スローン文書2731に拠るソロモンのアルマデル

A.W.グリーナップ(文博)



以下は大英博物館スローン・コレクション文書番号2731が出典である。この文書にはレメゲトンあるいはソロモンの小鍵とソロモンの詠唱祈祷書が含まれている。後者は完本ではない。タイトルページに曰く


レメゲトン、 クラヴィキュラ ソロモニス:−−
或いは
ソロモンの小さい鍵、ソロモンが言葉を交わしたるあらゆる霊の
名前、階級と役職。各霊の紋章と印形、
可視の姿へと召喚する方法等。
全五部からなる書


続いて各書の内容が簡潔に列挙されている。曰く

1 第一部はゴーティアと題される悪霊の書である。霊を拘束し、使役して名声を得る術が紹介される。
2 第二部はテウルギア・ゴーティアと題される、半善半悪の霊の書であり、すべての空気の霊を扱う。
3 第三部はパウロの術と称される。惑星時刻の支配霊、各宮の度数および各宮に入る惑星に配される霊を扱う。
4 第四部はソロモンのアルマデルの書と題される。四高域あるいは十二宮の360度あるいは宮の世界を統べる二十の主霊を扱う。後者ふたつは善霊であり真のテウルギアと称され、神聖なる求道をもって求められる。

文書は整然と記されており、表題は赤文字、図表も丁寧に描かれている。第一書の内容を除けば、かつてレメゲトンの内容が公刊されたことはなかったが、近年ウェイト氏が著書『儀式魔術の書』(64−77頁)において詳述している。氏の見解では、第二、第三、第四の書は後代に追加されたものだという。文書自体は17世紀に記されており、それは表題横に記された注釈「1686年1月18日、この書を書き始める」からも見て取れる。フォリオIbには以下の声明が記されている。いわく「これらの書はカルデア語とヘブル語で記されており、エルサレムにてユダヤ教のラビにて発見された。同ラビの手でギリシャ語に翻訳され、さらにラテン語となる」。

 以下のテキストはウェイト氏が参考にしたものよりも明らかに充実している。また第三、第四高域の知霊の役職が第二高域のもとに記されている。




フォリオ28a ここに本書の第四部、題してソロモンのアルマデルの術が始まる。

 この術によりてソロモンは世界の四高域を支配する主要天使たちから大いなる叡智を得る。汝、知るべし。世界の四つの高みすなわち東西南北をあらわす四高域あり。これが十二に分割され、それぞれ三つを一組となす。この部に配される天使たちはそれぞれ特定の権能と有したり。以下をもってそれが明らかにならん。

純粋なる白蝋にてこのアルマデルを作るべし。他のものはそれぞれの高域に適した色にて作るべし。アルマデルは4インチ四方、さらに全方向に6インチとなし、各隅に穴をあける。穴と穴の間に新しいペンを用いて以下の言葉あるいは神名を書くべし。ただしこれをなす際は太陽の日、太陽の時刻に行うこと。東に向かう最初の部分に Adonaij Helomi Pine 。 南の第二部には Helion Heloi Heli 。西の部分には Jod Hod Agla 。第四の北の部分には Tetragrammaton Shadai Jah 。そして第一部と他の部分とのあいだにソロモンのペンタクルすなわち☆を記す。そして最初の隅の間に Anabora という言葉を記す。そしてアルマデルの中央に六芒星を描き、その中央にさらに三角形を描いて神の名前 Hell Helion Adonaij を記す。また最後の名前が六角形を囲む形とする。以下の図を参照のこと。

 また同じ蝋を用いて四本の蝋燭を作るべし。それらはアルマデルと同じ色でなければならない。手許の蝋を三等分し、一部をアルマデルに、残る二部を蝋燭用とする。そして蝋燭はみな同じ寸法すなわち一フィートの長さとし、それをもってアルマデルを支える形となす。以上をなし終えたなら純金ないし純銀の紋章を作る(純金が望ましい)。紋章には三つの神の名前 Helion, Helluion, Adonaij を刻むべし。また最初の高域はコラ・オリエンティスすなわち東の高域と称されることを覚えよ。このコラにて実験をなす際は太陽の日、太陽の時刻に行うべし。天使たちの権能は万物の結実、動植物の創造と繁殖、出産の増進と石女の妊娠である。されば天使たちの名前は以下の如し。 Alimiel, Gabriel, Barachiel, Lebes, Helison 。また、召喚を希望する高域に属する天使たちのみに祈るよう留意せよ。また、作業の際は四基の燭台に四本の蝋燭を立てるが、作業以前に点火してはいけない。しかるのちにアルマデルを四本の蝋燭の間、それも蝋燭から生じる蝋の足の上に置き、さらにアルマデルのうえに黄金の紋章を置く。召喚文はまえもって未使用の羊皮紙に書いておき、蝋燭に点火してから召喚文を読み始めるべし。

