西洋魔術博物館 収蔵品 No. 3

中世後期手彩色詩篇時祷書零葉

「ドラゴン・リーフ」




詩篇時祷書零葉

1240年頃、フランス(アミアン?)。初期ゴシック詩篇時祷書リーフ(155*115mm)。14行ラテンおよびフランス語。ヴェラムに手彩色、暗褐色のゴシック文字。艶金の頭文字、10本のラインエクステンダー。

レクト右マージンに「好機」の特徴を併せ持つ青金の有翼人面龍。


ドラゴン・リーフ 1300x1850ピクセル 750Kbyte 画像 別ウィンドウにて開く

解説

 このリーフはアーリー・ゴシックすなわち13世紀半ばにフランス北部アミアン近郊にて作製されたと考えられている。

 分類としては詩篇時祷書 Psalter-Hour に属するもので、材質はヴェラム、14行からなるラテン語とフランス語のゴシックスクリプトに艶金赤青の飾り大文字、ラインエクステンダー、そしてマージンにドラゴンが独立した形で踊っている。

 このドラゴンは有翼であり、また両足下に球を有し、長い前髪をなびかせる女性の顔を持つ。すなわち、「好機」 Occasio の特徴を備えたきわめて珍しいドラゴンであるといえる。

 「好機」 Occasio は「運命」 Fortuna と混同されることが多い。「好機」は玉の上に乗り、翼をつけ、前髪が長く、後ろ髪はほとんどない女神とされる。玉に乗るのは常に変転する様子を示し、翼があるのは一瞬にて飛び去ってしまうからである。こちらに到来するときにのみ捕まえられるよう前髪が長く、後追いしようとしても後ろ髪はない−−それが好機、英語では Chance ともいう。その図像は昔から結構描かれている。有名なところとしてアルチャーティの『エンブレマータ』(1531)収録の木版、およびベッリーニ(c1430-1507)の『好機』を出しておく。



Alciati Bellini


とりわけベッリーニの「好機」は「ドラゴン・リーフ」に似通う部分が多いといえる。

13世紀にこのドラゴンを描いた絵師の意図は定かではないが、おそらく黄道十二宮の中心上空にて回転する「りゅう座」に運命と好機を見出したのではないか。

ともあれ「ドラゴン・リーフ」は中世における「好機」の表現として希少かつ貴重な資料であろう。




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