ALTHEA GYLES (1868-1949) |
オルセア・ジャイルズ アイルランド出身の画家、詩人、装丁家。 アイルランド、キルマリー郡の名家に生まれる。母親は英国貴族グレイ家の一門という良家の子女。 少女時代、ダブリンにて美術を学び、長じてこれを職業となさんと欲するも父親の頑強な反対にあい、家出を敢行。 しばらくAE等の共同宿舎に滞在し、その後ロンドンに出てスレード美術学校に入学。 1895年前後からイエイツの詩集の装丁を手がけ、評判を博す。1898年には総合美術文芸誌『ドーム』にて作品4点が紹介され、イエイツによる解説文がつけられる。 1899年、出版業者レナード・スミザースの情婦となり、文芸仲間から白眼視される。スミザースのもとでワイルドの詩集『娼婦の館』の挿絵を担当。 1901年、スミザースと切れる。以後、詩を何編か発表するも注目されず、世間から忘れ去られ、後援者に迷惑をかけつつ入退院を繰り返す。最終的にロンドンの介護施設にて死去。 |
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「階下には絵画と詩歌のことしか考えていない奇妙な赤毛の娘が住んでいた。絵画と詩歌を『シンポジウム』にあるような“愛”と“貧苦”といった抽象的イメージで捉えており、アジア的熱狂をもって献身していた。エンジニア氏は気がついていた。彼女は家具があるのかないのかわからない部屋のどこかで飢え死にしかけていた。食費が一日一ペンスを超えないようにパンとココアだけで何週間も過ごしていたからだ。生まれは田舎の名門である。あまりに誇り高く振る舞うため近所では“ロイヤル・ファミリー”と渾名されていた一家だった。彼女は頭のおかしい父親と仲たがいしていた。「だれとも酒を酌み交わしたことがない」男、という店子の証言もあるが、それはともかく娘のほうは美術をやりたかったわけで、それで家出をしてしまった。とりあえず懐中時計を売ることで食いつなぎ、その後はアイルランドの某新聞にときおり記事を売っていた。数週間、彼女はどこぞの貧乏な女に週半クラウンを払って美術学校への送り迎えをしてもらっていた。ちゃんとした娘は付き添いなしで公の場に出てはいけないと思っていたからである。しばらくたつと学校の授業料すら払えなくなった。しょうがないのでエンジニア氏が妻の付き添い役として娘を雇い、もう一度勉強を始められるようにお金をくれてやった。彼女は才能と想像力を持っていた。独自のスタイルを確立する天賦の才もあった。しかし彼女は、寓意としての絵画と詩歌のためなら死も厭わない覚悟がありながら、自分自身の天才を憎悪していた。若くしてその憎悪を克服できるほど周囲から誉められたことも共感されたこともなかった。絵の具とカンヴァスを前にしても、紙とペンを前にしても、彼女が眼にするものは自身の天才ではなく、天才の反面というべき残酷性であった。結局彼女は朝飯前にあれこれ込み入った用事をつくりだして義務となし、その日学校に行かない言い訳にしてしまうため、しまいにはまったく学校にいかなくなった。馬鹿じゃないかとあざ笑う人が大部分だったが、わたしは共感しながら眺めていた。著作のおかげでわたしの神経は緊張し、睡眠も阻害されていた。とはいえ数世代にわたって(アイルランドでは記憶が遥か昔に及ぶ)わたしの父方の先祖がなんらかの知的探求をなしていた頃、彼女の先祖は鉄砲を撃って狩猟をしていたのだ。彼女はその気になればいつでも安楽な普通の女性の生活に復帰できたはずだった。父親が反対している職業をやめればよいだけだったのだ。美術だから反対というのではなく、娘が職業に就くことそのものに反対という父親だった。その後彼女はエンジニア氏の妻と喧嘩してしまい、またぞろパンとココアの生活に戻ってしまった。わたしはダブリンの某商人に話をつけ、かなり割のいい宣伝の仕事を彼女に紹介してやった。芸術的創造よりもずっと苦労せずにすむ仕事だった。しかし彼女は宣伝の絵など芸術の堕落であると言い放ち、わたしにわざとらしいお礼を言いながらも憤慨を隠そうとしなかった。彼女は嬉々として飢え死にの世界に戻っていったと思う。常時貧血状態というのは、なんらかの寓意的イメージが閃いたとき良心を沈黙させるに十分な根拠であったし、それ以外にも飢餓と悲惨は彼女の崇拝儀式の大部分を占めていたからである」 |
Yeats, Autobiographies (London: Macmillan, 1980), pp.237-8.. |
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Sympathy | ||
The colour gladdens all your heart, you call it heaven, dear, but I -- Now Hope and I are far apart -- Call it the sky. I know that Nature's tears have wet The world with sympathy, but you -- Who know not any forrow yet -- Call it the dew. |
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ALTHEA GYLES The Dome. |
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Poems by W.B. Yeats. T. Fisher Unwin, London, 1913. 140mm*215mm. 314pp. 1901年初版の『詩集』の1913年版。周囲を葉に囲まれた薔薇十字、樹木と一体化する女性といったオルセア特有の美意識がよく表現されている。 |
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The Shadowy Waters by W.B. Yeats. Hodder and Stoughton, London, 1901. 170mm*240mm. 57pp. 『影の海』の1901年第二刷。散りゆく薔薇と花弁をあしらった簡素な装丁。 |
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THE LOVE-CHILD | ||
An outcast mother laid her child Under earth's icy mould. Her bitter cry froze on the wild North wind : "How cold! How Cold!" God's angles drew that babe Love-blest Out ouf the bitter storm, And laid him upon Mary's breast : "How warm!" she said, "how warm!" |
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ALTHEA GYLES The Kensington, vol.I., no.5 |
