宇儒破老師のオカルト相談室

このコーナーでは、魔術やオカルトに関する質問に老師が不真面目に回答するのであります


取り上げる質問は、これまで実際に老師に寄せられたものを若干編集したものです

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 質問

 生まれなきものの儀式に登場する「ケテル角」、「コクマー角」って、いったいなんなのですか? (TRKktrTRK様)

 回答

 ええ、問題の個所は『黄金の夜明け魔術全書』下巻205−210頁にあります。この儀式はGDプロパーの儀式ではなく、リガルディーがZ文書を土台に構成してみせたものです。少しあれこれ詰め込みすぎの観があり、本人も反省したのか、後年の『コンプリート・システム…』には収録されませんでしたな。

 この部分には大々的な訳注を入れるべきだったかもしれない、と少し反省しておりますわい。ようするに、ダブル・ミーニングが多用された「ちょっと嫌味な」文書なのです。リガルディーが秘密の誓いを破ってGD文書を公表した動機ないし根拠は、当時の指導者層の無知無能のために伝統が滅びるという危機感だった。少なくとも本人はそう公言している。逆にいえば、自分がどれだけGDを理解しているかをデモンストレートする必要もあったわけで、そのために行われたのがZ文書からの儀式の書き起こしだったということです。

 で、実際の書き起こしにあたっては、わざわざエノキアンを導入して、「自分はエノキアンまで修めている」とアピールする。circumambulate (周行)という言葉を「儀式場内の堂々巡り」の意で使ったり、あるいは「中央の柱術式における光と振動の体内循環」の意味で使ったりと、ちょっと嫌味なのです。

 さて、問題のケテル角、コクマー角ですが、考え方は二つあります。

 第一の無難なやつは、「高次天才」を象徴する「星幽的似姿」の中にケテルやコクマーを視覚化するという解釈でしょうな。単にケテル、コクマーと言わずに「ケテルの角」 Angle of Kether としているのは、セフィラだけでなく小径も視覚化せよという意味に解釈する。

 もうひとつの可能的解釈は、ケテル角という言葉をエノキアン的にとらえる。儀式場の四方角にエノキアン・タブレットが飾ってあることに注意しましょう。

 「ケテル角」という場合、その意味するところはエノク・タブレットのセフィロト十字の一番上の個所と考える。エノキアン・タブレットには一面あたり四つのセフィロト十字がありますが、常識的にはプロパー配属(火の火、地の地等)で選ぶべきでしょうな。

 で、儀式の手順ですが、ようするに「ケテルを頭上に強烈に公式化し、それを十字の形で均衡化する」という指示がありますでしょ。その十字を頭上に維持したまま周行して、正面にくるエノキアン・タブレットのセフィロト十字を眺め、そこにある名前を用いて自分の頭上の十字をさらに明確に公式化する。

 とまあ、このふたつが解釈として考えられる。いまひとつしゃきっと回答できないのは、ケテル角 the Angle of Kether という表現がここにしか登場しないからです。しかも元来がリガルディーの個人的記述ですから、原典と突き合わせるという作業もできませんので。

 以上、ちょいと長くなりました。



 質問

 中世のアラビア圏には魔法書と評価してよいものがありますか? (nao様)

 回答

 うーむ…(とうなりつつあわてて本棚に目をやり、ソーンダイクを引きずり出す)。

 結局ですねぇ、フィチーノやピコが参照したアラビアの作家アルキンディにしてもアヴィセンナにしても、かれらはようするに百科全書派の大学者なのであって、アリストテレスの自然科学やギリシャ天文学をアラビア語で記していた。そういったアラビア語訳ギリシャ系知識体系のうち、おもに天文占星部門がラテン語訳されて11世紀くらいに中世ヨーロッパにもたらされたわけで、かれらはアラビア本国では魔術作家ではなかったのです。

 となると、中世アラビア圏で、いわゆる魔術を魔術として研究し、かつ著作を残した人物がいたかどうか、ということですな。

 こりゃ小生にもわかりませんわ。いや、正味の話。ただ、イスラム圏ですからねえ、キリスト教圏以上にきびしかったでしょうからねえ。いたにせよ、その痕跡すら残ってないかも。

 もう仮定の話しかできませんが、中世アラビアの魔術思想や研究家たちは、いわゆるイスラム神秘主義のほうに吸収されたんじゃないでしょうか。イスラム教は、ユダヤ教もキリスト教も囲い込む形で成立してますから、その気になればカバラでもイスラム流に解釈して研究することが可能だったでしょうけど、やはりイスラム神秘主義という看板のもとで活動するほうが無難だったでしょうなぁ。

