時の神秘

仮面劇

1905年1月17日、アルバート・ホール劇場にて上演。ヴァイオリンのオリジナル曲伴奏付き。

登場人物

過去 - - - - - - -アーチボルド・マクリーン
現在 - - - - - - - - - - - - ルイス・カソン
未来 - - - - - グエンドリン・ビショップ夫人

音楽演奏 グエンドリン・パジェット夫人

著作権登録 1904年9月

序文

おそらく英国で数千、全世界で数百万の人間が、開闢の頃から伝えられた古代の賢者の術すなわち「精神を誘導する術」を学ぼうと努力していると思われる。そしてこの術を学んだ者は、いかなる立場の人間といえども、この種の信仰の術に共通する抗いようのない大いなる魅力を見出してしまい、いずれは人生そのものを術にとりこまれ、術の世界のみにて生きるようになってしまう。

わたしはとある訓練法を想像してきた。「現在」と呼ばれる「時間」の不可知的一点に精神をつなぎとめようと努力するという方法である。わたしの寸劇にて示されるものは、「過去」ないし「未来」へと心をうつろわせていた「献身者」がついに自らをあらゆる煩悩から解き放つ様子である。またわたしは人間精神の二要素を擬人化してみた。このふたつは「献身者」が「過去」も「未来」も関係なくなる「精神」を超えた領域へ溶けて失せようとするとき、恐れおののく。

 その状態をわたしは以下の言葉にあらわそうと努力してきた。「わたしは荒涼とした暗い永遠のまえに裸身にて立ち、その永遠をわが昂揚にて満たす」。

 この名状しがたい状態をあらわそうとする経典にあっては、われわれが目にするものはまず、「献身者」が肉体感覚と精神活動をいわば脱ぎ捨てる様子である。そうすることでかれは「純粋存在」のなかに解放を見出すのである。解放は聖人たちの法悦の本質なのである。わたしたちはかれらの叫びを耳にしてきた、「無あるところ神あり」。またそれは、無を望み得る者は自らのうちに万物を有せねばならぬとする賢者の法悦でもあった。

 されど悲しいかな、皮肉なことに、われらはみなすでに有するものなど欲しくないということを十分に思い知ってきたのである。

 これまでわたしは自分の象徴群に一個の解釈のみを施してきた。同じ象徴であっても、他の解釈のほうがよりわかりやすいかもしれない。たとえばそれは、悪魔にさいなまれる修行者であったり、知性と感覚と欲望という形での肉体と世界であったりするだろう。「過去」は機知に富み、経験が豊かである。「未来」は力強く、希望に満ちている。そして「女性」は「世界」の如く助けを求めて泣き叫ぶ。その目的は叫び声に耳を貸す者を捕らえて食らうことにある。最後に、わたしは過去と未来を思うことは「一時」に身を置くことであるという言説を耳にしてきた。一方、「現在」を真に強烈に思うことは「永遠」の状態を知ることである、と。


 
時の神秘

登場人物

過去     現在    未来

「現在」は玉座に座して目を閉じている壮年男性。トランス状態にあるかのように身じろぎもせずに座す。暗い青の衣。

「過去」は黒衣をまとい無縁帽をかぶる老人。グロテスクな外見と声。「現在」の左側の扉を警護している。

「未来」は夜明け色のドレスと七色に輝く紗をまとう美少年。別の扉の右側を警護する。

「過去」と「未来」は互いにめくばせしあい、うなづき、しずかに舞台上を動く。ふたりは玉座の左前にて落ち合い、話を聞かれるのが恐ろしいかのように声をひそめる。



未来: さてどうなるのでしょう、どう思われます?

過去: わしらにとっての危険がある。あれはいつだってきわめて不快じゃった。

未来: と、いいますと?

過去: (くぐもるような老人の声で) わが愉快な若き友よ、残念ながら言わねばならぬ。わしの知るところ、ご主人がかくもながくあの玉座に、真理の座と呼ばれるあの玉座に座しておるときは、わしらは完全に消滅しかねないのじゃ。

未来: でもぼくは消滅しませんよ。死ぬまで消えたりするものですか。(過去が肩をすぼめる) どうやったらふせげます? おそらくなにかご存知でしょう?

過去: (ゆっくりと) わしらにできることといえば、ご主人の夢幻のなかに押し入ろうとがんばることくらいじゃ。

未来: それから、それから!

過去: わしとしてもできるだけのことはやってみたんじゃ。

未来: でもどうしてそんなに無力なんですか?