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THE HEART-SHAPED SPACE BETWEEN THE TREES |
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O heart-shaped rose-fiiled space between The Trees of Knowledge and of Life, In that delirious moment seen When passionless peace is turned to strife, How fair before those eager eyes The rose-bowered path from Paradise ! O heart-shaped, thorn-filled space between Thre Trees of Sacrifice and Pain, So from the hither side is seen The old Land whereof our hearts are fain, How hard before those tear-blind eyes The thorn-shaped path to Paradise ! |
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ALTHEA GYLES The Kensington, vol.I., no.6 |
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Pierrot | ||
O some there are who bury deep Lost joy in a grave far out of sight, Saying, "O trouble me not,but sleep In silence by day and night." But I have left my joy to stray Alive in the wood of my Delight, Where the thrush and the linnet sing by day And the nightingale by night. But I - I wander away, away Far down where the high road stretches white, And i laugh and sing for the crowd by day And weep for my heart by night. I wait for the Hour when Death shall say : "O come to the wood of thy Delight, Where thy Love shall sing to thee all the day And lie on thy breast all night." |
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ALTHEA GYLES The Venture, 1905. |
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An Old Iron Cross Wrought With Lilies And A Rose. | ||
All who look upon this thing see Love conquer suffering! All who weep and all who pray See the hard cross fade away. -- see the Dawning of the Day. (O come and look upon this thing.) Peace of lilies where those Hands Stretched with healing o'er all lands. Lilied Peace above the Head. And where Holy Blood was shed Haloed by the rose's red. (Break our heats, O tender Hands.) This white Peace and this red Joy Griesf is powerless to destroy. And the gold Heart of the Rose! -- Known alone of him who knows This the Cross whereon it glows! (Give us Peace and Give us Joy). . ・ ・ ・ ・ ・ ・ Long dead Artist, what Divine Sorrow made you give the sign Of God's Love, where we behold Not black Iron, hard and cold. But white, red, and burning gold. This you made and left no clue By what name to pray for you. White and Red, yea even Gold. -- Even the Rose's Heart of Gold. |
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ALTHEA GYLES The Saturday Review |
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To the Band of Servers | ||
In ways that seem but dark and desolate You lead with light, O Souls of great Desire, Lifting Day's torches till the blind who wait In Darkness see, and seek the Fount of Fire. As Winds of Dawn, blown through the Wilderness World-wards, you sing, till the deaf hear, and long, And leave the silence, striving to possess The Message and the Rapture of that Song. Pilgrims of Love! who on the barren sands Give your Heart's Blood for those who faint and fall, Into those emptied cups Angelic hands Pour down the Treasure of the Holy Grail. |