フォリオ28b
 かのものは白十字を記した旗を手に持つ天使の姿にて出現する。胴体は素晴らしい雲に覆われ、顔は美しく輝き、頭に薔薇の冠をかぶる。かれはまずあたかも霧あるいは雲の如くアルマデルの刻印のうえに立ち上る。このとき術者は用意しておいたアルマデルと同じ色の土製の器に温い灰ないし石炭を入れる。ただし量が多すぎるとアルマデルの蝋が溶けるので注意すべし。そこに三グレインの粉末麝香をくべ、器をアルマデルの下に配置して、四隅の穴から香煙がたちのぼるようにする。天使は香煙の臭いを嗅ぐとすぐに低い声で語り始め、汝の望みはなにか、この高域の諸侯と総督をなんのために呼び出したかと尋ねてくる。汝は以下の如く応答すべし。「わが望みはわが要請がすべて達成せらるること、わが祈りがすべてかなえられることなり。汝の職能が術者の養成の成就にあることは明らかなり。それが神の意に沿うかぎり、成就をなすべし」。そして要求の細部を付け加え、謙譲をもって合法かつ適切なるものを祈念すべし。霊が現れない場合は、黄金の紋章を手にとり、それで蝋燭に三つ四つ傷をつけるべし。そうすればほどなく天使は現れるであろう。天使は退去する際に室内に芳香を充満させるであろう。その香りは長きにわたりその場にとどまる。また黄金の紋章は四高域すべての作業で用いることができる。第一の高域あるいはコラのアルマデルの色は百合の白である。第二のコラの色は完璧な赤い薔薇の色である。第三のコラの色は白銀がまじる緑色である。第四のコラの色はわずかな緑ないし悲しい色がまじる黒色である。


第二のコラあるいは高域に関して

 他の三つの高域がその宮と諸侯とともに物品や富に力を及ぼす点に留意せよ。人をいかなる富者にも貧者にもならしむることを可能とする。そして第一のコラが増進と結実をもたらすように、他のコラは減退と不毛をもたらすのである。されば以下の三つのコラないし高域にて作業をなさんと欲する者は、前出の方式をもって太陽日にこれを行うべし。されど固有の職能に反することを祈念してはならない。また神と神の法に反することを願ってはならない。自然のなりゆきによってのみ神が与えたまうものを願うことをよしとする。用いるべき道具等はすべて当該アルマデルと同色とする。第二のコラの諸侯の名前は Aphiliza, Genon, Geron, Armon, Gereimon である。作業の際はアルマデルと同色の衣服をまとい、同色の色布を垂らした小部屋にて、アルマデルのまえにひざまづくべし。霊が現れたなら土の器をアルマデルの下に置くべし。器には前出の如く温灰ないし石炭および三グレインの麝香を入れておくべし。天使は麝香の臭いを嗅ぐと汝のほうに顔を向け、何用あってこのコラあるいは高域の諸侯を呼び出したるかと低い声で質問してくる。これに対して汝は前出の如く答えよ。「わが望みはわが要請がすべて達成せらるること、わが祈りがすべてかなえられることなり。汝の職能が術者の養成の成就にあることは明らかなり。それが神の意に沿うかぎり、成就をなすべし」。そして怖気づくことなく慎ましく言葉を添えよ。「この高域の諸侯よ、われは汝の職分のためにわが身を差し出さん。さればわが望みに沿いて万物を得させたまえ」。さらに念願の詳細を祈りという形で表明してもよい。以下の二つのコラにおいても同様のことを行うべし。

 第二の高域の天使は小さな子供の姿で現れる。薔薇色のサテンの衣をまとい、頭には赤いナデシコの冠をかぶっている。その顔は天に向かいて赤く、太陽光のように輝きに包まれている。退去するまえに天使は術者に語る。「われは汝の友にして兄弟なり」。そして周囲を輝光で照らし、芳香を残して退去する。香りはいつまでも頭上に漂うであろう。