過去: よいか、されば秘密を教えよう。そなたもわしも、実体を持たぬのじゃ。わしらはつねにうつろいゆくまぼろしでしかない。

未来: では「実体」とは、ご主人さまが持っている宝物ですか?

過去: そうじゃ。だがご主人は知らぬ。知らせてはならぬ、さもなくばわしらは死ぬわ。

未来: ああ、それは悲惨だ!

過去: わしらの都合のよいように幻影を踊らせておかぬと、いずれは気づかれてしまう。そうなればわしらは消えるしかない。

未来: これまで気づかれたことはなかったのですか?

過去: 完全には、ない。一時期、存在の神秘なるものを必死でおいかけていたことがあっての、そのときわしらはご主人が飽きなさるまでしばらく身を隠していたものじゃ。「疑念」がそっとご主人の心に入り込んでの、それからわしらも飛び出して、いまひとたび久遠の平安をかき乱したものよ。

未来: その「疑念」なる大いなる例はどこにおわせられます?

過去: いや、残念ながらわしらにはかの女性を呼ぶ力はない。

未来: なぜですか? ぼくたちは、この場以外では無限の力があるのでは?

過去: 「疑念」は幻影の母じゃ。彼女がわしらをもたらしたのじゃ。わしらが目にするすべてのもの、わしらが知るすべてのものはみな、彼女の驚きが生み出したものじゃ。じゃが、わしらが彼女を呼んでも無駄じゃ。自らの意思で到来する嵐のようなものじゃからの。

未来: ああ、ごらんなさい、かれはトランス状態にしっかりおちいっている!

過去: 世界磁石も一緒じゃな。

未来: (手足を痙攣させながら) ああ、ああ! ご主人さまの足元に引き寄せられていく! 苦しい、苦しい、助けて、助けて!

過去: ああ、ああ、なんということじゃ! わしの魔法はすべて試してみた。わが知恵も術もまったく通じぬ。

未来: なんとかしてよ、このままじゃ死んでしまう。そしたらあんたも死ぬよ、この老いぼれ。自分のことを忘れるな。

過去: (含み笑いをしつつ)それはないわ、その心配はない。わしは自分のことは決してわすれぬわ。

未来: ああ、ぼくの美しさがすべて消えてしまう!

過去: かつてご主人に過ちに満ちた知恵を見せたことがあってな、奇怪な喜び、忘れ去られた神秘もちらりとな。賞賛、恋の夢、迅速といったものも味わわせてやったものよ。

未来: 恋の夢、だと? この老いぼれ、あんたがなにを知っているというんだ。そんなものはぼくにまかせておけ。それでぼくらに生命が宿るなら、痛いほどの喜びを味わわせてやろう。血潮に蜂蜜が混じる気分にさせてやれば、心臓の高鳴りが知恵を封じてくれるだろう。

過去: そんなものはすでにご存知の炎にすぎぬ。わしはこの手で燃え滓の灰を何度もはたいてきたものよ。

未来: ああ、皺だらけの手だな。どんな炎を与えてきたというのだ。枯れた記憶でなにが誘えるものか、痛む手足で長寿を望む者などどこにいる。(自分の美しい手を差し出す)。ぼくが与える魔法の火は新たな変化をもたらすだろう。

過去: おまえの火など一時間とたたずにわしのものになるわ。いまですらわしのなかに入りつつある。

未来: (怒り狂いながら)老いぼれの豚め! この場から失せろ。おまえのおぞましい嘘が嫌いだ。ぼくは生命の泉なんだ。死ぬのはおまえのほうだ。

過去: (あざけるようにお辞儀をして)麗しき青春よ、そなたの夢はわしなくしては語られぬことなく死ぬだろう。それが掟、時の法なのじゃ。そなたは定められた場所に赴き、いまひとたび美しき偽りの夢を見ることになる。はるか昔にわしが書いた夢を。

未来: あんたの叫びなんか知っている。“繰言”と“反復”、“時の輪”だろう。だけどぼくはそんなものは認めない! ぼくはご主人に新しい夢を持ってきてやる。巨大な、神の如き夢、力の夢、地球の鼓動そのものを動かす夢を。

過去: そなたの夢はなんじゃ? そんなものはわしの手がばらばらに引き裂いておるわ。

未来: ご主人はまだ陸、海、空を征服する夢は見ていない。

過去: あわれな。そなたは動転しておるわ。教えてやろう。ご主人はまさに陸海空の王であったのだ。この大地が形をなす以前、かれのなかにある空気は自由の身であった。それをとどめおける力などなかった。火は魅惑であり、空気は光の渦であった。存在が享受する瞬間の恍惚を遮断する固体の大地などなかった。されど存在はいまや人間と呼ばれるちっぽけな肉のヴェイルのせいで目しいとなり、己が無力を嘆いておる。

未来: 不思議、不思議、それはぼくにはわからなかった。

過去: 時の輪をひとまわりすればそなたにもわかろうというものじゃ。

未来: ああ、ああ どうすれば?

