タロットに似たもの5 マレの水星

Celestial Chart

天文を素材とする絵画類は、中世の天球図から時祷書等に見られるカレンダーを経て、近世に至り天文学の指導のもと徐々に科学性を備えていったのであるが、17世紀後半あたりではいまだ中世的約束を守るデザインも多々見受けられる。下に紹介するアラン・マネソン・マレの水星図(1686)はその代表といえるであろう。一見するとマルセイユ系タロットのXVIII『月』を思わせるのである。



 画面下にいる三人は左端がギリシャの天文学者、中央が帽子から判断するにアラビアの天文学者、右端はメルクリウスである。足元にはコンパス、定規等の観測器具がある。
 画面中に多数見られる帆船は、風という究極的運命に身を委ねつつも人事人智の限りを尽くして大海に挑むという点で、人間の象徴である。
 画面奥の高い塔はアレクサンドリアの大灯台と見るのが順当であろう。

 コペルニクス転回を経て地動説が主流となった17世紀の天文学界にあっても、いざ惑星の絵画的描写となれば、外見のみでそれとわかるのはリングを有する土星くらいである。現実的処理としては過去の絵画約束を持ち出すしかなかったと思われる。上記の場合、天体としての水星は月と同じ程度のいいかげんさで描かれており、なにか微笑ましさすら感じられる。

 作者のアラン・マネソン・マレ Alain Manesson Mallet (1630-1706) はルイ十四世の宮廷に出仕したエンジニアであり、数学と幾何学、築城術、地図作製を得意としていた。上の図版は1686年に発表された Description de l'Universe 収録の手彩色銅板画の一葉 (158*110mm) である。





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