ディー博士の 霊との交渉の 真相 |
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Liber Mysteriorum (& Sancti) parallelus Novalisque, Lesden May 28. 1583. |
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JとEKが座してポロニアの貴族アルベルトゥス・ラスキ殿の件を語っていた。実にかの君はわれらも恩顧にあずかるところ大であるが、身分の上下を問わず人を好まれることはつとに知られており、かの君にお目にかかりし者、お噂を耳にせし者、それぞれが君の大いなる誉れを口にしてやまない。また余の如きは実にお心にかけていただいておるため、同郷人の嫉妬羨望を買うこと一再ならず。そのようなつまらぬ炎すら鎮めておこうと心を砕かれるかの君のためにも、余は神を見ることこそ恩顧に報いる唯一の道と心得たり。するとどうであろう、突如としてわが礼拝所より霊的存在が出現したようである。それは7歳から9歳ほどのかわいい少女で、前髪を巻き上げ、後ろ髪は長く垂らしており、緑と赤に色変わりするガウンをまとい、裳裾を上げ下げして遊んでいるようだった・・・まるで余の書物のなかに出入りし、積まれた書物の上に座ったり、一番大きな・・・その娘が行くところ、書物たち自ら道を空けるような・・・ある山から次の山へと移ってゆき・・・このかわいい少女についてEKがさまざまな報告をしてくれたが・・・ △ 余は言った・・・そなたはだれの娘か? △ 娘・・・あなたはだれの人間なの? △ 余は神のしもべなり。人としての当然の義務のみならず、神の御心によりてしもべに選ばれたものと願っている。 声・・・しゃべったら、ぶちますよ。 ・・・わたしはすてきな乙女じゃなくって? あなたのおうちで遊ばせてね。お母さんもやってきてここに住むって言ってた。 △ 娘は少女らしい活発さでとびはね、ひとりで遊んでいた。ときどき別の声が書斎の隅の大きな姿見のほうから娘に語りかけていたが、娘以外の姿はまったく見えなかった。 ・・・わたしが? わかった (娘は書斎の隅の声に返事をしているらしい) ・・・もうすこしここにいさせて (隅のだれかに語りかけている) △ そなたがなにものか、教えてくれ。 ・・・もうすこしわたしを遊んでちょうだい。そしたら教えてあげる。 △ さればイエスの御名にかけて答えよ。 ・・・わたしはイエスの御名を喜ぶものなり、わたしはちっちゃな女の子のマディニよ、母さんの下から二番目の娘、おうちには赤子の妹たちがいるわ。 △ そなたの家はどこにあるのか? Ma・・・どこに住んでるかは教えない。ぶたれるから。 △ 真実を愛する者に真実を教えたからといってぶたれる道理はあるまい。永遠なる真理のまえにはすべての被造物は従うものなり。 Ma・・・それならわたしも従いましょう。姉さんたちもみんなやってきて、あなたと一緒に暮らさなければと言っていた。 △ 神を愛する者たちであれば、喜んで一緒に暮らそう。 Ma・・・神を語るあなたが好きです △・・・そなたの一番上の姉はエセメリという名前か。 Ma・・・姉さんの名前はそんなに短くない △ おお、これは失礼した。エセメーリと発音するのか。 EK 彼女が微笑んでます。だれかが、おいでと呼んでます。 Ma・・・まず自分の淑女録をよく読むつもり 間違っていたらディーさんが教えてくれるでしょう △ よかったら淑女録を読んでくれないか Ma・・・紳士録と淑女録を持ってるの、ほら EK ポケットから小さな本を取り出しました。 ・・・・・本の中の絵を指差しています。 Ma・・・この人、素敵でしょう △ その人の名前は? Ma・・・ええっと・・・かれの名前はエドワード、ほら、頭に冠をかぶってる。お母さんが、この人はヨーク公だと言ってた。 EK 本のなかにある、手に小冠、頭に大冠をかぶった人物の絵を見ています。 Ma・・・この人はイングランドの王だったときはいい人だった。 △ かれがイングランドの王だったときから、どれくらいの時がながれたかな? Ma・・・そういうことを聞くの? わたしは小さな女の子なのに。ほら、この人はお父さんのリチャード・プランタジネット、それにそのお父さん。 △ その人をなんと呼ぶ? Ma・・・リチャード、たしかケンブリッジ伯爵リチャード。 EK 本のページをめくって、言ってます。 Mad・・・おそろしい主君。この人、こわい。 △ なぜこわい? Ma・・・きびしそうな人だから。どんな人かは知らない。でも、この人はクラレンス公。この人はケンブリッジ伯爵リチャードのお父さん。ほら、その妻のアンもいる。 EK ページをめくっています。 この人がすべてのモーティマーの土地を相続する者。 エドマンドはその兄弟。 見て見て、ここに邪悪なモーティマーたちがいる。 EK あちこちページをめくって、こう言ってます。 Ma・・・この人はロジャー・モーティマー。 ・・・・・この人はマーチ一族の伯爵だとお母さんが言ってた。 この人はその妻。 妻のおかげで広大な領土を手に入れた。妻が相続人だったから。 この人は奥方の父親の、奇人ジェンヴィル。 ここはウェブレーと呼ばれる街。ここはビドリー。ここはモーティマーが治めるクライベリー。ここがウェンロック荒地。ここがルドロー。この人はスタントン・レイシー。奥方のジェンヴィルはこれらすべての相続人だった。この人は彼女の父親のヒュー・レイシー。髪を伸ばしてる。アイルランドの代理人だったから。それでこんなゆがんだ顔になってしまった。 姉さんがほかの2ページをちぎりとってしまったの。お食事がすんだら持ってきてあげるね。 わたしのこと、だれにも言わないでね。 △ 家の者から食事の時間だとさんざん呼ばれていたのだ。 |
△はディー EKはエドワード・ケリー。 緑と赤 イエス Proles ipsins Madini マディニに6人の姉妹 Dee Esemeli |
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解説 西洋隠秘学史上、もっとも有名にして魅力的なシーンのひとつ、それがこの神秘の美少女マディニ(或いはマディミ)の登場シーンである。膨大なジョン・ディーの日記のなかから、この部分を大冊の冒頭にもってきた日記編纂者メリク・カソウボンのセンスも賞賛されてしかるべきであろう。こういってはなんだが、今日までエノク魔術が命脈を保てたのもマディニのおかげといっても過言ではない。ことの真偽などどうでもよいのであって、鬱蒼たる森の如き書斎のなかを、赤と緑の光を放ちながら飛びまわる霊的美少女というイメージこそ絶妙なり。 |