過去: もっと簡単なものを試してみよ。

未来: なにをすればいい?

過去: この鞄に恋の歌が入っておる。これを歌って聞かせてみよ。

未来: なるほど、乙女か。

過去: それにワイン。

両者: これで十分だろう。

過去: これならばご主人に夢を見せることができる。欲望と、抱擁と、闘争と、殺戮と、自らを守る怒りの夢を。

(未来が恋を称える古い歌を歌う)

未来: これでご主人もトランスから覚めるだろう。

過去: さればディオニソスの歌を試そうぞ。葡萄を称え、バッカスの踊りを踊らん。

(両者が踊り歌ううちに、現在がゆっくりと目を開ける。両者は玉座脇のそれぞれの持ち場に戻る)

現在: 存在の静寂なる恍惚を曇らせるこの渦巻く感覚は何事ぞ、たったいま、わたしは思念がもたらす幻影を追い払い、心の奥底まで突き通し、ようやく得られた恍惚を損なうものは何者ぞ。わたしは荒涼とした暗い永遠のまえに裸身にて立ち、その永遠をわが昂揚にて満たしておったというのに。

過去: ご主人さま、われらはここに控えております。

現在: 老人よ、老人よ、しばし待て。わたしは自らの存在そのものを破壊することに喜びを覚える喜悦を知ってしまったのだ。わたしは砕けちった日の光をさらに撒き散らし、過去も変化もない静寂の場所にて生きようと思う。

過去: ご主人さまのために素晴らしい宴を準備しております。キプロスのワインもございますよ。

現在: 宴など必要ない。わが肉体は思念より造られた幻影にすぎないのだ。(過去と未来が戦いて引き下がる)。もはや肉体に餌をやる必要などない。肉はただ太り、わが魂に忍び寄り、わが目に心地よいものを見せ、心の奥に潜む深い喜びにはただ恐怖を提供するのみなのだ。(過去がすすり泣く)。そう泣くな、だが教えてほしい。昔の人々は自らの心に耳を傾け、他では教えてもらえぬものを学んでいたのか?

過去: ええ、ええその通りですよ、ご主人様、こんな恐ろしい場所からお引き上げなさるなら、古の賢者たちの古文書をお目にかけましょう。

現在: ここに持ってまいれ。

過去: ここに持ってこれるものは少のうございましょう。中核真理は人の思いに驚愕をもたらすものでございます。

現在: 持ってこれるものでよいから持ってまいれ。

過去: 聖アウグスチヌスより短い一節がここに(鞄を開く)。ギリシャ人たちから二つ三つ。ペルシャから詩が一篇。エジプトの刻文が一節。シャンカラ・アチャーリャから三文、道教から - -

現在: もうよい、もうよい。一番古いものを見せよ。

(全員がとある巻物を覗き込む。未来が歌いだす)

過去: しーっ、愚か者が。

現在: ぼくもご主人さまと話がしたいな。

過去: ならばお声がかかるまで待っておれ。

(未来が護る扉にノックする音。未来が扉のもとにゆき、外を覗く)。

未来: (戻ってきて)美しい少女が大変悲しげな様子でご主人さまに会いたがっています。ご主人さまだけが頼りだと申しております。

現在: なんと申した?

未来: 女性が助けを求めて泣いています。

現在: どうして欲しいというのだ?

未来: ご主人さまが大いなる探求に成功され、賢者の石を発見されたことを聞きつけたのです。女性は人生の浮き沈みに悲観していて、存在の神秘を知りたがっています。

現在: 自らの心のうちを探れと伝えよ。

未来: ご主人さま、女性は戸口で気絶寸前です。ご主人さまに一度でも触れていただければ治ると言っています。

現在: 助けを求める者は助けねばなるまい。女をなかに入れよ。

未来: 中に入れてはいけないと思います。

過去: ご主人さま、わたくしどもは何者とておそばに近づけるわけにはまいりません。

現在: さればこちらから出向こう。

未来: 女性は戸口にてつぶれた白い花のように横たわっています。

現在: あわれな。かくも早く消えゆくとは無残よの。こちらから参ろう、(半分立ち上がる)だが、しかし

過去: ためらわれるのももっともです。むしろ記録の間におでましになられませんか。いろいろとお見せできますぞ。アダムという名前の男が平和に暮らしておきながら、女のために −−

