3DCG紙芝居 |
魔法中年マグレガー |
VS |
七人の黄金吸血美女 |
第三話 少年探偵アレック
「それで、蝿の王様はどうなりましたか?」
言葉こそ丁寧だが、口調のはしばしに不信と冷笑が漂っていた。(いけすかない小僧だ)とマグレガーは思った。しかし当面、ロンドンではこの少年以外に頼れる相手もいないのである。少年探偵アレックと魔法中年マグレガーを乗せた辻馬車はストランド街を東に向かって進んでいた。
「消えた。しょせん思念投射はこちらが壁を築けばおしまいなのだ」
「なら、それでいいじゃないですか」 アレックは脚を組替えると軽く伸びをした。「なにも電報まで打ってぼくを呼び出すことはない」
Alec |
四人乗りの箱型馬車はフリート街を通過していた。
「消えたのはいい。わたしの神殿に出現したことが問題なのだ」 マグレガーがゆっくりと、言葉を選びつつ説明を開始した。「わたしと個人的に面識がある人間でなければいきなりの思念投射など不可能だからだ。すなわち、敵は身内にいるということになる」
アレックが左眉をひょいとあげた。「ご存知のように、ぼくの専門は犯罪捜査じゃない」
「きみと最初に出会ったのは、マダム・フェラーリの降霊会だったな。あのときの手際はいまでも覚えているよ」 マグレガーがにやりと笑った。
「人助け、ですよ。いつだってぼくは」 アレックもにやりと笑った。
「マダムのいかさまを見事に暴露し、詐欺を未然に防いだ。なるほど人助けだ。だまされてた連中からずいぶんと謝礼をもらったそうじゃないか。ところできみが現在、そのマダムの屋敷に居候しているのは、控えめにいっても“興味深い”というところだな」
「だから、人助けですよ。あのままじゃ彼女も気の毒ですからね」 アレックが肩をすぼめた。
マグレガーも肩をすぼめた。「誤解しないでほしいが、きみを糾弾しにパリから出てきたわけじゃないんだ。むしろ逆だよ。きみの指導のもと、マダム・フェラーリのいかさまは段違いに洗練された。ああなれば、もはや詐欺ではなく事業といっていい」
アレックの口元が皮肉っぽくゆがむ。所在なげな指先が車窓をこつこつと叩いた。
「フィクションをねたに一人から一万ポンドむしれば詐欺だろうけど、一万人から一ポンドずつ頂戴してるんですから。まあね」
二人を乗せた馬車がセントポール大聖堂横を抜け、イングランド銀行を左に眺めつつコーンヒルへと転針した。
2002 oujupah |
瓦斯灯に火がともるころ、馬車はようやく目的地についた。あたりは青白い霧に包まれている。魔法中年マグレガーと少年探偵アレックはブライスロードの石畳を踏みしめた。
「ほらよ」 そういうとアレックは半ソヴリン金貨を御者にトスした。
「サンキュー、ガヴァナー」 礼とともに御者が手綱を鳴らした。馬車は霧に呑まれるように姿を消した。
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次週予告 : ハマースミス地区の北東に所在するブライスロードにて、いかなる怪異がかれらを待ち受けているのか。夢見る中年とあくどい少年が織り成す悲喜劇はいかなるものか。青蝿魔王の羽音が絶えるとき、死霊検死官ウィリアムの野望が暴露されん!