3DCG紙芝居 |
魔法中年マグレガー |
VS |
七人の黄金吸血美女 |
第十話 長距離走者の蠱毒
それは過酷なマラソンであった。不定形生命体ビフロンズは緩慢ながらも執拗に追跡してくる。しかも一定の距離以上に振りきることができない。直線で500ヤード離したとしても、角を曲がると距離は30ヤードに縮まってしまう。少しでも目を離すと急接近してくるのだ。
マグレガーは常時ボクシングで鍛えているし、アレックには若さがある。両名ともそれなりのペースでビフロンズを振りきれるが、死霊検死官ウィリアム博士には無理な相談だった。博士はウォピング・ハイのあたりで姿が見えなくなった。ビフロンズに吸収されたか、あるいはテムズに飛びこんだのか。
「どうすりゃいいんです?!」 アレックが走りながら叫んだ。
「夜明けまでがんばるしかない!」 マグレガーが答えた。
アレックは懐中時計を取り出した。11時半。夜明けまで少なくとも六時間はある。
「少し休もう」 マグレガーは両膝に両手をついて上半身を支え、呼吸を整えた。アレックはその場に座りこんだ。
ビフロンズは秒速4ヤードで接近してくる。おおざっぱにいって、マグレガーたちは三分間走って500ヤードを稼ぎ、ほぼ一分間休憩することができる。これを六時間続けるとなると、よほどに頑健な人間でも疲労困憊するであろう。
「−−なんでこんなことに?」 アレックが荒い息の下から疑問を発した。
「おそらく −−」 マグレガーが答えようとしたが、そこで口をつぐんだ。400ヤード後方に見えるビフロンズの姿に、明らかな変化が認められたからだ。
距離300ヤードで変化の詳細が判明した。ビフロンズは半透明の人体骨格を形成しており、そのうえに杉綾状の青い光のローブをまといつつあった。顔があるべき場所には六芒星が輝いている。
距離200ヤード。ビフロンズの胸元に赤い十字が見て取れた。全体、フードをかぶった隠者の如き姿である。
距離100ヤード。ビフロンズの移動速度が急激に上昇した。
「逃げろ!」 マグレガーが絶叫した。
2002 oujupah |
「待て」
それはアレックの声でもマグレガーの声でもなかった。
「待つのだ」
魔法中年と少年探偵は振りかえった。
その声は青い光に包まれた異形が発したものだった。
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次週予告!
長からむ 心もしらず 黒髪の みだれてけさは 物をこそ思へ (待賢門院堀川)
突如引用される和歌に如何なる意味があるのか。復活したアルテミシアのもとに押し寄せる運命の男たちの正体は? 怪傑バッテン仮面の赤マント(レンダリング済み)がひるがえるとき、凶銃モーゼル(資料なし)の弾丸が(おそらく)闇を切り裂く(かも)! よりによってあの姿に変貌したビフロンズ・ぬっぺふほふ・蹴早(けれぱや)の目的は? 紙芝居の限界に挑むダブルプロットをもってすら、黄金吸血美女の出番はないのか? くうかいまにまにだすき、くうかいこ、くうかいかむ。呪文とともにストーリーはいよいよ佳境を向かえんとす!