ポール・クリスチャンのピラミッド儀式

The Pyramid Mysteries as told by Paul Christian



場所 ギザのスフィンクス

開始時刻 深夜


設定 

スフィンクスの前足の間に青銅製の扉が隠されており、そこから地下聖堂へ通ずる階段が伸びる。この階段は迷路となっており、不案内な者は知らず知らずのうちにスタート地点に戻ってしまう。

 志願者が試練を通過できなかった場合、儀式はそこで終了となる。志願者が得られる位階は終生その時点までのものとする。

 深夜、志願者は目隠しをされてスフィンクスの足元に連れていかれる。青銅の隠し扉からなかに入る。
 二十二段の螺旋階段を降りるとさらに青銅の扉があり、それを開くと円形の部屋に出る。内装は花崗岩製。





1 大鎌の死神の部屋
2 奈落への梯子
3 22枚のアルカナの回廊
4 炎の壁
5 地底湖
6 開かずの扉とトラップフロア

試練 1 
 
 目隠しをされた志願者に、目の前に断崖絶壁があり、一歩踏み出せば奈落の底に転落すると告知する。「釣り橋を降ろしてもらうにはまだ時刻が早い。しばしその姿勢のまま待て。目隠しを取ってはならない」

 志願者が直立不動の姿勢でいるあいだに、参入者二名は急いで着替えをする。白リネン、金銀ベルト、獅子頭のマスクと雄牛頭のマスク。
 (白は術士の純潔の象徴。金は太陽、銀は月の金属。獅子頭は太陽のゲニウスの座。雄牛は月のゲニウスの座)

 参入者が仮面をつけ終わると、地面の隠し扉が轟音とともに開き、中から機械仕掛けの妖怪が大鎌を持って出現し、叫ぶ。「死者の平安を乱す者に悲しみあれ」。志願者の目隠しをはぎとり、三体の怪物(獅子、雄牛、妖怪)と直面させる。妖怪は大鎌を振り回し、志願者の頭を七回かすめる。このとき気絶したり、逃げ出したりしたら試練は失敗となる。

試練 2

 別室へ続く隠し扉が開くが、あまりに狭いため這って進むしかない。志願者はランプをひとつ手渡される。「この道は万人が安らぎを見出す墓に続くものなり。されどふたたび目覚めるときは物質の束縛から逃れて新たな霊の夜明けを迎えるであろう。そなたは死神を追い払った。されば進み、墓の恐怖に打ち勝つべし」
 志願者が進むのをためらった場合、しばらく無言のまま見守る。だめなようなら目隠しをして外に連れ出し、儀式終了となる。

 志願者が狭い穴に入っていったあと、穴の入り口がふさがれる。「知識と力を渇望する愚か者すべては滅びよ」という不気味な声がこだまする。

 狭い穴は進むうちに広がっていくが、床面は傾斜しており、ほどなく逆向き円錐形のクレーターの縁にたどりつく。鉄製の梯子が取り付けてあるが、底のほうは真っ暗でなにも見えない。

 78段の梯子を降りるとさらに横に続く隙間があり、そこに入ると螺旋階段につながる。


22のアルカナ

 *この部分は当該個所を参照のこと。



試練 3

 アルカナ伝授を終えた志願者はさらに細い通路へと案内される。この通路の行く手には炎の壁がある。しかしこの壁は単なる視覚上の効果でしかなく、志願者は比較的余裕をもって通過できる。しかしいよいよ末端にくると行く手にはどれほど深いかわからない池があり、引き返そうとしても今度は本物の炎の壁が出現する。志願者は進退きわまってしまう。

 やむなく志願者は水に入る。水は徐々に深みを増し、志願者の肩の深さに至る。さらに歩を進めると水は浅くなり、対岸にたどりつく。対岸には三方を高いアーケードで囲まれたひな壇がある。その奥には青銅の扉がある。観音開きの細工で、中央に金属の輪を咥えた獅子が彫刻されている。この扉は開かない。またひな壇の床は金属管で出来ている。

 びしょぬれの志願者が扉のまえにようやくたどり着く頃、対岸の炎の壁が消える。ふたたび闇と静寂が支配する。

 試練 4

 そのとき闇のなかに謎の声が響く。「止まれば滅びるであろう。そなたの背後には死があり、そなたの前には救済がある」

 志願者が扉の細工を点検し、ノッカーとおぼしき獅子の金属の輪をつかむ。その瞬間、機械仕掛けによって床の金属管が崩落し、志願者は宙吊り状態になる。

 *実際の危険がないように穴には安全ネットが設置されている。またパストフォーレスが隠れて待機しており、志願者の腕を掴んでひきあげる算段となっている。

 志願者がなんとか転落せずにすむと、床はふたたび元の位置に戻り、青銅の扉が開く。12名のネオコアを率いる指導者が現れ、志願者にふたたび目隠しを施し、スフィンクスから大ピラミッドへと続く最終回廊へと案内していく。定期的に隠し扉の通過があり、そのたびに門番とのあいだで合言葉と合図が交わされる。

