魔術ビギナーのためのO∴H∴特別講座
初級心霊術編
妙な言い方ですが、魔術師たるもの、心霊術とは一線を画することになっておるのです。ゆえに初級心霊術編などはやる必要すらないのですけど、一線を画するためには、なにが心霊術なのかをはっきりさせる必要もあるわけで。
歴史的にいいますと、近代心霊術は1848年、米国はニューヨーク州ハイズヴィルという街で発生した一連のラッピング騒ぎに端を発するのですな。
で詳細はともかく、アメリカでは心霊術が大変なブームとなった。またD・D・ヒュームという伝説的な霊媒がとてつもない離れ業をやってのけるなど、話題には事欠かなかったのですわ。魔術研究者といえども、フォックス姉妹、ヒューム、フロレンス・クック、ユーサピア・パラディーノ、パイパー夫人といった著名霊媒の名前くらいは覚えておくべきでしょうな。
心霊術は主に霊媒を迎えての降霊会(セアンス)を活動の中心としておりまして、テーブル・ターニングやプランシェットといった形式で霊と交信する。あるいは物質霊媒がエクトプラズムを放出して霊の物質化をはかる。いずれにせよ、無数の詐欺やインチキの遊園地と化したわけで、本物の心霊現象はきわめて少なかったと思われる。
1880年くらいになると、心霊術の客層は二極分化しておりまして、「死んだ主人に会いたい」とハンカチ片手に泣き崩れる未亡人たち、および魂の死後残存を科学的に証明したい学者たちに別れておるのです。この両者が共同してやっていけるはずもなく、前者は心霊術教会という宗教組織に変化し、後者はSPR(心霊調査協会)となって心霊現象を科学的に検証するようになりました。
近代魔術の源泉たる黄金の夜明け団では、心霊術は危険かつ欺瞞であると見なしており、団員に対しても魔術と心霊術を混同しないよう注意を与えておりました。黄金の夜明け団では来世観など整備せず、まして死者との交信などはご法度とされておるのですわ。
とはいえ、団員の大多数は、一度くらいは心霊術にはまった時期があるわけで、油断しているとすぐに心霊術的実践に手を出してしまう。自動筆記、プランシェット等も魔術的装いのもとに団内に侵入しておりますわ。
魔術と心霊術の違いを一言でいうなら、魔術は性悪説、心霊術は性善説に立っているということでしょう。魔術は基本的に防護から入る。追難儀式等で守りを固めてから召喚なり喚起なり、魔術作業をはじめます。「相手の正体も確かめずに霊的接触を図ると低級霊に憑依される」からですな。霊的存在の見分け方、敵味方の識別法も設定されている。さらにはしょうもない存在が登場した場合に備えて霊的攻撃法(ホルスの合図等)まで揃えている。魔術に用いる道具も“ウェポン”と称するくらいで、ようするに武装しておるのです。
一方、心霊術では霊を基本的に善の存在と規定しており、霊を張り倒すための技術など存在しない。いわば丸腰。
どちらがいい悪いの問題ではなく、結局は好みですけどね。
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