モーリスの魔法円

 マジカル・グラフィティの記念すべき第一回として紹介致しますものは、以前タロット雑記帳でちらりと触れたことがあるモーリス・ビーチクロフト関連であります。読者さまの便宜をはかって当該個所を引用しましょう。


2001/1/16

 GDメーリングリストで「形成の書」が話題になっており、自分でもなにか投稿しようと思ってネタを探していたところ、妙なものを発見。ウェストコットの英訳「形成の書」はもともと1886年に「ヘルメス協会」で発表されたものであるから、ここはヘルメス協会を洗い直そうとアンナ・キングスフォード関連を調査。彼女の代表作である『パーフェクト・ウェイ』を手にしたところ、それまで本を包んでいたダストジャケットが外れ、装丁があらわになった。小生の蔵書は1890年のフィールド・アンド・テュア版だが、濃紺地の表紙にエンボスで、四隅に四聖獣、中央に「月を足元に置き、太陽を身にまとう女」が描かれていて、見るからに大アルカナの『世界』である。裏表紙は六芒星。タロットをモチーフにした装丁と考えてまちがいないであろう。

 さらにわが蔵書には前の持ち主のサインとイラストと蔵書票が入っている。そのモーリス・ビーチクロフトという名前に見覚えがあったので、もしやと思ってギルバート翁の『ゴールデン・ドーン・コンパニオン』で調べてみると、はたしてウェイトの Independent and Rectified Rite のメンバーであった。ギルバート翁のメンバーリストには、ビーチクロフトの項に「モットー不明」と記してあるが、小生の蔵書にはビーチクロフトのラテン語のモットーを記した蔵書票が添付してある。このラテン語がビーチクロフトの魔法名ではなかろうか。そうだとすればささやかな発見である。


参照 : R.A.Gilbert, The Golden Dawn Companion (Wellingborough : Aquarian Press, 1986) p.172

 モーリス・ビーチクロフトは1909年3月にIRR参入を果たしていて、1911年には奥方のペイシェンスもIRRに入っています。しかし、それ以外のデータはまったく不明でありまして、それはしょうがないことでもあります。イェイツやクロウリーといった有名人でもないかぎり、詳細な個人情報が保存されるわけがない。ただ、いかなる偶然か小生の手元にはビーチクロフトの署名及び肉筆イラスト入り古書があるわけです。

 本来であれば、個人の署名をネット上で公開するなど、とんでもない話です。しかしビーチクロフトの場合、1911年にIRR参入というのは、もはや歴史上の出来事といってよいと思います。またIRRのメンバーが残した魔術的イラストはそれなりの資料価値があると判断し、公開を決定いたしました。





 筆者蔵 Anna Kingsford & Edward Maitland The Perfect Way (London : Field and Tuer, 1890) の見返しに残されたビーチクロフトのサインと魔術的イラスト。

 イラスト中央の人物はロータス上のホルス。
 円周に十二宮記号。
 四隅に鍵十字、五芒星、六芒星、円周から12の炎を放つマルタ十字。
 天秤上には羽毛と心臓。極細線による七つの同心円。

 赤インクで仕切った右コラムにへブル文字アレフ、メム、シンすなわち空気、水、火の三元素。光を表す十字状の効果線あり。


 同上本にあるビーチクロフトの蔵書票。

 NON INTEMPERATUS SED FIRMUS というモットーが刻まれている。過激に走らず、堅実に程度の意味か。

 囲いの向こうの樹木というデザインの意図はいまひとつ不明。




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