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ALTHEA GYLES The Herald of the Stars. |
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fictional accounts |
As "Hypatia Gay" ハイパチア・ゲイはその午後、自分の描いた作品を数点、ボンド・ストリートの出版業者に持っていった。この業者は病気で飲酒で膨れあがったような男であり、だらしない唇は常に悪意を帯びていた。厚ぼったい眼は害毒の光を放ち、頬は名も知れぬ吹き出物や腫瘍で爆発寸前というありさまであった。 彼は娘の絵を買い取った。「それほど出せはしないんだが」と彼は説明した。「わたしは有望な若い芸術家を援助するのが好きなのだよ。お嬢さん、あなたみたいな人をね!」 彼女は汚れを知らぬ鋼のような瞳を、怖気づくことなく疑うこともなく彼に向けた。獣は萎縮してしまい、恥知らずな忌まわしい微笑を浮かべて邪心を隠蔽した。 その抱擁は恐ろしく冷たかった・・・それでも地獄の手が彼女の心を握りしめ、怖いほどの喜びで満たした。彼女は駆け寄った。骸骨に腕を回した。その若い唇を骨の歯に寄せ、接吻した。 第二のものは出版業者からの私信であり、もっと絵を見せてほしいとのことであった。頭がくらくらするし、自暴自棄にもなっていた。彼女はポートフォリオを手にして、ボンド・ストリートにある出版業者の事務所へと出かけた。 出版業者は彼女の目のなかに完璧な堕落の光を認めた。彼の顔に鈍い血色が宿った。彼は唇を嘗めた。 |
from "At the Fork of the Roads"by Aleister Crowley |
As "Ariadne Berden" アリアドネはパリ時代を回想した。美しく見せることはできるが、いつもとはかぎらない。だれかが自分のことをそう評していたことを思い出した。気に入っていた台詞だった。いつも美しく見せる。それではあまりに単調だろう、と台詞の主はつぶやいていた。「あなたは素敵な薄汚い悪党よ」、そう言って彼にキスをした。この回想は明らかにアリアドネの表情に浮かびあがっていたのだろう。クレアは友人の感情の振幅をいつものように観察していた。長年つきあってきたので、美点も短所も十分に知っていた。もうアリアドネに友人と呼べる人間がほとんど残っていないという事実も思い知らされていた。苦々しいまでに。クレアはパリを知っていたし、腐っているとも思っていた。そしていつも美しいとは限らないと指摘した男とアリアドネの恋愛沙汰は、クレアとアリアドネの友情に暗い影を落す要素のひとつであった。常に恋愛の味方のクレアであったが、アリアドネは妥当な線の崇拝者たちを慎み深くも軽蔑しつつ、結局は高度な知性と道徳の欠如と鮮烈な想像力を持ちあわせる卑俗な野獣の手に落ちた。つまるところアリアドネもそれを待望していたのであろう。この野獣はパリの例の界隈にあってすら最悪の評判を博していた。アリアドネは所属階級から追放された。向こう見ずの陶酔の一年間が過ぎ、情事も幕となった。情事から得た霊感をもとに作品が数点生まれたが、アリアドネは壊れた。 |
from Tatting by Faith Compton Mackenzie |
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books designed by Althea Gyles |
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W.B. Yeats, The Secret Rose, Lawrence and Bullen, London, 1897. | |
W.B.Yeats, Wind Among the Reeds, Elkin Mathews, London, 1900. | |
W.B. Yeats, The Shadowy Waters, Hodder and Stoughton, London, 1901. | |
W.B.Yeats, The Celtic Twilight, A.H.Bullen, London, 1902. | |
W.B.Yeats, Poems, T.Fisher Unwin, London, 1913. | |
William B. Yeats and Lady Gregory, The Unicorn From the Stars and other Plays, The Macmillan Company, New York, 1908. | |
Matthew Russell, Idyls of Killowen, James Bowden, London, 1899. | |
W.B.Yeats, The Major Works, Oxford University Press, Oxford, 2001. 表紙に用いられているイラストは本来『葦間の風』の表紙としてオルセアが描いたもの。 この絵は後にセシル・フレンチが購入し、現在は大英博物館に寄贈されている。 |
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bibliography The Pall Mall Magazine vol.IV., London, 1894. The Dome vol.I, The Sign of The Unicorn, London, 1898. Oscar Wilde, The Harlot's House, Maturin Press, London, 1904. Fletcher, Ian, W.B.Yeats and his Contemporaries, Harvest Press, Brighton, Sussex, 1987. Nelson, James G., Publishers to the Decadents, Rivendale Press, High Wycombe, Bucks, 2000. Adams, Jad, Madder Music, Stronger Wine, I.B.Tauris, London, 2000. Yeats, W.B., Autobiographies, Macmillan, London, 1980. - - - - - -The Major Works, Oxford University Press, Oxford, 2001. - - - - - - The Collected Letters of W.B.Yeats vol.II, John Kelly ed., Clarendon Press, London, 1997. Crowley, Aleister, "At the Fork of the Roads" in The Equinox vol.I. no.1, London, 1909. Mackenzie, Faith Compton, Tatting, Jonathan Cape, London, 1957. |
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