ペーパー結社の作成法
How To Make Up a Paper Order
( and rule the world)



ペーパー結社とはなにか?


 そもそもペーパー結社とは、その名の通り、紙の上にのみ存在する架空組織であるが、本来的にはフリーメーソンリーに起源を発する由緒正しい遊戯なのである。

 メーソンリーでは支部を設ける際にチャーターなる許可証を出すわけだが、このチャーターだけが一人歩きしたあげくに売買される場合があり、これをペーパー・ロッジと称する。メーソンリーの好事家はこの種のチャーターを山ほど収集して、各種ロッジの代表となるのである。無論、名目上の代表であり、メンバーなどいないのであるが、一応の体裁だけは整うという具合なのだ。チャーターの値段はまちまちであり、筋のよいものすなわちユナイテッド・グランド・ロッジから承認されたロッジの流れを汲むチャーターで、18世紀の代物なら何千ポンドもする。安いものは10ポンドあたりから手に入るが、この手のものは聞いたこともないような儀礼となる。

 メーソンリーから派生した英国薔薇十字協会、そこから派生したといえる黄金の夜明け団には、この種のペーパー・ロッジを生む土壌があったのであり、事実、黄金の夜明け団はその創立当初から“Fratre Lucis”や“Order of Light”といったペーパー・オーダーにつきまとわれていた。両者ともオシリス・テンプルのF・G・アーウィン(1828-1893)が所持していたペーパー・ロッジであり、名前だけが一人歩きしていたのである。

 ペーパー結社のメカニズムを知っておけば、この世界につきものの詐欺やイカサマを見抜く目も養えるというものである。



ペーパー結社のお約束


 そもそもペーパー結社は由緒正しいふりをする必要がある。二年前に有志が創立したなどという触れ込みでは箔がつかない。少なくとも100年くらいは必要である。
 また、微妙な歴史的信憑性を持たせる必要もある。史実と史実のあいだにフィクションを織り込み、もしかしたら本物ではないかと思わせるのが腕の見せ所であろう。

 創立者の選定も重要である。いきなりビッグネームを持ち出しても失笑を買うだけであるし、まして霊的存在や異星人などは論外である。
 
 O∴H∴の場合を例にとると、およそ誰も聞いたことのない三名の幕末期の人間が創立者として名を連ねているが、うち二名は実在の人物である。創立舞台を長崎としているのは、フリーメーソンリーとの関連を暗示するためである(日本初のロッジ、オテントウサマは幕末の長崎で開かれた)。さらにいえば、カサンドリア号の火災沈没事件も、その後の積み荷の売却も史実である。そのなかにレヴィの書物があったとするあたりからフィクションが始まるのである。

 ペーパー結社にも二種類ある。ちゃんとした組織にする予定であったのに、結果として人が集まらず、ペーパー結社になったものと、最初からペーパー結社に終始すべく計画的にでっちあげられたものの二つである。結果ペーパーと計画ペーパーと呼称することにしよう。

 結果ペーパーはようするに企画だおれであって、たいして面白いものではない。

 計画ペーパーはその動機が問題である。詐欺を目的としたものは明らかに犯罪であるから、もはやここで言及する必要もなく、司法の出番となる。
 計画ペーパーの場合、ジョーク、冗談、いたずらがその主目的である。ゆえに笑えない内容を伴う計画ペーパーは邪道である。さらにいえば、推理小説と同様、どこかにヒントを残しておくべきであって、見抜けなかった人間をからかうべきである。



ペーパー結社の運営法


 実体のない組織であるから運営もなにもあったものではない。



ペーパー結社の宣伝法


 むしろこれが基本である。宣伝なくしてペーパー結社なしといえる。

 宣伝に際しては、ただ結社名を連呼すればよいというものではない。嘘をつくにもなんらかの根拠がいるし、さらには世人の注目を集めるにはそれなりの餌が必要である。ハイレヴェルな情報にさりげなく悪戯を潜ませるのが腕である。

 世界有数のペーパー結社といえば、17世紀初頭のドイツで発生した「薔薇十字団」であるが、この架空組織は出所不明のパンフレットをばらまくことで宣伝を行った。謎の創始者ローゼンクロイツの伝記を中心に、当時流行しつつあったコスモポリタニズムの採用、最先端の科学技術を思わせる各種ガジェットへの言及、選ばれた賢者の集いという神話的モチーフ等、実に興味をそそられる内容であったため、ここまで人口に膾炙したといえる。
 
 計画ペーパーは、非常に手の込んだジョークとならざるをえないのである。



ペーパー結社の解散法


 計画ペーパーが軌道に乗った場合、ある意味で解散は不可能となる。「薔薇十字団」を見ればわかるとおり、17世紀の計画ペーパーが現在ですら取り沙汰されているのである。

 積極的に解散したい場合は、まえもって自爆装置を組み込んでおく必要がある。すなわち、ある情報を明らかにすればすべてが水泡に帰すような、そういう仕掛けが必要だということである。団名のアナグラムなどが用いられることが多い。
 



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