未来: だまれ、この老いぼれの噂好きが。

現在: もうよいわ。そなたとともに行こう(未来に向かう)。

未来: 素敵な女性ですよ。大いなる喜びの時を与えてくれるでしょう。

現在: (不意にたちどまり) そういうことか? 去れ、去れ、どちらもだ。(巻物を手で払いのける)。大いなる扉をすべて閉めよ。これ以上わが安息をさまたげることは許さぬ。


(現在が玉座に戻り、最初に座す。外から音楽が聞こえ、未来と過去が喧嘩踊りのようなものを踊る。未来は過去が巻物をかき集めるのを邪魔し、過去は未来が現在の袖を引こうとするのを邪魔する)

未来: なぜぼくの計画を邪魔する? アダムの話を持ち出すなんてばかな真似をしなければ数百万年にわたってずっと安全でいられたはずなのに。

過去: 若き愚か者よ、それがどうした? いずれにせよわしは安全なのじゃ。わしの記録はもはや消せぬわ。人生にしっかりと刻まれ、未来永劫くりかえされるわ。

未来: ぼくたちがご主人さまに飲み込まれてしまえば、あんたの記録など一緒におしまいになるだろう。

過去: はたしてそれはどうかの。

未来: この苔むした記念碑め! もう忘れたのか、ご主人さまを酒と歌とワインで喜ばせておかなければ、ぼくたちは消えてしまい、ついには死んでしまうと言ったじゃないか。

過去: その三つはひとつとなるのじゃ。

未来: その三つがひとつとなったとき、ぼくとあんたはどこにいるんだ? 叡智なき哲学者よ、あんたには常識がないのか?

過去: (挑発的にまばたきしながら)結局はいつものように、未来は過去の質問を発するしかないのじゃな。

未来: (唸る)

過去: だからなにが問題なんじゃ? おまえさんは常にご主人さまのなかに溶け込んでゆく。そしてわしにとってはどちらもご馳走でしかない。

未来: だがそれはすべて見せかけじゃないか。見せかけのためなら少しばかりの自己犠牲は気にならない。だが、現実となると! いやだ! それはいやだ! まったくの人殺しじゃないか。ご主人さまはあまりに眠りがすぎた。トランスが進みすぎてもやは引き返せない地点に近づこうとしている。それがわかる。骨身にしみるようだ。

過去: せっかくご主人を古代人たちと遊ばせておったというに、なぜ、いま、わしの邪魔をした? 古代人の霊感はわれらの心のなかに蛇の如くとぐろを巻くことができるのだ。おまえがあの愚かしい小娘で邪魔さえしなければ、ご主人をたぶらかしておけたはずなのに。

未来: ぼくはあの小娘の将来性に賭けている。凄い力を持っている。情熱が荒れ狂うときに、ちょっとおしゃれな文章などなんの意味がある。

過去: されば思想で火をつけ、喜びのイメージを住まわせないかぎり、情熱などどこにあるか。

未来: ああ、言葉、言葉。言葉など空しい!

過去: かつて一つの言葉が深みの中心より閃いたとき、全天の星が飛び出してその言葉に聞き入ったものだ。

未来: その言葉が星々に対する欲望に満ち満ちていたからだ。

過去: そうかもしれん。しかし望まれるべき男や女とはどういう人か? それは詩人と歌手の夢にして幻影、甘い音の衣を着せただけのもの。そんなものに情熱を燃やすことで、この世のものならぬ喜びが得られると考えたのだ。

未来: ああ、彼女をなかに引き入れておけばよかった。そうすればご主人さまもあの素晴らしい姿を目にできたのに!

過去: 歌手の突飛な言葉のために、そなたは女の息のなかに魅惑を、髪のなかに雷雲を見出しておるにすぎぬ。ご主人はわかっておるわ、あの女とてそのあたりの獣の死骸と同じものに過ぎぬことを。

未来: なんとおぞましいことを、失せろ、老いぼれ! (老人をおいかけまわし、殴る。老人は高い場所に避難し、ガーゴイルの如く下を見下ろす)。ああ、ご主人さま、目を覚ましてください。この老いぼれたハゲワシからわたしをお救いください!