第三のコラあるいは高域に関して

 このコラにあっても前二者と同様の下準備をすべて行わなければならない。この高域の天使たちの名前は Eliphaniasai, Gelomiros, Gedobonai, Taranava, Elomina である。かれらは幼い子供たち、あるいは目に鮮やかな緑と銀のドレスをまとう小さな女性たちの姿で現れる。頭には緑と白をあしらう月桂冠をかぶっている。表情はややうつむきがちである。話しかたは他の高域の天使たちと同様で、退去する際は強い芳香を放つ。


第四のコラあるいは高域に関して

フォリオ29a このコラにあってもなすべきことは他のコラと同様である。このコラの天使たちは Barchiel, Gediel, Delie, Captiel * である。かれらは小人ないし少年の姿で現れる。黒色と暗い緑色が混ざった衣をまとい、手には羽根をむしった鳥を持っている。頭部はさまざまな色に輝く光で囲まれている。かれらも甘い香りを残して立ち去るが、他の天使の香りとは少し異なっている。

 四高域に十二の諸侯がましまし、それぞれ一年の30日分を担当している点に留意せよ。術の実行に際し、その時期を担当していない天使を呼んでも無駄である。コラはそれぞれ黄道十二宮上に制限時間帯を有しており、太陽が入った宮の天使がその時期の担当となる。たとえば第一のコラの最初の二天使を呼び出したいとする。術を実行する時期は三月、太陽が白羊宮に入って最初の日曜日となる。さらに次の日曜日に術を行ってもよい。第一コラに属する次の二天使を呼び出したいならば四月、太陽が金牛宮に入る日曜日となる。ただし最終の第五の天使を呼び出したいときは五月、太陽が双児宮に入った日曜日に行うこととなる。他の高域においても仕組みは同様であるから、同様に行うべし。しかし高域には諸天の物質から形成されたいくつもの名前があり、それらをもって一個の紋章を形成するといってよい。天使たちはかれらに配属される神名を聞くとき、その印形の力を通して聞くからである。ゆえにいかに天使に呼びかけようとも、呼びかけるべき名前を知らなければ徒労に終わる。されば以下の召喚形式を遵守すべし。


召喚

 おお汝、大いにして祝福されたる栄光の神の天使○○(名前)よ。第一のコラあるいは高域の主たる支配天使よ。われは汝と同じ至高の神、アドナイ、ヘロミ、ピネの僕なり。天、地、地獄の万物を自在にしたる至高の神に汝は従うものなり。われはその神の僕として汝○○を召喚し、招請するものなり。アドナイ、ヘロミ、ピネの力によりて汝、現れるべし。汝が従うべき王としての神の力によりて汝に命ず。聖なる神の力によりて命ず。汝の所属する天使団あるいは汝の住処より降りてわが元に現れよ。この水晶球のなかに可視の姿にて明瞭に現れよ。われにわかる言葉にて明瞭に語るべし。おお汝、大いにして強大なる天使よ、神によりてすべての動物、植物、鉱物を支配するべく定められたる者よ、神の作りしものをその法に従いて地に満ちさせる者よ、われは汝も従う至高神の僕なり。われは汝に要請す。天上の住いより出でて、汝の職能と神の御心の許すかぎりにおいてわれの望むものをすべてわれに示すべし。おお、汝、慈悲の僕○○よ、われは慎ましく懇願す。聖にして祝福されたる神の名前アヂナイ、ヘロミ、ピネによりて招請す。そしてこの強大なる名前アナボナによりて汝に強制す。汝の正しき姿になり、可視の姿をとってこの水晶球のなかに現れ、耳に聞こえる言葉をもって語りかけよ。そしてわれに汝の祝福されたる助力をなし、常にそばにありて無知蒙昧、浅学非才なるわれに有益なる助言と助力を与えてくれる使役霊を得させたまえ。全能なるアドナイよ、王のなかの王よ、あらゆる善なるものを与える者よ、その寛大なる父としての慈悲をわれに与えたまえ。されば汝、祝福されたる天使○○よ、われに友好たれ、神によりてわがまえに現出する力を与えられよ。われは神の聖なる天使たちとともに歌わん。おお、マッパ、ラマン、ハレルヤ。アーメン。

 天使が現れたなら、丁重にもてなすべし。天使に対しては正当にして合法、しかも天使の職能に応じたものを要求せよ。さればそれを与えれらるであろう。

ソロモン王のアルマデルと題される第四の書はここに完結す



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