Choice of Magical Emblems

from Choice of Emblemes (1586)




天文博士は夜、輝く星を眺め
来るべき年の運勢を占う
しかし学者馬鹿は永らく空に住んでいたため
暗い中を闊歩していて井戸に転落する
助けを呼ぶと運良く友人が近くにいたので
危機は過去のものとなったが、友人たちの視線は厳しい
えらく珍重されてはいるが、これはなんと阿呆な学問であろうか
遠い未来の危機を予言しつつ手近の危険が見通せぬとは





見よ、恐るべき獅子たちが抗いもせず
自ら従い、クピドの戦車を引く
クピドは片手にて獅子を思う先に導き
別の手にて畏まらせる
獅子はうずくまり、戦車を引き、鞭を待つ
獰猛なる気性は脇に置かれる

クピドがかくも大いなる力であれば
獰猛なる獣をも馴らす
おお大いなるジョーヴよ、慈悲を示したまえ
弱き男を助け、優しき婦人たちを憐みたまえ
荒きアフリカをしてこの暴虐の力に耐えさせたまえ
さもなくば嗚呼、哀れなる男はどうして安全でいられようか





われらの影は追えば逃げる
されどわれらが逃げれば影は追いすがる
ゆえにもっとも熱心に求愛する男は
思う相手の心からもっとも遠い
されど男が顔をそむけて逃げるなら
女は追いすがり、振り向きたまえと懇願するであろう






シンシアの明るい輝きによって
犬は自分の影が生じるを見る
されば犬は無駄に吠え猛る
その場に他の犬がいると思うがゆえである
されど月は犬の叫びにも耳を貸さず
定められた道を西に向かう

愚者たちが頭上高く輝く学者たちに対して
唸り吠える非難もこれに似たり
頭角をあらわす者たちを敬い
叡智を有する者たちを尊ぶべし
されど愚者たちが猛ろうとも無駄吠えなり
主は価値ある人々を守りたまうゆえ






ヘラクレスは美徳と悪徳に囲まれ
行くべき道に迷う
理性を重んじよと美徳は促すが
他方は快楽をもって誘う
両者は長らく争いかれの心を獲んとする
ついにヘラクレスは語る
おお快楽よ、そなたの道はなだらかで美しく
そなたの宮廷には甘き喜びに満ち溢れる
されどわれが聞くに、そなたのもとに赴いた者で
死後も名声に包まれる者は皆無であると
名誉は快楽とともにとどまることを嫌うゆえ
さればそなたは安逸にしがみつき、風を無にするがよい
されば美徳よ、聞け、われはそなたの意図に従い
あらゆる苦労に耐えることを誓おう
急峻を登攀すれば頂上に達すること確たるものなり
褒章は名声という冠なり
かくしてヘラクレスは聖なる貴婦人に従いたる







怒れるモルスがあちらこちらと飛びまわり
そこかしこで必殺の矢を放っていたところ
やはり弓矢仕事に忙しいクピドと
たまたま出会った。

その夜ふたりは同じ宿にとまり
飛び道具は別のところに置いた。
翌朝ふたりは急いで旅だったが
互いの矢筒を取り違えてしまった。
クピドの背中には氷の矢があり、
痩せたじゃじゃ馬の背には炎の矢が揺れていた。

かくも奇怪な取り違えのために
世界が驚く変化が生じた。
愛と生命を与えようとクピドが狙った血気盛んな若者は
その場に倒れて即死した。
死神が地に返そうとした老人は
ふたたび恋をし、戦い、悩み呻いた。
この取り違えは自然の法を侵害した
老人は恋をし、若者は墓へ向かう。

そしてついにクピドが矢を放つまえに、
一人の若者がかくの如く叫んだ。

おおヴェヌスの息子よ、あなたは知らぬ矢を放ち
その矢傷は深く、撃たれる者たちは皆死んでいる。
あなたを昔から尊んできたわれらの世代を見逃したまえ。
あなたが今使っている矢は骨の矢なり、黄金の矢を手にしたまえ。