 試練 5

 大ピラミッド中央の地下室にて「術士の学舎」が新参者を待ち受ける。この地下室の壁面には四十八の歳霊、七惑星霊、三百六十五の日霊をあらわす象徴絵画が描かれる。四隅には三角柱の上に載る四聖獣のブロンズ像があり、三本枝のランプが七基、天井から吊るされている。中央の壇上にハイエロファント用の銀の玉座。ハイエロファントの衣装は紫衣に七星金冠。他の術士たちは白衣金冠をまとい、一段低い床面にてハイエロファントの両側に3人ずつ半円を描いて整列。
 ハイエロファントの背後に七金属の合金からなる巨大なイシス像。十二光線の房飾りを持つ銀の三角冠、胸元に黄金の十字と薔薇、両腕はやや開き気味に前へ突き出され、指先からは地面に向けて計十本の光線が放たれる。

 地下室中央には巨大な銀の円卓。ホロスコープ図が刻まれている。この円卓は機械仕掛けであり、回転可能。中央には七惑星を示すポインターが取り付けられている。

 ハイエロファントがいまだ目隠しをしたままの志願者に覚悟のほどを問う。
 志願者は「覚悟あり」と答える。
 志願者はひざまずき、脇から教えられる誓約を唱える。「違約ありしときは死をもって償う」。
 ハイエロファントが志願者の参入を確認し、宣言する。
 志願者は第二の誓い(ハイエロファントへの絶対服従)を唱える。
 志願者は“熱心者” Zelateur という称号を授かる。
 突如大音響がとどろくなか、志願者の目隠しがはずされる。
 志願者は胸元に剣を突きつけられ、差し出される二つの杯のどちらかを飲み干すよう要求される。「汝はさきほど絶対服従を誓った。この杯のどちらかは毒杯である。運を天に任せよ」
 杯を拒めば儀式はその場にて終了。志願者はそのまま外に連れ出され、ピラミッド内にて7ヶ月間の強制学習。その後ふたたび毒杯の試練。

 素直に杯を飲んだ者には、実はただのワインであると種明かしがされる。



試練 6

 
 志願者は豪華な寝室に通される。召使が汚れた衣服を脱がせ、マッサージをしてくれる。ご馳走とお酒もふるまされる。どこからともなく淫靡な音楽が聞こえてくる。部屋の奥の緑のカーテンがゆっくりと開き、淡い光のなかに肌もあらわに踊りさざめく美女たちが見える。短いスカートと薄絹、花飾りだけといういでたち。この美女たちのなかの二人が志願者にちかづき、薔薇の花輪をかける。他の美女たちは消える。部屋の照明が落とされる。

 ここで志願者が不埒な行動に及ぶそぶりでも見せるなら、隠れていたネオコアが飛び出してきて志願者を殴り殺す。

 誘惑を退けた志願者はその道徳的強さを祝福される。


最終幕

 ハイエロファント、ネオコア12名、そして志願者がふたたび地下室に集合。ハイエロファントが祭壇から剣とセプターを取り、宣言をなす。
 「兄弟たちよ、いまは何時なるや?」
 「正義の時なり」と全員が声をそろえる。
 「いまは正義の時なれば、正義をなさん」とハイエロファントが答える。
 祭壇の足元にある青銅の隠し扉が動き、奥の穴からすさまじい悲鳴と鎖の音が聞こえ、やがて静かになる。
 「かくして偽誓者は自らの結末を得たり」との宣言がなされる。
 「されば見届けん」と一同が狭い穴のなかを降りていく。
 穴の底、薄暗がりのなかでスフィンクスが死体を引き裂いている姿が浮かび上がる。
 志願者は気絶する。

 *その後、このスフィンクスと死体は作り物であると種明かしされる。参入儀式は宗教的宴会をもって真の終了となる。

 クリスチャンが語る術士のカリキュラムと位階

 術士の息子たちは15歳から魔術修行を開始し、森羅万象天地人のあらゆる学問を修め、21年間で皆伝となる。

 部外者にして参入を得た者はまず「熱心者」Zelateur という称号を得る。熱心者は術士のもとで12年間きびしい修行を積み、知識において上達が認められたならば第二位階である「理論者」 Theoriste という称号を得る。第三位階は「実践者」 Prantiquant 。第四位階は「哲学者」 Philosophe 。第五位階は「小達人」Adepte Mineur。第六位階は「大達人」 Adepte majeur。第七位階は「免責達人」 Adepte affranchi。第八位階は「神殿の首領」Maitre du Temple。第九位階は「薔薇十字の術士」 Mage de la Rose Croixとなる。

解説

 上記はPaul Christian The History and Practice of Magic (1871) Book Two にあるピラミッド儀式の要約である。オリジナルは物語仕立てであり、儀式紹介の中途に22アルカナの解説が入るという趣向になっている。クリスチャンの考えでは、西洋神秘思想はエジプトのMagism を根源とするのであり、これを学んだ者としてモーセやプラトンの名前が挙げられるという。この儀式はイアンブリコスによって記録され後代に伝えられたとされるが、まっとうなイアンブリコス著作集には該当文献が見当たらない。18世紀ドイツの黄金薔薇十字団あたりに同種の文献が存在したか、あるいはクリスチャンの創作と考えるのが現在もっとも受け入れられている見解であろう。

 添付のイラストは当方にて作成したものである。




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