Note : The following articles are a sort of burlesque based on the fictious history of the Hermetic Order of Golden Down (sic). Gentle readers are kindly requested not to take them seriously. All characters in this burlesque are fictious. Any resemblance to actual persons, living or dead or undead, is purely coincidental.




これまでのおはなし

 ロンドンの片隅にある魔法結社本部にて、魔法中年と少年探偵と死霊検死官がわけのわからない会話を交わしています。




3DCG紙芝居
魔法中年マグレガー
VS
七人の黄金吸血美女


第五話 福岡県人会ロンドン支部

 「あのマックグレゴルとか云ふ奴、なんでも伯爵を名乗つておるさうだが、正体はただの平民ださうだ。おおいにあやぶむべしだな」

 ツァイスの双眼鏡をのぞきつつ男が呟いた。

 「さればこそ利用もできるというものだ。妖僧のたぐいも使いやうだらう」

 部屋の奥から別の男が声を発した。

 読者は知らず実に「黄金の綿毛」団秘密本部の所在するブライス街にはあろうことか福岡県人会倫敦支部が設置してあつたのだ。ここ大英帝都に集う九州男児たちは魔法結社の動向を仔細に観察して居た。双眼鏡の男は金子、もう一人の男は明石と名乗つた。

 「ともあれ乃公は米国をやる。欧州正面は任せたぞ」 金子が心細げに云つた。

 「やるだけはやつてみやう」 明石がぼそぼそと答えた。「ようするに得体の知れない有象無象を送り込むだけのことだ。道鏡の故事ぢゃないが、あちらの后妃は随分と妖しげなのに取り巻かれておられるといふ話だ。ペテルブルグの宮廷はちょっとした伏魔殿らしい」

 暫時沈黙の後、明石が独り言のように付け加えた 「できれば紐付きで送り込みたいものだ」

 そのときツァイスを覗いていた金子が声を発した。

 「女がきたぞ。なかなかの美人のやうだ」

 明石が双眼鏡を借り受けて覗いてみた。二人乗り馬車から降り立ったその女は、瓦斯灯の下から「黄金の綿毛」団秘密本部の窓を見上げていた。この半年、結社に出入りする人間を観察していた明石にとつても、初めて見る顔だつた。

2002 oujupah


 一方その頃、魔法結社の秘密本部ではウィリアム博士が長広舌をふるっていた。

 「諸君、紹介しよう。フロイライン・シュプレンゲルだ」 博士が誇らしげに手を差し伸べた先では、ガラス製シリンダー容器のなかの不定形生命体が青い燐光を放ちつつ蠕動を繰り返していた。

 マグレガーが目を輝かせた。「なるほど、あなたはネクロマンシーとホムンクルスを融合させたのだな!」

 「さよう、余はモートレークの廃教会にて聖ダンスタンの秘儀を発見したのだ。古文書に記されたとおり、処刑された女の墓で見つかる微細な粉末にゼラチンと血漿を加え、適切な湿度のもとで培養する。しかるのちに吉日吉時を選んで召喚魔法円を描き、死せる達人の魂を呼び込むという手順だ。破天荒の所業であるが、余はやってのけた。見よ、このあやしくも美しい柔らかな青き宝石を! 余は生命の神秘を解き明かしたのだ!! ダーウィンよ、ウォーレスよ、わがまえにひれ伏すがよい! トマス・ハクスリーよ、わが靴紐を結ばせてやってもよいぞ! ははは、ははは、ははは!!!」

 魔法中年二名が幻想と怪奇に陶酔しているさなか、少年探偵アレックは慎重に計算していた。

 (ようするに発光性の粘菌だな。しかしこれはこれで使い道がありそうだ。クルックス翁の推薦文がつけばミネソタあたりで一儲けできるだろう。繁殖力が強そうだから、小分けに切り売りしてもいいな)

 しかし全員、これから起きる空前絶後の事態は予想だにしていなかったのである。

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 次週予告 :  ついに世界秘密の一大陰謀がその全貌を露わすか! 能天気な神秘魔法結社を巻きこむ福岡県人の暗躍や如何に! 各国列強を震撼させる一大陰謀「妖精革命」の秘密情報が間諜美女の手に渡るとき、凶銃モーゼルの必殺弾丸が闇を切り裂く! ウェストミンスターが哀歌に包まれ、タワーブリッジにオッペケペ節が鳴り響けば、今様バビロンの崩壊が始まるのか!? ところで黄金吸血美女はどうなったのか、はたしてこの先出番はあるのか、謎と不安を残したまま紙芝居はいよいよ佳境に突入せんとす! 読者よ、鶴首して待つべし!