続・Zの悲劇

How to abuse Z2
( and rule the world)


 Z2文書“霊的発達”のW項目にいわく−

 「そして達人たるもの、覚えおくべし。ここに記されたる過程は、なにがあろうとも他人の高次の魂との接触に応用してはならない。そのような真似をすれば、錯誤、幻覚、発狂にすら至るであろう」

 すなわち悪用を禁じておるのですな。

 しかし禁じ手なればこそ効果があるというもので、実はこれ、具体例があるのです。

 時は1900年4月下旬、クロウリーの介入によってロンドン第二団とパリのマサースの関係は完全に決裂、いわゆるブライス・ロードの戦い(第二団専用室占拠事件)が終わったあたり。ロンドンの達人たちもたいがい頭に血がのぼったとみえ、とにかくクロウリーを処分するべくずいぶんな行動に出ておるわけで。

 1900年5月頃、イェイツがジョージ・ラッセルに宛てた書簡にいわく −

 「このところのマグレガー相手の戦いは、わが陣営の霊視者と霊術者にとってはささやかな勝利となった。当初の状況では、法的に見ても実際的に見てもただちに行動を起こすべきであったのだが、われわれの霊視者は様子を見ようと言ったのだ。待っていればそのうちにマグレガーが“とんでもない真似”をやらかすだろうから、そうなればどっちつかずの連中もはらをくくるだろう。先に動いたほうが大惨事を招くであろうと。そこでわがほうが待機していると、かれは驚くべき振舞いを見せるようになり、しまいには自分の代理として口にするのもはばかられる狂人を送りこんできた。われわれの調べでは、この口にするのもはばかられる狂人には情婦がおり、かなりの金銭をしぼりとられているという。わがほうの霊術者数名が、おそらく師匠にお伺いをたてたあとでと思われるが、この情婦を星幽的に呼び出し、狂人と手を切るよう命令した。二日前(というか、喚起作業から二日後)、この女性は某団員のもとにやってきて(彼女は彼が団員であることは知らなかった)、完璧な中世風悪行談や拷問の話をし、さらにはスコットランド・ヤードに届けを出して証言を書きとめてもらうことに同意し た。われらの霊術者はそれ以前に彼女とはまったく面識がなかったし、彼女もまたわれわれとはいっさいいかなる関係もなかったのである。この件およびその後に生じたあれこれは、こういった微妙な領域でも系統だった訓練が役に立つという明確な証拠である」 (The Letters of Yeats, edited by Allan Wade, Rupert Hart-Davis, London, 1954, pp343-344)


 この件に関するクロウリーのコメントとしては −

 「わたしがマサースの特別全権大使としてロンドンに到着すると、ひよこの群れを猫が襲ったような騒ぎとなった。大使の正体がわたしであるということもすぐに発覚し、コップのなかの嵐はいよいよ激しさを増したのである。反逆者たちはありとあらゆる無法な暴挙に訴え、なんとも愚劣な醜聞を流布してまわった。それもわたしだけでなく、マサースに忠誠を誓っていた数名に関するスキャンダルすらでっちあげたのだ。とある純潔無垢な乙女に対して、わたしと不純な関係にあるとの噂を流し、彼女の名誉を毀損することすら恥ずかしげもなくやってのけたくらいである。彼女は婚約中であったから、これはとりわけ最低であったといえよう。W・B・イェイツのような人々ならば、こういった手口はきっぱり捨てて、正々堂々と戦おうと主張すべきだっただろうに、そうしなかったのは今日にいたるまで理解できない」 (The Confessions of Aleister Crowley, RKP, London, 1969, pp.196-197)

 ようするにマインド・コントロールの一種といえるでしょうが、通常のそれとはちがい、相手に直接会うこともなくコントロールするというのであるから凄まじいというかなんというか。

 イェイツが語っている霊術者たちとは、当時の面子から察するにおそらくピューレン・ベリーとブラックデンあたり。でもって、この武勇伝はその後《暁の星》団で語り継がれたと思われますな。

 さらにいえばフォーチュンのタヴァナー・シリーズの1篇、『盗まれた儀式書』もこのエピソードの影響を受けておるのでしょう。

***

 元祖GDのメンバーがどういう魔術を行っていたのか、実は記録が乏しいのですな。イェイツはあれこれ書き残してくれましたけど、Z2を知らないともうちんぷんかんぷん。

 小生がこれまで調べてきた範囲でいえば、意外にあっさりした魔術が多いようですわい。



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