薔薇十字医学

R.W.フェルキン博士



「かれらは病者を無料にて治療すること以外なにごとも公言せず」

 薔薇十字団員にとって医学はきわめて重要な主題である。わたしはこれから多数の手法を解説することになるが、その多くは非参入者には明かさない旨、欧州大陸の兄弟たちに対して厳格な誓いを立てていることをご理解いただきたい。

 薔薇十字医学は14世紀に興隆しており、団の一員であったパラケルススは近代化学の開祖と称してもよい。大昔には多様な治療法が採用されていたのであるが、現代ではほぼ使われなくなってしまった。当時、診断はすべて聴覚、視覚、触覚、嗅覚たよりであった。患者はまず目診され、骨相を調べられ、身体のほくろも調査の対象とされた。額の皺の数すら見る者が見れば大いなる情報となったのである。リチャード・サンダースが著し、1670年に出版された書物を瞥見されれば、私の言わんとするところが明らかとなろう。手相という手段によっても多数の情報が得られるのである。今日、われわれは聴診器や顕微鏡その他、精確な機器を用いて診断を下すのであるが、昔日の薔薇十字団員は慎重な観察と霊視力によって同様の成果をあげていた。

 まず私が注目したい一点は光の活動である。今日、レントゲン光線とラジウムという形で未知の光が発見され、その思いもよらない効果に接して医学界の光への興味は大いに高まっている。しかしこの分野の調査はいまだ徹底されたとは言いがたく、ラジウム療法のみならずレントゲン光線もさまざまな疾病の進行を食い止める効力があると宣言してもよいかもしれない。

 しかし欧州大陸にはかなりの数の薔薇十字医師がおり、光療法を近代化して七分光と薬品の併用による手法を開発している。過日私は光療法が行われているババリアの某研究所を訪問する機会を得た。同所の医師は薔薇十字団員であると公言しなかったが、まちがいないく団員であった。かれの研究所には7つの部屋があり、各部屋の中央には十字架状の寝椅子が置いてある。この寝椅子はフレームにカンバス布を張った細工であった。部屋の床も壁も天井もすべて分光の一色に塗られていた。患者は衣服を脱いで十字寝椅子によこたわる。患者の知らない間にある種の魔術的術式が用いられ、続いて扉が閉められる。そして電球が点灯し、患者に光を浴びせるのである。

 私は個人的に2色を試してみた。まずは赤色である。2分ほど寝椅子に横たわっていると、下腹部と脚の血液が上昇してきて、かなりの圧力で胸と腕と頭に集まるかのような感覚があった。頭が爆発するか、指先から血がほとばしるのではないかと思ったほどだった。しばらくしてから別の色を試してみると、まったく逆の効果が起きた。今度は全身の血液が下腹部と脚に送られたような感覚になった。思わず失神しそうになるほどはっきりしたものだった。すべての色の効果を確かめる時間的余裕がなかったので、本来知っておくべき事柄に関して知らないというのが実情である。1914年、わたしはこの方面の指導を受けようと旅行に出たのであるが、大戦の勃発により、旅行を完遂できなかったのである。

 次なる注目点は疾病治療に用いる薬草の煎じ薬である。悠久の昔より光は生命と結び付けられてきたのであるから、さまざまな治療形式に光が用いられてたとしても驚くにはあたらない。たとえば治療手段としての日光浴は珍しいものではないし、現代のX線治療もわれわれのよく知るところである。しかしここで考慮に入れておくべきは、蛍光に関する驚くべき実験結果であろう。

 蛍光という言葉は石油を太陽光の影響力に曝した際に生じる奇妙な現象を指す。すなわち石油が持つ通常の黄色味が青紫系の色合いを帯びるのである。他にもいくつかの例が知られている。たとえばキニーネ溶液は似たような青味を帯びるし、葉緑素をアルコールに溶かしたものを太陽光にさらすと血の赤色を示す。蛍光物質から発する光は滴虫類やバクテリアの開花を最大刺激する作用を有する。

 蛍光に加えて、考察に値する光現象が他にもある。それは無熱光と称される。太陽光に曝したあとで暗所に置くと光を放つ物質があることはよく知られている。美しい例としてはいわゆる蛍光石(硫黄、カルシウム、バリウム、ストロニウムの化合物)があげられよう。これらの石は数分間太陽光にさらしておくと、暗くなってから数時間かすかな光を放つのである。

 無熱光を放つ物質は植物世界にも多く見られる。ご存知のように、植物世界は鉱物という無機質を生命という有機質に変成させることで自然の女神に奉仕している。このプロセスは自然のサイクルにあってもっとも重要なもののひとつであり、太陽光照射の結果として発生する。そしてこれは植物によって恒久的に供給される物質の発生源でもあり、人間と動物はそれなくしては生存できないのである。「動物の力は植物よりもたらされ、植物の力は太陽よりもたらされる。太陽はすべての生命すなわち生命全体の力の源泉である」。

 ある種の物質は発光体を含有しており、"light-bearer"という名称で知られている。たとえばカルシウム、マグネシウム、ソーダ、カリウム、硫黄、燐などがそうであり、またこれらの物質が植物の生育に不可欠であることも常識であろう。これらはすべての植物に含有されており、植物の樹液類のなかに分泌されるのである。

 さて薔薇十字団員が以下の如く声明している。

 1 光と発光物質は生命にとってもっとも重要なものである。
 2 植物は発光物質と発光体を含有している。以上二つの事実からわかるように、さまざまな植物を適切に処理して調合すれば、光を与えるエネルギーを保持できるのであり、かくのごとくして得られた薬を治療目的に使用することが可能である。