現在: そなたはわたしとひとつであることを知るだけでよい。されば死はそなたに触れることがかなわぬであろう。

未来: 愛しています。愛しています。だけどあなたの手に触れることができません。あなたを知ることができません。ぼくは喜び、彼方にある夢中、いつも彼方にある--

現在: そなたの髪のまわりに奇妙な光の輪が見える。わずかな虹色をきらめかせながら震えている。

未来: ああご主人さま、ぼくを見ないでください。そんな恐ろしい目で見ないでください。その目の光にさらされるとぼくの幻想がすべて燃え尽きてしまいます。ぼくは死にたくない。

声 : (外からおそろしい悲鳴をあげる) ことはどこ? わからない。何千年ものあいだ時の幻影のなかでさまよわねばならないの?

未来: ご主人さまがお助けにならなかったあの娘です。あの悲鳴をお聞きください。あれは全世界の悲鳴です。無数の魂の悲鳴です。ご主人さま自らお運びになり、あの者たちを統べていただければ、地上の良き魂たちはみなご主人さまの胸に頭を預け、美しい腕をお首にからめ、気高き行為を称える歌を歌いましょう。

現在: わたしが出る必要はない。祝福の秘密の祠はすべてかれらのなかにあるのだ。

未来: しかし人間は悲しみから美しいものを作るために生まれてきたのでしょう。人間は幸せなど気にしてはいません。

現在: 自らを至高の熱望にて焼却するまで人は美など作り出せはしない。つかの間の狂気ではつかの間の安らぎしか得られぬ。

未来: おお、あなたは大いなる喜びのおとずれを教えてくださるのですね。この女ひとりが救われるということは、世界が喜びでもえあがるということを意味するのですか。

現在: 子供よ、子供。このなぞなぞを考えるがよい。至高の欲望は至高の欲望を無くすことなり。わたしにわかったことはそれだけだ。

未来: (現在がふたたびトランスに落ちる様子を苦悶のうちに眺めつつ) ご主人さま、ご主人さま、待ってください。ぼくも年をとりますから。ぼくはまだ若すぎる。

現在: (遠くから響くような声で) 生命の潮が洪水となっているうちに滅びぬものを求めよ。されば潮はそなたをあらゆる人の望むものの彼方まで運んでくれるだろう。暗き時を待つ者たちはただ沈み、溺れるのみ。

未来: ぼくは望みをなくしてしまった。

現在: さればそなたの手を差し出すがよい。

未来: はい。(両者の手が触れると未来は喜びに変身する)。おお、時間、時間! 不変なる真理の喜びのなかでは時間は屠られてしまうんだ。

過去: (悲鳴をあげて飛び降りる。荒々しい音楽が鳴り響く)。離れろ、離れろ、わしらは死んでしまうぞ!

現在: (未来に向かって) 古い変化の法がそなたに叫んでおる。あれを収めることができるか?

未来: おお真理よ、大いなる乙女よ、生も死も溶かしあわせて新たな杯にてわれらに飲ませてくれる。

過去: 真理などほっとけ。ほら、こっちに来い、さもなくば死ぬぞ。(未来を引きずって引き離す。未来は玉座の足元で気絶して横たわる)

現在: ほんとうは心のそこで喜んでおるな、収穫を欲する者よ、生命を求める者よ。

過去: この恐ろしい場所から逃れるぞ。よろしいか、偉大なるご主人さまよ、この若者を殺してしまわれた。あれほど喜びと生命に満ち溢れておったのに。

現在: こやつは幻影に過ぎぬ。そなたも幻影だ。すべての幻影は自らが幻影であることを知るがよい。されば目的は達せられる。

過去: 目的は「真理」ですか?

現在: 真理は存在のうちに燃え上がる。神々は時間という畑で労働に勤しむだろう。だがわたしはここにとどまる。十の風が宇宙を吹き抜け塵を飛ばすだろうが、塵はあるべき場所に戻るだろう。

過去と未来: この謎はいかに?

現在: 最小の最小たるものが最大の最大なり。

過去: かくもすばらしき最小のものとは?

現在: その最小ものとは「いま」だ。永遠とていまのなかに見出せるからだ。

未来: (喜びのうちにひざまづきつつ) おお、この場にて死なせてほしい、そうすればあなたのなかだけで永遠に生きられる!

現在: わたしのあるところに死はない。死は幻影のなかの幻影である。

過去: あなたは存在の場の主です。時間はあなたの玄関番でしかない!(震えつつひざまづく)

現在: わたしのあるところに恐怖はない。すべての生はわたしのものである。すべての所有は重荷である。わたしは時間をあるがままに見、そして平安である。(現在がふたりをやさしく立ち上がらせる)。

(了)

作 フロレンス・ファー

from The Theosophical Review 1905.March. pp.9-19.


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