Mesmer, Franz Anton
フランツ・アントン・メスメル
(1734-1815)


☆ オーストリアの医師にして磁気治療の提唱者。

 1734年5月23日、コンスタンス湖畔の小さな村にて出生。
 1766年ウィーン大学医学部卒業。学位論文のテーマとして「惑星が人体に与える影響」を選択。古来より占星術が唱えてきた「インフルエンス」説に磁石と磁気を応用することを発想する。さらに臨床経験を得て人体には固有の磁力が存在すると確信し、磁鉄鉱による治療を放棄。手から発する生体磁気 animal magnetism を主な治療手段とする施術法を展開し、既存の医学界から白眼視される。

 1778年、ウィーンの敵対的雰囲気を嫌ってパリに移り、磁気治療を再開し、人気を博す。この頃になると多人数をまとめて治療する「磁気サロン」を開業。多数の助手も雇う。「バケツ」と称される金盥状の生体磁気活性化装置を考案。その雰囲気は治療というよりも見世物に近かったと思われる。
 メスメルは生体磁気治療の確立と普及のためにフランス王室の後援を期待して失敗。フランス医学界から睨まれ、王立医学アカデミーから否定的な報告書が出される。

 1781年、温泉地スパに移動。同地にて有志により生体磁気治療の普及を目的とする施療院にして治療士養成機関「調和協会」 la Societes de Harmonie が設立される。

 晩年は故郷オーストリアに戻り、隠居。

 1815年3月5日、死去。

 メスメルの治療行為は現在の基準で判断すれば「暗示による心因性ストレスの解消」であろうが、当時の科学者の目から見れば中世に絶滅したはずの占星術医師の再来にほかならかった。メスメル自身の奢侈志向(馬車とカナリアと絹とカジノが好き)も悪評に拍車をかける結果となった。
 オカルト界ではいわゆる「メスメルの27仮説」
がいまだ命脈を保ち、遠隔心霊治療等の根拠とされている。

1 メスメルの友人である医師がフランス医学アカデミーに提出したもの。ざっとまとめると以下の如し。

 天体、地球、生命体の三者間に相互影響力が存在し、宇宙エーテルを媒介として作用する。
 生命体には磁力に似た特質があり、両極が存在する。この力は生命体、非生命体を問わず伝達することができる。減損なく遠距離伝達することも可能であるし、光の如く鏡によって反射する。音響を介して伝達することもできる。蓄積して濃縮し、伝達することもできる。
 大部分の疾病は体内の生命磁気の乱れが原因であり、外部から適切な磁気を送り込むことで整流化が可能である。



主要著作 Memoire sur la decouverte du magnetisme animal, Chez P. Fr. Didot, Geneva, 1779.
Maxims on Animal Magnetism; Being the First English Translation of Mesmer's Original Principles and Procedures, Eng.tr. Jerome Eden, Eden Press, 1958.
Mesmerism, a Translation of the Original Medical and Scientific Writings of F.A.Mesmer, Eng.tr.George J. Bloch, William Kaufman, Los Atlos, 1980.

参考文献 Goldsmith, Margaret: Franz Anton Mesmer: The History of Idea, Arthur Baker, London, 1934.
Jensen, Ann and Mary Lou Watkins : Franz Anton Mesmer, Physician Extraordinaire, Helix Press, New York, 1967.
Darnton, Robert: Mesmerism and the End of the Enlightenment in France, Harvard University Press, Cambridge, MA, 1968.
Buranelli, Vincent: The Wizard from Vienna, Franz Anton Mesmer, Coward McCann, New York, 1975.
Wyckoff, James: Franz Anton Mesmer: Between God and the Devil, Prentice Hall, New York, 1975.

*mesmerism generally --
Colquehoun, J.C.: Isis Revelata, Edinburgh, 1836.
Esdaile, J.: Mesmerism in India, Longmans, Green & Co., London, 1842.
Townshend, C.H.: Facts in Mesmerism, Hyppolyte Baillere, London, 1844.
Gregory, W.: Letters to a Candid Inquirer, on Animal Magnetism, Taylor, Walton & Mabery, Edinburgh, 1851.
Lee, Edwin: Animal Magnetism and Magnetic Lucid Somnambulism, Longmans, Green & Co., London, 1866.
Ashburner, J.: Philosophy of Animal Magnetism, Hyppolyte Baillere, London, 1867.
Kingsbury, G.C.: Practice of Hypnotic Suggestion", John Write & Co., Bristol, 1891.
Sinnett, A.P.: Rationale of Mesmerism, Houghton, Mifflin & Co., London, 1902.
Podmore, F.: Mesmerism and Christian Science, Methuen, London, 1909.


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