 乾燥植物ないし溶液を用いるとなれば、光の生命力はかなり減衰するか皆無となる。一方、新鮮な緑黄植物から抽出される緑汁は生きた植物の光のエネルギーを含有しており、また発光体は常時太陽光に曝すことで活力を更新できるのである。私はこういった物品の見本をいくつかお目にかけることができる。私自身で試用してみて、ある種の疾病に効果があったと確認しているものもある。

 光を含有する蒸留物を得るには、適切な時期に植物を採取し、また精製に際してある種の儀式が必要となる。現在に至るまで44種の植物が内服薬として用いられており、14種類が塗布用に、さらに12種類が膏薬として使われている。

 現代の薔薇十字団員たちは製薬術を外部に漏らさぬよう注意しつつも、それらを一般の治療に用いないわけではない。自分たちのみで独占することに正当な理由を見出しはしないのである。ゆえに大陸には薔薇十字薬をその正しい服用法とともに入手できる場所が四箇所ある。私のささやかな経験からいっても、医学者はこれらの薬品の効能を試すべきだと確信をもって申し上げる。

 先に触れているが、かつて薔薇十字団員は診察に際して霊視を用い、それはいまでも変わっていない。ご存知のように、だれもが霊視者というわけではないのであって、ゆえに過去四、五百年にわたって霊視力を安全着実に開発する方法がある。その手順を理解しておくことはきわめて重要である。

 脳の基底部にある下垂体は神経経由の筋肉運動に大いに関係する磁気的流体と諸力を分泌すると考えられている。一方松果体はより電気的かつ磁気的な力流をチャージされ、人体の筋肉および栄養系統をコントロールする。これらの腺体は豆粒ほどの大きさしかないが、ミエリン鞘と脊髄のクモ膜へ二本の神経を送り込んでおり、ゆえにミエリン神経とも呼ばれる。それらはミエリン鞘の一部となっており、すべての脊髄神経は脊髄の出口において部分的にこれらと接触する。この位置はきわめて重要である。松果体は電気的力の発生場であるのみならず、意志力の座と考えられているからである。

 下垂体も松果体も臭球から力流をチャージされる。臭球はあたりの空気の電流からチャージされる。下垂体および松果体という貴重な腺からは神経線維が伸延し、尾てい骨に達し、その場からふたたび一本となって直腸と膀胱の括約筋、交感神経と神経端末に分配される。ゆえにこの種の神経のわずかな損傷が全神経系統に甚大な影響を及ぼし得る理由も理解できるであろう。

 転落等による尾てい骨損傷はこれらの神経に影響をおよぼし、でん部周辺のみならず、ずっと離れた部所の麻痺を引き起こしたり、精神錯乱に至る例もある。松果体が視神経交連の付近にある点に注目いただきたい。それは鼻の根幹部の背後、1.25から1.5インチの場所に位置している。そのため、眼球を反転させて松果体を見るよう努力すると、視神経と交連が引き伸ばされ、松果体が若干の刺激を受けるのである。

 薔薇十字団員は3種類の方法を用いて松果体を刺激し、超常的サイキック・パワーすなわち霊視、霊聴、超触覚、超嗅覚、超味覚を増進させていた。弟子は師匠の教えに忠実に従う必要があった。そうしないと頭痛や精神錯乱が激しくなる可能性があったからである。正しく用いるならばだれでも使える安全な方法であるが、ある程度若い頃から練習を始める必要がある。21歳から30歳あたりまでが望ましい。私の経験からいえば、30歳を越えると上達が難しいようである。

 フリーメイソンリーに見る3種の罰則合図すなわちアプレンティス、フェロー、マスターのそれに薔薇十字の三法を見出すのも興味深いものがある。さらにいえば、これら三法は全身の神経中枢33を刺激すると付け加えてもよい。そして33中枢はわれらの三十三灯、そして主が地上にあらせられた33年間に照応するのである。

 続いてタリスマンに関して若干触れておきたい。薔薇十字団員は昔も今も患者の治療にタリスマンを用いている。これらのタリスマンは儀式によって作られるのであり、実用にあたっては双方向に作用する。タリスマンの内部には一定の力が明確に貯蔵されるのであるが、自己暗示による作用も存在するのであり、患者は一定の時刻にタリスマンを眺めてある言葉を唱えるよう指導される。その言葉によって薔薇十字医師の指示を思い出せるという仕組みである。

 別種の暗示療法もある。患者は安楽な椅子に座すか横になって、目を閉じるよう指導される。それから、なにを言われようと気にせずに心を空白にする、あるいは病気や治療にまったく関係ない風景や場面を思い浮かべるのである。たとえば絵を眺めて細部にまで気を配る、あるいはどこかの大聖堂のなかにいる、はたまた有名な渓谷や山頂にいると想像するのである。とはいえ眠らないよう注意しなければならない。

 結論として、以上のヒントに関心があり、もっと調べてみたいと思われる方は、欧州にいるフラターたちと接触するようおすすめする。紹介状を書いてさしあげることは不可能であるし、簡単な作業とは到底言えないのであるが、求める者は探しあてるという格言もある。ただし探すという作業にはかなりの時間を要するであろう。

 ドイツであればフォト・ダイナミック療法を施してくれる薬剤師が5人いる。しかし現在の戦争が終結したのち、ドイツに赴いて施療を求めようという人にお願いしておく。決して薔薇十字という言葉を口にしないように。私はこれまでスイスではその種の薬剤師に出会ったことがない。

(続く)


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