考えてみたわけだが、若干の問題も残っている。1番「魔術師」はなにを指しているのか、また無番号「愚者」の位置付けである。 1番「魔術師」に関しては、「東方の三博士」ととらえるか、あるいは「大天使ガブリエル」で処理するか。後者でいくならば、直後の2番「女教皇=マリア」へとつながりもよいが、「魔術師」と「ガブリエル」では称号的にもデザイン的にも関連性が弱い。東方の三博士でいくならば、1番という位置がおかしいのである。 実のところ、「大アルカナ=キリストの生涯」という観点を導入する場合、1番「魔術師」、9番「隠者」、11番「剛毅」、16番「塔」の四枚がはみだす格好となってしまう。この点に関しては「タロット=聖人伝」という別観点を用いる必要が生じるのである。 ともあれタロット寓意の解釈は中世キリスト教の教義を基本に考えるべきなのであって、エジプトだのカバラだのを持ち出すのはずっとあとでよいのである。 |