 不勉強のため、これ以上はご容赦願います。アラビア語、読めないもので、これから勉強します。



 相談

 魔術に使うタロットはどういうものを選べばよいでしょうか? (質問多数)

 回答

 余程とんでもない図柄のものでなければ、どれでもいいんじゃないか、と思われますな。

 「黄金の夜明け」団で用いられていたのはジョージ・レッドウェイ社がイタリアから輸入していたイタリアン・デッキでした。

 無論、ライダー版でもいいですし、ライダー版の元となった大英博物館所蔵のタロットなど、なかなかよい。

 理想は自分用にデザインすることでしょうが、なかなか現実には難しいです。

 O∴H∴タロットなる企画も過去にありましたが、ぽしゃりました。ウジュパだらけのタロットなど、だれが欲しがりますか。



 相談

 「力の名前」って、具体的にはどんなものなのですか? (某魔術結社団員)

 回答

 ええっとですね、ダイアン・フォーチュンによりますと、それを悪用すると「文明の方向すら変わる」という強烈なものらしいです。
 ただし、フォーチュンの記述を仔細に検討してみますと、どうも彼女の念頭にあったものはエノク語あたりのようです。

 あんなもので文明が変わるかどうかはともかく、結局は他の神名と同様、力は名前にあるのではなく、唱える術者サイドにあるようで。

 「なにを言うかではなく、だれが言うか」の話になってしまいますな。




 相談

 亭主が魔法に狂って困っています。なんとかなりませんか? (某魔術結社学習主任の妻)

 回答

 どうにもならんでしょうな。

 魔道は夫唱婦随(逆可)が理想ですが、現実は現実ですわ。
 もちろん、このままではご亭主の魂が救われないとか、そういう問題ではないわけでしょう。
 要点は、持たせるカードはタロットだけにしましょう。V*SAとか持たせると、それで本を買いますから。

 女性と比較すると、男は構造的にバカです。しかも「バカは承知の上だ」と開きなおります。

 魔法使いと結婚したのが身の不運と思い定めるしかないでしょう。



 質問 

 わが心の師匠(笑)長尾豊氏は本当に行方不明なのでしょうか? (ARARA氏)

 回答

 ま、正確にいえば、行方不明というよりは、リストラされたつーのが正解でしょうな。宇儒破老師が前面に登場しておちゃらける現状では、あえて長尾豊を使う必要性がなくなっているのです。もっとも行方不明というのがミソで、必要となればルワンダ奥地で発見されるに決まってますわ。佐渡海凌雲にはパラグアイのジャングルで秘密基地建設に従事してもらう予定となっております。



質問

 ダイアン・フォーチュンの他の小説は翻訳されないのですか? (某氏)

回答

 他の小説というと、ようするに『山羊足の神』、『翼牛』、『月の魔術』ですか。少なくともこのサイトで公開するために訳そうとは思いませんぞ。ただし、もう一本だけあまり知られていないフォーチュンの短編を発見しましたので、それは入手次第翻訳して公開したいと思っています。クリスチナ・キャンベル・トムソンが自分のアンソロジーのためにフォーチュンに特注した作品で、1937年の執筆です。



質問

 四元素の訳語は、やはり地水火風ではないでしょうか。どうして「空気」と訳すのですか? (質問者多数)

回答

 この質問、というよりも苦情も多かったですな。結局これは純粋に翻訳上の技術的問題だったのです。簡単に言うと、“AIR”に「風」を使ったら、“WIND”はどうする、という問題なんですわ。たとえば五芒星儀式文書には、“For the Easterly wind is of the Nature of Air more especially”という文章があるわけで、両者とも風というわけにはいかないでしょう。



 質問

 魔術結社に入りたいのですが、どうしたら見つかりますか? (質問者多数)

 回答

 この質問もおおかた無視しましたね。自分でさがせ、さもなきゃ作れというのが正直な気持ちでした。本当にやる気があるのなら、英国の通信教育結社あたりを手始めとすればよいのです。英語がネックという人もいたでしょうが、好きこそものの上手なれ、辞書を片手にやってのけるくらいの気概が必要でしょう。
 現在では日本国内に少数ながらハイレヴェルの魔術結社が存在しており、そこへの入団を考えるべきでしょうな。



