3DCG紙芝居 |
魔法中年マグレガー |
VS |
七人の黄金吸血美女 |
第六話 地下納骨所の美女
「そもそもパラケルススのホムンクルスと聖ダンスタンのそれは同一ではなかったのだ! ガバリス伯爵の精霊たちはエーテルのなかに住まうという。されば近年アカデミアにて議論されしマイケルソン・モーリー実験など誤謬のきわみであろう。モートレークの墓所に秘められたる神秘粉末こそ碩学ディー博士が人類に遺せし秘宝なり。エーテル界の生命体を物質次元に移行させる術が完成されたのだ。あとは死せる魂の指定捕獲法を確立するだけだ。思え、われらは過去の偉人たちを随意に受肉させることができるのだ!」
「さよう、エリアス・アシュモールもロバート・フラッドも大いなる錯誤を犯しておったのだ。生命の起源がひとつであると想定すること自体、一神教的発想から解放されていない証左といえよう。進化の系統樹が二重螺旋構造になっておるなど、われら近代カバリスト以外の何者が発想できようや。見よ、ついにグノーシスの闇に一条の光が差し込んだ。われらはもはや昨日までの脆弱な生命ではない!」
ウィリアム博士とマグレガーが不定形生物を前に激論を交わしているさなか、少年探偵アレックはそっと席を外した。夢見る中年のファンタジー・トークにはつきあえないのである。とはいえこの場所はまぎれもなく魔法結社「黄金の綿毛」団秘密本部である。現場検証の価値は十分にある。
アレックは「黄金の綿毛」団の内情を熟知していた。そもそも本気で秘密保持を考えているのか、「綿毛」団では団の秘密文書の複写や製本を外注しており、ちょっとさぐりを入れれば裏も表も丸見えであった。さらには団員個々の守秘義務など皆無に等しく、神智学協会の会報に魔法名で投稿する者あり、部外者宛の私信にて団の内情を暴露する者あり、百花繚乱である。この傾向を取り締まるべき指導者層さえ、たとえばウィリアム博士は「薔薇十字達人」の肩書きで魔法書を出して「綿毛」団の存在を示唆していたし、パリのマグレガーに至ってはGD団最高首領を名乗りつつ「猫神崇拝」を提唱して各方面の失笑を買っていた。全体、たちの悪い冗談としか思えない存在だったのだ。
(これが“地下納骨所”だな) アレックは別室にて舞台装置めいたものを発見した。七側壁からなる木箱状の小部屋であり、ここで「綿毛」団の秘密儀式が行われるのだ。一応遠慮がちに小部屋の扉を開けてみたアレックだったが、なんとそこには先客がいたのである。妙齢の美女がたたずんでいた。
2002 oujupah |
「ああ、びっくりした。天使かと思った」
アレックはベストスマイルを浮かべて純真無垢を装った。この“天使”の部分は相手次第で“女神”や“マリアさま”や“メアリー・ピックフォード”に変わる。女性の内懐に一気に飛び込む「わざ」であり、これまで失敗したことがない。もちろん、この手が使えるのもあと数年であることを聡明なるアレックはわかっていた。今回の場合はとりあえずの猫騙し、状況判断のための時間稼ぎのようなものだった。
この女性は“法衣”をまとっていない。それでいて“地下納骨所”の中央にたたずんでいる。突然扉を開けられても、別に慌てるふうでもなく自然に微笑んでいる。
(団員じゃないな) アレックは直感した。
「わたしはアンナ・シュプレンゲル」 そういうと女性は左手を差し出した。
「光栄です」と云いつつその手を握ったアレックだったが、キッド越しですら冷感が伝わってきた。
(いやな感じだ) アレックは警戒した。母性本能をくすぐりつつ隙を見ていかがわしい行為に及ぶのがアレックの得意技だが、今はそんな余裕はなかった。一刻も早くマグレガーやウィリアムのもとに戻るのが先決だった。
「ま、ここじゃなんですから、あちらのほうへ」 そう云って退去を試みたが、女性の手はアレックの手首をしっかりと握っていた。
「あのぉ…」ととまどうアレックの顔先にアンナの顔が接近してきた。女は冷たい目でアレックを凝視し、低い声でつぶやいた。
「あなたの血は穢れている」
瞬間、バチッと火花が飛び、焼け焦げの臭いが広がった。なにかがどさりと倒れた。
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次週予告(オッペケペ・ヴァージョン)
凶銃モーゼル何処行った、妖精革命何処行った、先週と今週でなにかが違う、言行不一致の恐ろしさ、オッペケペッポー、ペッポッポー。
来週こそはと打ち上げて、結局終わらぬレンダリング、出来合いデータを持ち出して、とにかく守る締め切りを、オッペケペッポー、ペッポッポー。
主客転倒当たり前、キャラの暴走折込済み、尻切れとんぼの舞うなかを、見せてしんぜる心意気、オッペケペッポー、ペッポッポー。