3DCG紙芝居 |
魔法中年マグレガー |
VS |
七人の黄金吸血美女 |
第十三話 月光の降りそそぐ屋台
「その書物がここにあるのなら、自分で持ち去ればよいだらう」 明石がバアルに言い放った。
「それは難しい。この地では余は水面の影ほどの力も持ち得ないからだ。誰でもよいから赤い本を手にして余のもとに参れ。この場に魔界への入り口を作ってやろう」
瞬間、ブライス街の一室に魔風が渦巻き、中央付近に濃厚な闇が出現した。
ビル・エイツが隣室に入りこみ、一分もたたずに赤い革表紙の書物を手にして出てきた。エイツはその書物をアルテミシアに手渡し、背後から彼女の両肩に手をかけ、耳元でささやいた。「さあ、あの闇のなかに入るんだ。愛してるよ」
明石はうさんくさげにエイツを眺めた。
そのとき扉が破裂するように開き、息せき切った少年探偵アレックが駆け込んできた。
エイツがアルテミシアの背中激しく押した。
赤い書物が宙を舞った。
アレックがジャンプして手を伸ばした。
間一髪、書物は闇の渦の中に飛び込んだ。
「持ってこいと言ったはずだ!」 バアルが歯軋りするように叫んだ。
闇の渦は一瞬動きを止めた。数秒後、それは不気味な光を放って逆回転し、数条の光芒を閃かせて大爆発を起こした。
誰もが壁面まで吹き飛ばされた。
2002 oujupah |
一方その頃、タワーブリッジではベルゼブブとビフロンズ・ぬっぺふほふ・蹴早がにらめっこをしていた。
死霊検死官ウィリアム博士はここに至ってようやく事態を把握したのである。
「考えれば、ベルゼブブともあろう者がのこのこと地上に現れるわけもないし、ましてバアルの配下に入るなどありえない。あれは幻影か」
そうひとりごちたとき、ベルゼブブもビフロンズも不意に姿を消した。タワーブリッジはもはや大怪物が対峙する戦場ではなくなった。
なにもかもが嘘のように静まった。
ウィリアム博士はおもむろに腰をあげ、チョッキのポケットから金時計を取り出した。
時刻を確認すると帽子のひさしを直し、ゆっくりと歩きはじめた。
暗雲の切れ間から月光が漏れ、敷石に落ちる影の輪郭が明確になってゆく。
ハイストリート沿いに焼き栗の屋台が並んでいた。
ウィリアム博士は一袋包んでもらうと半クラウン銀貨を渡し、釣りを受け取らなかった。
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次週予告 :
終わります。ついに来週終わります。悲嘆に暮れる薄幸の美女にパントモルファス・イユンクスの救いの手が差し伸べられるのであります。どうにかひとりくらいは黄金吸血美女も登場できそうです。1900年ロンドンに巻き起こった無責任な魔法事件はようやく幕を降ろします。今後はもっとためになる記事に専念せねばと思いつつ、「高島平団地の巨大ヒル」や「志賀島の人食いアメフラシ」も捨てがたいと悩み果て無し。