 質問

 O∴H∴に入りたいのですが? (要望少数)

 回答

 だめ。



 質問

 クロウリーの聖守護天使AIWASSの発音はアイワスなのですか、エイワスなのですか? (某クロウリーマニア)

 回答

 固有名詞の発音は聞いてみないとわからないのが相場です。小生も以前はエイワスと表記しておりましたが、どうもクロウリーはアイワスと発音していたらしいのです。
 根拠はクロウリーの伝記であるSusan Roberts の The Magician of the Golden Dawn の277ページにある記述です。ここにはジェラルド・ヨークの言葉として、“Aiwass who dictated the Book of the Law could be more accurately named Eyewash”という表現があるのです。この語呂合わせが成立するには、もともとの発音がアイワスでなければならないのですな。


質問

 魔術を修行したいのですが、どうすればよいのでしょう? (質問者多数)

回答
 この質問は実に多かったですわ。ちなみに返事などほとんど出しておりません。なぜかというと、自分の場合を考えてしまうからです。
 自慢じゃないが、小生は他人に魔術の質問などしたことがないのです。自分であれこれ考えて調べるから楽しいのです。

 わからないから他人に質問しようという姿勢は、無論、間違ってはおりません。間違ってはいないけれど、どの時点で質問するかが問題でしょうな。
 早い話、1から10まで他人に教えてもらおうというのはふざけた話です。
 自分で9までは調べて、あとひとつがわからない、というのであれば、こちらもそれなりの対応をしますけどね。

 どうも現代社会は便利さを追求しすぎて、ドラマを喪失したようです。便利なところにはドラマがない。これ、基本ですわ。
 玄奘法師は三蔵経を読みたくて、17年かけて長安とインドを往復したわけですな。
 ゆえに『大唐西域記』が著され、さらに『西遊記』が生まれ、無数のドラマを形成していった。
 ネットでインドのサイトにアクセスして、三蔵経をダウンロードしても、なんのドラマも生まれませんぞ。



質問

 魔術を研究したいのですが、どういう本を読めばいいのでしょう? (質問者多数)

回答

 魔術や魔法と銘打ってあるものは手当たり次第にすべて読め、つーのが正解でしょうな。
 人類学、宗教、哲学、童話、民話、小説、漫画、所謂オカルト、なんでもあり。
 そのうちに眼力が養われて、なにを読めばよいかわかってくるものですわ。
 本当のところを言うと、ベスト・セレクションを組んだ場合、およそ20冊程度で魔術に関することはだいたいわかってしまうのですけどね。
 だけどそれでは面白くもなんともないわけで、関係ない書物を読むことも大事です。



質問

 魔術をやるには英語は必須なのでしょうか? (質問者多数)

回答

 できるにこしたことはない、と言っておきましょう。
 1980年代前半までは魔術文献の翻訳も少なかったため、本格的にいこうと思えば英語が必要でした。
 現在では、単に魔術を行うだけなら、日本語で充分いける状況が整ったといえるでしょうな。
 本格的に研究するとなれば英語は最低必要条件となってしまいます。



質問

 魔術を修行していることを家族に内緒にするべきでしょうか? (某魔術結社団員)

回答

 ケース・バイ・ケース、でしょうねぇ。
 だいたいの話、この道は黙して語らずが基本とされてますが、現実問題として、同居している家族にはおおむねばれますな。
 そこであれこれ説明しても、変な宗教にひっかかったと思われて、やめろといわれるのが落ちですわ。
 一番のカモフラージュは、魔術で遊んでるふりをすることでしょう。
 真剣じゃないとわかれば、家族も安心するものです。
 本気で遊んでいるなら、それが一番ですけどね。

 うちの家族などひどいもので、「あんたも悪魔に魂売り渡したんなら、金くらい稼いだらどう!」などと言いだす始末。


質問

 魔術師たるもの、やはり禁酒禁煙でしょうか? (某魔術結社団員)

回答

 そうだといいんですけどね。
 魔術云々とは関係なく、純粋に健康面の問題からいっても、禁酒はともかく禁煙は当然でしょうな。
 ところが有名な魔術師たちは、意外に愛煙家が多いのです。
 アニー・ホーニマン、パーシー・ブロックといった面々は紙巻派。
 クロウリーとリガルディーはパイプ党。
 ジェラルド・ヨークは葉巻党だったそうで。

 恥ずかしながら、小生も紙巻派ですわ。