第二章

 おお人よ、無力なる人間たちよ、かくも深遠なる学問を無闇に欲するその大胆さこそおぞましきかな。されば己が分際を超えてわれから学ぶがよい。何事をなすにせよ堅忍不抜こそ枢要なり。われが語るすべてを逐一正確に吟味せよ。それなくしてはあらゆる作業は汝の不利益となり、混乱となり、身の破滅となろう。わが指示に正確に従うならば、汝は貧苦より逃れ、万事に成功をおさめるであろう。

 ゆえに汝は大胆、熟慮、叡智と美徳にて汝自身を鎧うべし。それこそがこの選ばれし者のための大作業をおこなうための資格なり。われはこの作業をおこなうこと六十と七年余り、日夜をわかたず没頭し、成功を収めたる。此処に記すことを忠実におこなうことこそ、作業達成に不可欠なる要訣なり。 
 月の弦全期間中女人に接することを控えよ。これは身を汚す可能性を払拭するための処置なり。魔術作業の始まりは月の弦の始まりをもってなす。すなわち弦の始まりにあたり大いなるアドナイあらゆる霊たちの主に対し、一日2回以上食事をとらぬことを誓約すべし。すなわち魔術弦の期間中の食事はたとえば正午と真夜中、午前7時と午後7時の2回のみとるべし。食事に先立ち次の祈りを唱えよ。

祈り
われは嘆願す、おお強大なるアドナイよ、すべての霊の主よ、われは嘆願す、おおエロヒムよ、われは嘆願す、おおエホヴァよ、おおアドナイよ、われはわが魂を捧ぐ。わが心臓を捧ぐ。わがはらわたを、手を、足を、わが欲を、すべてを捧ぐ。おお大いなるアドナイよ、われに恩寵を与えたまえ、そうあれかし、アーメン。


     



 それから食事をとるべし。作業期間中はなるべく法衣を脱がず、眠ることも控えよ。大いなるアドナイの善にかぎりなき希望を抱きつつ汝がおこなう作業について不断に瞑想すべし。しかるのち、月弦の最初の夜が明けた朝、薬局に赴きエマティユと称される血石を購入せよ。この石は常に携帯せよ。汝はこれから霊を服従させる作業に乗り出すのであるが、それを察した霊が全力をあげて汝の意気をくじこうとする。汝を恐怖で圧倒し、汝がもたらすであろう災厄から逃れようと試みるやもしれぬ。エマティユはそれに備えるための処置である。霊の喚起作業は一人ないし三人にておこなうことを覚えおくべし。そのなかの一人はカルシストすなわち破砕杖を手に霊を語りかける役の人間である。喚起作業の場所は慎重に設定すべし。人気のないわびしい場所にしてカルシストの作業に邪魔が入らぬことが条件である。しかるのち、未通の子山羊を購入し、弦の三日目に首をはねよ。首の周り、頭部の直下に緑色のリボンを用いてクマツヅラの花輪をくくりつけるべし。それから山羊を喚起作業の場所に運ぶべし。右肩肌を脱ぎ、純粋なる鋼の刃物を持ち、白木の焚き火をおこしたのち、以下の言葉を希望をもっていきいきと唱えよ。

主なる贄
 われはこの贄を捧ぐ、おお強大なるアドナイよ、エロイムよ、アリエルよ、エホヴァよ、すべての霊の上にある汝の誉れと栄光と力を称えん。おお大いなるアドナイよ、この贄をなにとぞおさめたまえ。アーメン。
 




 この時点で子山羊の喉を切り、皮を剥ぎ、死体は火にかけて灰になるまで焼くべし。灰はかき集めて日の出の際に日の出の方角へ散布せよ。その際には以下の祈りを繰り返し唱えるべし。
 大いなるアドナイ、エロヒム、アリエル、エホヴァの誉れと栄光と支配と御名に対し、われはこの贄の血を撒くものなり。大いなるアドナイよ、この灰をなにとぞおさめたまえ。
 贄が炎に焼かれている間にアドナイ、エロヒム、アリエル、エホヴァの御名を称えつつ剥ぎ取った子山羊の皮で大いなるカバラ円を作るべし。汝は大いなる企ての日にこの円のうちにとどまるものなり。



* 弦 quarter 月が矩と朔望との間を軌道を動く期間。公転周期の4分の1。



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