Note : The following articles are a sort of burlesque based on the fictious history of the Hermetic Order of Golden Down (sic). Gentle readers are kindly requested not to take them seriously. All characters in this burlesque are fictious. Any resemblance to actual persons, living or dead or undead, is purely coincidental.




これまでのおはなし

 少年探偵アレックが謎の美女に襲われています。




3DCG紙芝居
魔法中年マグレガー
VS
七人の黄金吸血美女


第七話 真説・黒魔術の娘 (愛と哀しみのアルテミシア)

 「説明してもらおうか」

 マグレガーがアレックを横目でにらんだ。足元には妙齢の美女が倒れている。

 「自己防衛ですよ。とりあえず気絶していただいたんです。こいつで」 アレックは不思議な道具を見せた。それはシャンデリアに用いる棒状ガラスに木製の柄がとりつけてある細工で、青い蛍光を放っていた。

 「そんなものまで入手していたのか。隅におけんな」 マグレガーは唸った。その道具は「綿毛団」の達人ベネットが開発した「ブラスティング・ロッド」と称される魔法杖であり、柄に仕込まれた乾電池が発する高電圧スパークを食らえばまず半日は身動きができない。最大の問題はランニングコストであって、乾電池一個が1シリング6ペンス、これを二個仕込んでも一回の放電で交換を余儀なくされる。ともあれ「アンナ・シュプレンゲル」を名乗った女性は感電して人事不省状態になっているのである。

 「そりゃぼくだって使いたくはなかったですよ。だけど、この女性は危険だった。なにものですか?」

 そこへ物音を聞きつけたウィリアム博士も顔を出し、「検死しようか?」と声をかけてきた。

 「いいからこっちへきて脈くらいとったらどうだ」 マグレガーがほえた。

2002 oujupah


 魔法中年二名と少年探偵一名は気絶した女性を抱き起こしてソファに寝かせた。ウィリアム博士の診断では生命に別状なし、回復に十八時間を要するとのこと。

 「たしかこの婦人は−−」 ウィリアムが記憶の糸をたどっていた。「アイルズ、そう、たしかアルテミシア・アイルズといったな。思い出したよ、あいつの情婦だ。パーティーで数回見かけたことがあったが」

 「あいつとは?」 アレックが美貌の女性から視線をそらすことなく質問した。

Bennet Blasting Rod


 一方その頃、福岡県立国際陰謀団ロンドン支部ブライス街出張所。
 
 突然の電光と物音は、張り込みを続ける日本人たちの観察力を逃れうるものではなかつた。

 「女が入つていつたと思へば、今度は立ち回りらしい。だうなつているのだ」 金子がツアイスを手放さずに呟ひた。

 そのとき明石が三ブロック先の物陰に不審な人影を知覚し、金子から双眼鏡を取り上げて焦点を合わせた。

 ドイツ製の集光力により、長身で猫背の一見学者風の男がレンズ内にてあらわになった。

 「あいつは知つている。有名な詩人だ」 明石が声に出して確認した。「綿毛のメムバアでもある」

 金子がしばらく沈黙した。風采の上がらぬ小男ではあるが、若くして米国に留学し、ハーヴァードを優等で卒業している。状況分析の能力は折り紙つきである。

 「そいつは物陰でなにをしているのだ」 金子が尋ねた。

 「さうだな。まるで密使を送り込んで首尾を待つているやうな、そんな風体だ」 明石が答えた。彼もおよそ好男子とはいひがたい面相だが、実は日本陸軍が誇る軍事密偵の元締めである。間諜明石大佐といへば知らぬ者はいないだらう。

 金子堅太郎が尋ねた。「その詩人はなんといふ名前だ」

 「ビル・エイツだ」と明石元二郎が答えた。

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 次週予告

 ついに全貌を顕わすか秘密大陰謀! 青蝿魔王の羽音途絶え、吸血美女の麗牙ほの光るとき、巨大粘菌の神秘増殖始まらんか。唸る右ストレート、闇に光る解剖刀、魔法中年の闘争本能が爆発すれば、ロンドン東地区の壊滅は間近なり。

 列強の思惑に翻弄される黄金の綿毛団の運命やいかに!