そう言われたためクピドはしばしとどまり、
すでに若者たちがほぼ絶滅しているのを見てとった。
一方、老人たちは編みたての花輪の如くいきいきと恋をし
はげあがった頭も新婚生活でふたたび髪を伸ばしている。
そこでクピドはこのあやまちをモルスに示した。
モルスは不満だったが、しぶしぶ交換に応じた。

とはいえ、ふたりとも自分のものではない矢を放ってしまっていた。
そしてふたりは気づいていなかった。
数本の骨の矢がクピドの矢筒のなかに残り
モルスの矢筒には数本の黄金の矢が残ったことを。
さればこそわれは時ならぬ死を、
あるいは老いらくの恋を目にするのである。







そなたはいかなるものぞ? われが示すは「機会」なり。
何故にそなたは回る車輪の上に立つのか答えよ。
何故なればわれもまたあちらこちらに回されるがゆえ。
何故にそなたは手に剃刀を持つのか?
われがあらゆる陣営を切り裂くことを人に教えんがため。
われが来るとき、一軍も分断できよう。

されば何故そなたは足に翼をつけるものなりや?
何故なればわれがわずかな風にて飛び去るを示さんがため。
そなたの長き前髪の意味するところは如何なるものか?
機会に会いし者はまず前髪にてわれをつかむべきなりと。
そなたの頭の後ろは禿げたるなり。その意するところは?
われを前にてつかみそこねた者は決して機会を手に出来ぬの意なり。

何故にそなたは開けた場所にたたずむや?
機会をまえにたたずむことなく、まずとらえよと、
機会が到来せしときは前面にて受けとめよと、
万人に教えんがため。
リシプスはこれを最善と心得、
わが姿をかくの如く考案せり。







三人の不注意な女たちがたわむれに
サイコロを投げて誰が最初に死ぬかを占おうとした
そして負けた女は内心面白がりつつ笑っていた
もっと長生きするものと考えていたからである
しかし見よ、タイルが頭上より落ちてきた
この死は女がサイコロで自ら呼び込んだに等しい

われらが不注意なときをすごすとき、
予想もしない不運が到来する
されど神のご加護を願い
一心に祈りを捧げるならば、われらは破滅より免れよう
良き祝福はわれらの祈りに応えて到来するが
悪しきことはわれらの予想より先に来るが常なれば







裸の愛が微笑みながら座る
弓も矢筒も帯びず、
片手に魚、片手に花を持つ
海に陸にその力が及ぶことを示さんがため







翼ある片腕にて星空へ飛翔せん、
不滅の名声を得んと欲するも、
我欲と困窮に妨げられ
我が名は塵芥の中に没す。
片腕は飛び、片腕は重石に縛られ
地に留まざるを得ず。
我が望み、我が意はそれでも高みに上ることなり。
我が貧しさ、我が悲哀が我が望みを否とする。
ここに示すは才知学識に秀でたる者たちが
高き身分を望む姿なり。
されど貧苦と心労という重荷が
上ろうとする者たちを引きおろす。







スカンポが踏まれながら育つのは日頃目にするところ
美徳も長らく姿を隠していようとも、傷とともに緑を増す






かつて神の似姿が生き生きとあらわされ、
聖なる理性が配置された場所、
すなわち頭部は視覚、嗅覚、聴覚と味覚を
ふんだんに備えたる。
見よ、いまや髑髏となり、腐敗し、禿げあがり、干上がり、
納骨堂に安置されるにふさわしき遺物となれり。







サタンが全力をもって奮闘し
真理と聖なる法を隠蔽せんと欲するも
主は自らの言葉に光を与え
それは東から西まで真に輝く
幸いにもそれを目にする者は
祝福された書のなかに救済を見出す







