カード・ゲーム 或る寓話


三人の人とカード・ゲームをしている夢を見ていた。わたしの対戦相手は男女二人組で、フードをすっぽりかぶっていて、全身をマントで包んでいた。わたしとしても、二人をそれほどしげしげと眺めていたわけではない。わたしのパートナーはフードもマントもないお年寄りだったが、一分たりとも同じ姿をしていないという特徴があった。時に若者となるが、顔自体はそれほど変化しない。若者特有の明るさ、楽しさが光となって内側から溢れでるような感じがした。わたしの背後にはだれかが立っていたが、見ることができない。手と腕だけが現れて、わたしに一組のカードを渡す。どうも黒い服を着た男性のように思われる。夢が始まってから少しして、パートナーが話しかけてきた。

 「あなたのプレイスタイルは運任せですか、それとも腕に覚えがありますか?」

 「だいたいは運任せです。腕とおっしゃられても、どうすればよいのか存じません。おおむね運はいいほうなのです」とわたしは答えた。実のところ手元にはすでに幾つか取り終えたトリックを並べていたのだ。パートナーはこう返してきた。

 「運任せとは外側を信頼することで、腕に覚えとは内側を信頼することです。このゲームでは、内側を頼るほうが深いところまでいけますよ」

 「切り札は?」とわたし。

 「ダイヤモンドが切り札です」とパートナー。

 手の中のカードを眺めたわたしは、彼にこう告げた。「クラブばっかりですよ」

 かれは笑いだした。またたくまに若者のように見えた。「クラブもまた強いカードですよ」とかれ。「黒札をばかにしないでください。もっとクラブだらけの状態で見事な勝利を収めたゲームもあるのですから」

 わたしはカードをよく調べてみた。すこし奇妙な点が見つかった。スートは四つ、ダイヤ、ハート、クラブにスペード。だが絵札がこれまでのどんなカードとも違っていた。クラブのクイーンは眺めるたびに顔が違う。まず皇帝冠をかぶる黒髪、続いて英国風の王冠をかぶる金髪のクイーンとなり、衣装も変わる。ハートのクイーンもまた、風変わりな農婦のガウンに身を包んだ茶髪という姿から、灯火にきらめく魚鱗鎧に変化する。他のカードもまた、普通の数札までが生きているかのようだった。カードの模様のなかで映像が動いている。わたしの手のなかでクラブはスペードよりも強い数札となっていた。ダイヤの絵札は持っていなかったが、エースがあった。それがものすごく輝くので直視できないほどだった。クラブとハートのクイーン以外に絵札はなかったと思う。赤い札もほとんどなかった。スペードに少し高い数字の札があるだけだった。カードを配るのはいつもわたしの背後に座る人物だった。わたしはパートナーに言った。

 「毎回こうもひどいカードを配られたら、運も腕もあったものじゃない。勝負になりませんよ」

 「それはあなたのせいですよ」とかれ。「手持ちのカードで最善を尽くしなさい。そうすれば次にもっといいカードが来るんです」

 「なぜそういえます?」とわたし。

 「なぜなら、各ゲーム終了後、あなたがとったトリックはディーラーが持つカードの一番下に加えられ、テーブル上から取ったオナーが手に入るからですよ。うまくプレイして取れるものはすべて取りなさい。ただしもっと頭を使わなければいけない。あなたは運に頼りすぎですよ。ディーラーを責めてはいけません。かれには見えないんですから」

 「このゲームは負けでしょう」とわたしはパートナーに言った。対戦相手の二人がすべてのカードをさらっていくように思われたからだ。そしてリードがわたしに回ってくることはまったくなかった。

 「カードを出す前に点数を数えないからですよ」とパートナー。「向こうが高い数字で来るなら、より高い数字で迎え撃たなければ」

 「でも切り札はすべて向こう側にあるんですよ」とわたし。

 「それはちがう」とかれが答えた。「あなたの手のなかに最高の切り札があるじゃないですか。最初にして最後のものが。それで相手のカードをすべて総取りできる。一連のなかで最高のものだから。しかしあなたはスペードも持っている。しかも高い数の札を」(かれはわたしの手の内を知っているようだった)。

 「ダイヤはスペードより強いです」とわたし。「それにわたしのカードはほとんどすべて黒いカードなんです。おまけにわたしは計算が苦手です、あまりに頭を使いますから。こちらにきてわたしのかわりにプレイしていただけませんか?」

 かれは首を振った。きっと笑っていたと思う。「それはできませんよ」とかれ。「ゲームのルールに違反します。自分でプレイしなければ。よく考えなさい」。

 かれは最後の言葉をずいぶんと強調しながら発した。しかもイントネーションがあまりに奇妙だったので夢の残りの部分が切り離された。これ以上は覚えていない。しかしわたしは「よく考えた」。これは寓話、カルマの寓話だったのだ。

アチャム 1883年12月7日
--from Anna Kingsford's Dreams and Dream Stories (Redway, London, 1888).

 アンナ・キングスフォードの遺作『夢と夢物語』(1888)中の一篇である。文中に登場するカードゲームはブリッジである。トリック、オナー等の専門用語は各自専門書ないし専門サイトをあたられたし。「とりあえず手持ちの札だけで勝負しろ」という教えをポピュラーなカードゲームの形で表したものだが、1883年12月といえばキングフォードがヘルメス協会を立ち上げる前年である。この時期、キングスフォードは神智学協会ロンドン支部内紛の一方の立役者であり、結局翌年にはブラヴァッキーのロンドン入りとほぼ前後する形でキングスフォードの退会が決まる。

 この夢は後にメイトランドの『アンナ・キングスフォードの生涯』(1896)にて再録され、いろいろと裏話も加えられた。次々と姿が変わるクイーンたちはすべてキングスフォードの前世であり、「皇帝冠をかぶる黒髪」はマルクス・アウレリウスの皇后ファウスティナ、「英国風の王冠をかぶる金髪」はヘンリー八世の王妃アン・ブーリン、「農婦から魚鱗鎧に変わる」のはジャンヌ・ダルクであるという。対戦相手とされているのは、明言はされていないがまずもってブラヴァッキーとオルコット。キングスフォードの「パートナー」はヘルメス神にほかならない。

 事の真相はどうあれ、この夢に力づけられたのか、キングフォードは手持ちのカードすなわち西洋オカルティズムとその人脈(役立たずの黒札か?という皮肉は別として)を用いてヘルメス協会を組織していくのであった。

 左は若き日のキングスフォード。歴史に残る有名美女が前世であると主張するには、これくらいの美貌は最低必要条件であろうか。



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