Note : The following articles are a sort of burlesque based on the fictious history of the Hermetic Order of Golden Down (sic). Gentle readers are kindly requested not to take them seriously.




これまでのおはなし

 魔法結社「黄金の綿毛団」の首領ウィリアム博士がなにを考えてか墓荒らしをしています。




3DCG紙芝居
魔法中年マグレガー
VS
七人の黄金吸血美女


第二話 早くも魔王出現


 ウィリアム博士がロンドン郊外にて墓荒らしにいそしんでいるまさにその時刻、パリでは大いなる怪異が生じつつあった。

 花の都パリ、カルチェ・ラタンの一角にわれらが魔法中年マグレガーのエジプト風神殿が建立されている。なるほど世俗の眼には2LDKの安アパートに見えるであろうが、訓練を積んだ霊視者であれば周囲に広がる青い霊光のピラミッドを見落としはしない。ご近所から白眼視されてはいるが、マグレガーこそは真の偉才にして鬼才、二十世紀を間近に控えて古代宗教儀礼「ライト・オブ・バスト」を復興しようと粉骨砕身しているのだ。

 古代エジプト第十二王朝の頃、ベニハッサンを中心に栄えたバスト祭儀とは、早い話が猫の神様を拝もうというありがたい宗教様式である。マグレガーは猫神の司祭としてパリの野良猫を保護する一方、動物虐待禁止条例の制定を目指して各方面にロビイスト活動を行っていた。

 偉大なる思想家アンナ・キングスフォードが動物愛護法に関して述べている。「かつて日本では犬をいじめた者は処刑されていた。われわれもこの高貴な精神をみならう必要がある」。

 ならばおれは猫をかついでがんばろう。アンナと面識があったマグレガーはそう決意し、とりあえず自宅の周囲にマタタビを散布して猫を寄せたのであった。

 もちろんこういった行動は、彼が主宰する魔法結社「黄金の綿毛」団団員の全面的賛同を得られるものではなかった。ありていにいえば、ロンドンは彼のいうことを聞かなくなっていたのである。

 ロンドン本部の責任者こそ、かのウィリアム博士であった −−

***

 その晩、マグレガーはいつものように簡易神殿にこもっていた。小部屋ではあるが、儀式専用室として柱や旗が常設してある。八歩あるけば壁に衝突する手狭さだが、視覚化という術に長けた魔法使いなら、この小空間を大宇宙に変換するなど朝飯前である。マグレガーはいつものように天使や神格の御名を唱え、その御名に縹渺とした衣を着せていった。

 なにかおかしい。そう気づくには数秒を要しなかった。いつもならば無限の星空となるべき空間が、今夜はどんよりと曇っている。しかもその雲はマグレガーの随意とならず、晴れることがない。

 (疲れてるからか−−) そう思った矢先、マグレガーの眼前の雲が割れ、褐色とも濃緑ともつかぬ円柱が出現した。なにことならんと目を凝らすと、円柱の数はさらに増えた。それぞれが数十メートルはあろうかという不潔な色彩の柱が空からぶら下がっている格好だ。

 続いて赤い円盤のようなものが出現した。

 (”蝿”だ)

 マグレガーは悟った。それは蝿の節足であり、蝿の複眼なのだ。だが、なんという大きさ。ドーヴァーを往復するコーデリア丸(排水量7200トン)を凌ぐであろう。これは蝿の王様だ。

 そして「蝿の王」という普通名詞がベルゼブブという固有名詞に変換されるにはさらに数秒を要したのである。

 マグレガーは反射的に行動した。左手で東旗を持って盾となし、右手でハイエルース剣を構えたのである。もちろんこの世のものでない蝿に物理的防御など無意味であるが、魔法使いの武器は心の延長である。光の象徴たる東旗、意思の象徴たる剣はマグレガーの心を大いに強化する。

2002 oujupah


 蝿はさらに実体化し、すさまじい羽音を轟かせた。儀式場の柱は倒れ、祭壇もどこかに消し飛んだ。猛烈な腐臭がマグレガーの鼻腔を直撃する。

 迫りくる魔圧に備えて魔法中年は姿勢を低くした。


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 次週予告 : 墓石が倒れ、蝿の群れが舞うとき、少年探偵アレックのもとに一通の電報が届く! いつになったら黄金吸血美女は登場するのか、だいたい七人も必要なのか、三人くらいで堪忍してもらえんやろか。そもそも吸血鬼のどこが黄金なんやろか。

 美人窈窕嬋娟なるべし。賢人春風駘蕩たるべし。武人智勇無双たるべし。魔人神韻縹渺たるべし。波涛閃くドオヴァアの白亜岸壁に青蝿魔王の羽音木魂するとき、不羈奔放の探偵少年出動ならん!