ケルト計画関連書簡

18 Woburn Buildings
親愛なるハンター夫人、

 われわれのささやかな計画の、例の「神界」の件ですが、あれに関して貴女とご主人にご相談したく思っております。しかし今度の日曜は集会で講演することになっておりまして、残念ながら問題外です。よろしければ金曜の午前中に御宅に伺い、午後から夜まで神々の作業を行うというのはいかがでしょうか。そうすれば土曜の朝までご一緒できます。私は土曜はアイルランド文芸協会にて講演を予定しております。しかしハンター氏は日曜しか空いておられないのでしょうね。

 ブリッグス嬢にわれわれの計画を伝えております。たしかに彼女はとびきりの見者の一人でありますし、彼女もまたよろしければ土曜日に御宅へ伺いたいと申しておりました。神界のヴィジョン作業を行いたいとのことです。おそらく彼女はわたしが同伴すると考えていたのでしょうが、わたしのほうは文芸協会の件をすっかり忘れておりました。ゆえに彼女は金曜は空いていないかもしれません。

 もっとも重要なことは、神々のタリスマン姿形を仕上げることです。金曜の午後に短時間作業し、土曜の朝にふたたび行うというのはいかがでしょう。敬具。
W.B.イエイツ
 金曜でよろしければ明日ご一報ください。ブリッグス嬢の件はおよろしいように。



1898年1月1日土曜
18 Woburn Buildings
Upper Woburn Place

親愛なるハンター夫人、よろしければ次の月曜、ご主人とご一緒に拙宅においで願えませんか。仏文学批評でかなり有名なオスマン・エドワーズ、ハイデラバードの魅力的なサロージニ・チャトーパディヤイ姫(東洋の衣装でお見えになることのこと)、エマリー夫人、アルマ・タデマ嬢、アーサー・シモンズといったところを招待しております。全員、神秘主義に関心をお持ちです。おいでになられるのであれば、他の方々は八時過ぎを予定しておられますので、少し早めにお運びください。七時半あたり、もちろん正装の必要はありません。貴女とご主人に、ケルト計画の一部に関してお話したいのです。お二人のご助力をいただければ大変ありがたく思います。私は以前に構築した計画にそって活動しております。もちろん、首領連にはすでに話を通してあります。最終的に大変な運動となるでしょう。この件に関しては他のメンバーの前では口外無用にお願いします。われら全員、少々無責任な実験に手を出そうとしておりますゆえ。帰宅途中、私は多数のヴィジョンを見まして、今夜われわれが得たシンボリズムを大いに拡張いたしました。普通の人の魂は死後に水の中にとどまります。ベリーを落とすと水から発する火炎を集め、ハートの形にする。そうすると水は整った世界となるわけで、ハートの火炎をランプとしてこの世界を探求します。この水は感情と情熱の水であり、ここに関係するのは浄化された魂のみ。この水とわれらの固体的物質形態界との関係は、液状火炎の神界と固定知的形態の英雄世界との関係と同じと申せましょう。また私は、子供を運び去る暗き者フェルガスのみならず、他にも大変年老いた影をふたつ見せられました。その影は森のなかをすっとよぎります。不思議な半裸の姿で、英雄たちの影にして英雄族の最古のもの、ケテルとコクマーを表すものでした。
 私が見たとき、かれらは枯渇していて、老齢のため矮小化していました。敬具
W.B.イェイツ
コンラの魔法の井戸はヤマトネリコの根元にある。それを覗きこむ者は、ガイドを得られれば「常若の泉」に導かれるという。トネリコの実が水に落ちると、水が火に変わる。ドルイドであるコンラが井戸の守護者となっている。(ハンター夫人による注釈)。


解説:
 ここに訳出したのはその昔「歴史編」にて若干触れた“古えの神々蘇生法”に関連する書簡2通である。最初の書簡は年月日が明記されていないが、おそらく1896年あたりと推測される。注目すべき記述は「神々のタリスマン姿形を仕上げる」という部分であろう。名前のみ伝わり姿形が不明なケルトの神々に、GDで学んだテレズマ技法で姿形を与えようという試みと推測される。

 ただしGDのテレズマ技法はへブル語アルファベットに準拠しているため、それをケルト系に適用するのは問題がある。ゆえにイエイツとしては「ルーン・テレズマ」とでも称するべき別個の象徴体形を必要とするはずであるが、果たしてそこまで踏み込んだのかどうか、それを判断する材料として第2の書簡が意味を持つのである。ここに展開される「コンラの井戸」神話は、後半に登場する「子供を運び去る暗き者フェルガス」すなわちビナー、不思議な半裸の影すなわちケテルとコクマーと組み合わされて、心臓=ティファレトとして「生命の樹」の構造に合致するように解釈されている。この点から見てもイエイツはやはり「ユニヴァーサル・シンボリズム」を第一に考えており、その基本フォーマットは「生命の樹」にあったと見なすべきであろう。ケルトのケテルとコクマーは「枯渇していて、老齢のため矮小化」しているのであり、ケルトのビナーは暗き者として闇のなかを彷徨しているというヴィジョンなのである。

 なお第2書簡の日付は1月1日、内容から察するにイエイツは新年早々ハンター夫妻宅にて霊視実験を行い、帰宅後にこの手紙をしたためたのであろう。団名簿に残るハンター夫妻の住所はチジックのスタイルホール・ガーデンズであるから、イエイツが住むウォバーンからはおよそ9マイルはある。交通手段としては、とりあえずハマースミスまで列車で出て、あとは乗合馬車でキューガーデン横を揺られていくというのが一般的であろう。この小旅行のさなか、詩人はヴィジョンを得たのである。




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