魔術ビギナーのためのO∴H∴特別講座

初級メイソン編

 だれでも一度くらいは「世界征服をたくらむユダヤの秘密結社フリーメーソン!」なるアホな言辞を目にしたことがあるはずで。

 近代西洋魔術の源泉である「黄金の夜明け団」は、メイソン系の「英国薔薇十字協会」と深い関係を有しておりましたし、団員の多くがフリーメイソンでもありましたから、魔術ビギナーも一応メイソン関係の知識を得ておくほうがよろしいでしょうな。

 とりあえず歴史的なところから話を始めますか。

 ようするにヨーロッパでは現在でも職種ごとにギルド(組合)が存在しておりまして、メンバー間で情報交換や談合や相互扶助を行っている。これは別に珍しいことではない。日本でも似たような制度は多い。

 この種のギルドはたいてい入門儀式を伝承していて、それも職種始祖(世界で最初にその職業についた神話的人物)から伝統を受け継ぐという形式のものがほとんど。ぴんとこない人は看護婦さんの戴帽式を思い浮かべるとよろしい。あれは看護婦の職種始祖であるナイチンゲールから伝統の炎を受け取り、看護帽をかぶることで看護婦ギルドの一員となるという入門儀式なのです。

 さてメイソンとは石工のことでありまして、中世ヨーロッパには石工たちのギルドがあったのですな。石工とはようするに建築業者でありまして、さまざまな業種を傘下にかかえる、いまでいうゼネコンだった。その石工たちの相互扶助ないし談合を目的としたギルド、これがフリーメーソンリーの原型であったと思われる。

 すなわちゼネコンですから、たとえ石工でなくとも、なんらかの関連を有する職種であれば、やはりこの組織には入っておきたい。いろいろと利点があるはずですから。そういうわけで、石工ギルドは他業種の参加を許可しておったのです。しまいには、建築にまったく関係ない人間までが参加するようになり、組織も巨大化していったのですな。

 17世紀中頃になると、本物の石工さんたちの中には、部外者ばかり入ってくるフリーメイソンリーに愛想をつかして別組織を創立するものもでてくる始末。会員は口先ばかりで体が動かないインテリが多くなり、閑人の社交クラブと化していったわけで。

 そして18世紀。近代メイソンリーの出発は1717年、ロンドンにて四つのロッジが合同してユナイテッド・グランド・ロッジを結成したことに始まるのであります。以降、メイソンリーは英国の発展とともに世界各地に伝播していくわけで。無論、その間に多数の分裂騒動も起こし、現在では英国系、米国系、フランス系とさまざまに分かれておりますな。やってることは大同小異ですけど。

 石工ギルドはその職種始祖をソロモン神殿の建築者ヒラムとしており、ヒラム神話にもとづく入門儀式を伝承しておりました。このあたりを拡大解釈してユダヤ系だのなんだのと言い出す連中がおるのですが、西洋世界で職種始祖を求めると旧約聖書にたどりつくのは当たり前なのです。

 この入門儀式と職種始祖神話が面白いので、あれこれ研究したり新しい儀式をこしらえたりする。そういう会員がうじゃうじゃおりまして、そのなかからオカルト方面に進む者も輩出したのであります。黄金の夜明け団の創立メンバー3名は全員フリーメイソンでした。

 そういうわけで、魔術結社の構造と位階制度はメイソンリーのそれと類似しておるのです。用語や合図なども類似しているため、メイソンリー関係を学習しておくと、魔術結社の内情もわかりやすくなる。それだけ。

 現代ではフリーメイソンリーは英国のエスタブリッシュメントのひとつとなっておりまして、およそ秘密結社とはいいがたい。当代のグランドマスターはケント公マイケル殿下、エリザベス二世女王陛下の従兄弟君にあたられる方であらせられます。本部はロンドンの中心部ホルボーンに堂々とそびえたっております。

 とりあえず魔術ビギナーとして覚えておくべきは ― 

 1 フリーメイソンリーはユダヤとは関係がない。
 2 フリーメイソンリーは世界征服とは関係がない。
 3 フリーメイソンリーは人畜無害である。

 以上の3点だけでよいでしょうな。

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