高く舞い上がりしイカルスは
さかさまになり海に墜落する
息子に作ってもらった軟蝋の翼は
すぐに溶け出し羽根を散らす
なにも気にすることなく飛び続け
腕を動かせばそこにはなにもない

されば気をつけよ、身の程を超えて上る者たちよ
人の身にあまるものを求めて
天上界と星々を探り、
未来の出来事を語る者たちよ
恥じらいをもって己が弱さを認めよ
上りすぎて身の破滅を招かぬように







ヘラクレスが大いなる棍棒を手に
獅子の皮をまとって眠るとき
矮人の一団が突進して
この敵を殺そうと襲いかかる。
されど愚かなり、小人どもよ。その力はあまりに小さく
ヘラクレスは目を覚ますとかれらを木の実のように潰したる。

われらにとってもこれは教訓なり。身の程を越えたわざを
試みることなかれ。力の及ばぬ仕事を請けるなかれ。
さすれば己が無力を証明して恥をかくこともなく
結末を目のあたりにして失神することもなかろう。
強者と争わんとする貧者はまさにこの絵の戒めるところ、
学者を辱めんと欲する愚者もまたさなり。







天を貫かんとする大いなる螺旋塔に
緑の蔦が巻きつきたる
塔の屹立したるなか、蔦もまた高き花を咲かせる
されど塔が縮むとき、蔦の足元は危うし
大いなる柱はわれが慈悲深き君主なり
枝葉は教会なれば、以下の如く語る

われは昨今、嵐に襲われ
巨人族の手酷い攻撃に打撲を負い
火と剣で責められたるが
いまや自由の身になり、敵は眼中になし
名声とどろく女王陛下の君臨するなか
その庇護によりわが花は栄え咲かん







旅人は熟せぬ葡萄を酸いもの悪しきものとし
足下に踏みにじり、一顧だにしない。
熟せば甘く美味になるものを。
さればここに学ぶべき真に教訓あり。
愚かなる者たちは物事をそのままに判断し
時がもたらす完成というものを考慮しない。

この世界にあっては、美しく稀有なるものは
最初は生硬にして苦味に満ち、酸いが
時とともに甘く、柔くなり、
そのままとどまりて花と実をもたらす。
さればわれらも時を用い、無駄に過ごす時間ほど
大いなる損失はなしと思い知るべし。







われらは自らの悪行を常に硬き大理石に刻まん
それらを常に念頭に置かんがためなり
われらの善行は灰塵の上に記されるも同然
たちまち風に吹き飛ばされ面目を失うものなり
石に刻むべし。われらが目にし、一生決して許さぬと思う不正を、
すぐに忘れてしまわぬために







かつて頭を守りし堅固なる兜が
いまや静かに蜜蜂の巣の役割を果たす
血なまぐさい戦が終わったならば
蜜蜂は兵士を守りし場所に平和の結実をもたらし
人の戦の終わりしのちの
和平の蜜の甘きことを高らかに宣言す







ペリカンは雛を蘇らせるために
自らの胸を刺して血を与える
されば汝も自らの胸のうちを探り、舌先を以ってしたるが如く
筆を以って進んでわれらの祖国に報いよ
汝の熱意は偉大なり、汝の学識は深遠なり
されば汝の富めるものをもってわれらの不足を補いたまえ







貧者に施しをするときは秘密裏に行うべし
神は汝の贈り物を見届け
汝にしかるべき報いをもたらすであろう
されど汝が施しを吹聴しつつ公に行うなら
汝の施しは無為とならざるを得ず
汝の意図が世に知られることにあると
明らかになるがゆえ







多くを聞き、なにも語らず、悪しきものより逃れよ
この教訓をこの形によって皆に教えよ







大理石の壁や強固なる石柱に
これを貫かんと矢を打ち込むは無益なるかな
矢は力及ばず地に落ちるか
放ち手のもとに撥ね返るのみ
されば悪しき陰口も矢の如く鋭き言葉も
美徳を傷つけることはかなわず、美徳の敵を悲しませる







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